人類の知らない遥か遠い銀河系。物体に擬態する金属生命体『トランスフォーマー』達が住む
サイバトロン星が存在する。
そこで繰り広げられた彼らのエネルギー資源『エネルゴン』を巡る争奪戦はオプティマス・プライム率いる
正義の軍団『オートボット』の勝利で幕を閉じた。
しかし・・・戦いは終わっていなかった。
―――それから数百年後。
トランスフォーマーの命の源『オールスパーク』が発見されたことにより再び戦争は開始された。
前回の戦いにより弱体化したはずの悪の軍団『ディセプティコン』を率いる新世代の破壊大帝
リベルトロンが先頭を切って猛攻撃を加えた。一度勝利を収めたオートボットだったが、
内部から裏切りが発生し、士気は下がる一方。
とうとうオートボットはディセプティコンに我が母星を支配されてしまった。
オートボット新世代・総司令官アヴェルデの命よりディセプティコンから死守すべく、
若きトランスフォーマーの戦士が宇宙を飛び立った。
だが、敵の追手に深手を負った戦士は引き寄せられるかのようにある惑星へ墜落した。
惑星―――人類が暮らす『地球』である―――。
Trans Human Formers
幼い頃から『霊』という存在を目にしていた。霊媒であった母譲りであろう。
しかし、彼女はそれらを霊だと区別できなかった為、霊が視えることは『普通』であった。
それが悪くも、幼い頃から孤独の道へ進むハメになってしまうことになるとは―――。
「なんて気味の悪い。」
「かなり頭の痛い子だ。」
「何それ。」
「皆の気を引きたいだけでしょ。」
「霊感女。」
それが今でも続いているのだから尚更だ。暗い闇の中で顔を俯く。早く終わってくれと言葉の刃に耐える。
ようやくその言葉の連鎖が止まったと同時に光が差し込まれた。
***
「すげェ眉間にシワ、寄ってんぞ?」
霞んだ視界に映る男・蔵人雅紀は私の顔を見るなり、くしゃりと笑う。
いつも遅く帰って寝起きの悪い彼が私より早く目覚めるなんて珍しい。
瞼を伏せて「いつもの夢を見てた。」と言えば蔵人は眉を顰める。
気まずい空間から抜け出そうと体を起こす。
「朝ご飯、今からやるね。」
そう言うと硬直していた蔵人は我に返り、「あ、ああ・・・。」とようやく口から吐き出した。
***
マンションから出て数分後。浅い川を挟んで建ち並ぶ住宅街。
桜並木で華やかだったそこはすっかり葉を象徴させる緑だけの染色に変わっている。
この道を途中まで彼と通うのが日課でもある。仕事の都合で一緒に行けない時もあるのだが。
「じゃ、気をつけてな。」
「おじさんも。」
ここで別れていく所なのだが蔵人の様子がいつもと違う。真剣な表情で名前を呼ばれ、思わず肩が強張った。
「どんなことがあっても、俺がついてるからな。」
きっと今朝の件についてだろう。幼い頃から面識がある彼は彼女の心情を察知しての言葉を発っした。
ほんの少し間を空きながらも面と向かって彼女は頷いた。
それを満足げにニカッと笑うと蔵人の背中は視界から消えるまで遠のいていった。
彼の姿を見届けると思わず溜息ついた。もう何年も続いていることなのに未だに慣れない。
もう気に溜めないと決意したこととは裏腹に一人で学校へ行くとなると気が重い。
だが行かなくては前へは進めない。蔵人にこれ以上不安にさせたくない。
体に言うことを聞かせようと奮い立たせ足を前へ押し出す。その道中に何人か同じ制服姿を見かける。
彼女の先頭を歩く女生徒に横から声を掛ける別の女生徒。何回か言葉を交わしながら前を行った。
朝にふさわしい爽やかな登校風景。それに比べ、彼女の姿は周囲から見れば何処か暗雲が立ち込める雰囲気だった。
今思えば、あの騒動から気軽に話せる友達がいない。本人が望んでもいないことが現在実際起きている。
共に登下校する友人がいない『現実』に彼女、は再び溜息をついた。
***
―――同時刻。警視庁。
蔵人は気だるい体を目覚めさせようとコーヒーを一杯片手に、
設置されているテレビを覗き見していると同僚に軽く肩を叩かれる。
「よっ。」と片手をあげる男に蔵人も同様に返した。
「何か落ちたんだってな。」
「また隕石か何かじゃねェか?」
蔵人はそう発するとテレビに映し出される映像を見ながらカップに口をつける。
現場のアナウンサーが防災ヘルメットを被り、抉られたようなコンクリートの道路を駆けていく。
