『存在変換』の最終テスト当日。
人間からトランスフォーマーに変わるまでの平均タイム以内に合格すれば本格的な戦闘訓練に入れるのだ。
それだけあって全員が合否の結果を見届けるべく、一つの室内に集まっていた。
「調子はどうだい?」
「良好です。」
「リラックスしてね。」
「坊やをギャフンと言わせてやりなさい!」
各々の言葉をもらい、気合いを入れようと両頬を叩く。これで気が引き締まった。
<何で人間は自分の頬を叩くんだ?自分を痛めつけるクセか?>
<彼らの言う緊張を解す行為の一つだそうだ。>
ちなみに彼女が着用している服はいつもの制服ではない。
鋭利なもので引っかかったり、破れたりすることはないと言うメディカルスーツだ。
見た目は黒い全身タイツのようなものだが、着心地は悪くない。
<、こちらに来なさい。>
グリーの指示に従って、指定された位置―――ちょうど室内の中央にいる