蔵人らのいる所から遠く離れた県外である。アナウンサーの目の先には何かが森に蹲るような固まりがあった。
テレビから"悪夢の再来"と聞いて二人はそちらから視線を外した。
「悪夢・・・10年以来だな。」
「だな。それはそうとちゃん・・・だっけ?今、大丈夫なのか?」
「あ?ああ、今ん所体に大事はねェよ。」
「そりゃあよかった。あん時の放射能数ハンパなかったからな。」
時は遡ること10年前―――。
ある日突然謎の隕石が墜落し、その場を中心に激震が走った。
距離とは関係なく外に出ている者達に容赦なく危険数値の放射能が襲った。
まだ蔵人と同居して間もないが偶然窓から身を乗り出した為、一時意識不明に陥っていたのだ。
幸い体に異常は見られなかった為、今でも普通に暮らしているのだが。
「あいつも今、授業中だからな。
通っているとこは外での運動は基本的にやらねェから直接浴びることは多分ない。」
「二度も同様にあったら次はわからねェからな。」
彼女の身を案じてくれる僚友に感謝すると何やら中継側が慌しくなっていた。
例の固まりが忽然と消えていたのだ。突然の状況に訳がわからない蔵人達に嫌な予感が押し寄せていた。
***
一時限目が開始されるという中、突然体の不調を感じた。
腹痛や頭痛といった症状ではなく、自分でもよくわかっていない。
ただ今までこんな状態に陥った覚えがあるのはあの日。
不安になりつつ、無意識に保健室へ足早く向かった。軽くノックして奥にいる保険医の声を待った。
だが一向に返事は来ないまま、は首を傾く。
ドアを引いて恐る恐る中を覗くが、当の本人はおらず物抜けの殻だ。
今日は出張なのだろうか。今更引き返すことはできない。
上手い言い訳を考えておこうと冷たいシーツで横になった同時に体が突然熱を上げた。
まるで体中が燃えるかのように。だが一瞬だった為、驚いて飛び上がった時には何ともなかった。
しかし、その直後に保健室が激しい揺れを起こし、しまいには全ての窓ガラスが飛び散ったのだ。
嵐が過ぎ去ったような酷い有様には呆然と固まっているのをよそに、嫌な音を耳にした。
まるで岩を削っているかの如くギシギシと砂が漏れる中、今度は窓ごと壁が崩壊した。
今回は相当の地震だなあ・・・。運良く命を拾ってホッとしたのも束の間、大きな影がを包み覆う。
ふと窓側へ視線を向けたのを後になって後悔した。
<オールスパークはどこだ?>
黒ずんでいる黄色い機械のようなボディ。
複雑な形をしていて見た目は巨大なロボットに見えるのだがその大きさは人間の数十倍。
大雑把に言えば校舎を簡単に破壊できそうな巨体である。眼らしき赤い視線が硬直したを捉える。
<死んだのか?>
重く圧し掛かる勢いで近づくとようやく我に返ったは後退するも勢いに適うはずもなく尻餅をつく。
一体どういう見方をしているのか聞きたいが、何をされるかわからず言えないでいた。
<もう一度言う。オールスパークはどこだ?こちらに寄越せ。>
「オー・・・え・・・?」
聞き慣れない単語には間の抜けた声を漏らす。訳がわからないと表情にロボット(仮)は巨体を揺らし始める。
その震動にの体も震えていく。
<早くしろ。潰されたいのか。>
苛立ちを露わにする声色と鋭い眼光に背筋が震えた。今まで遭遇した霊とは違う感覚には戸惑った。
目の前にいる奴はチラつかせるフックで容赦なく殺す気だろう。
だが生憎オールスパークというのに心当たりが一つもない。正直に言った所でちゃんと通じるかどうか謎だが。
<彼女から離れろディセプティコン!>
選択を迫られている状況に視界から黄色が消えた。派手な音を轟かせ激震が走る。
腰を抜かして情けない姿で這いずりながら外の様子を伺う。
砂煙から姿を現したのは最初に見た黄色のロボットではなく、
それよりも若干小柄に見える茶黄色の機体にある赤い線。
手・足・胴・顔らしき出で立ちに先程のロボットの同類ではないかと見た。
だが両者との間に流れるのはこちらから見ても穏やかなものではない。
互いに戦闘態勢に入った途端、後から現れたロボットがこちらに振り向く。赤ではなく澄んだ青の眼。
<今の内に逃げるんだ!>
その力強い声にムチを叩かれ、はようやく室内へ出た。
その直後、保健室であった場所が無くなり、訳のわからない現状に目眩を覚えた。
それが、『非日常』への始まりであった―――。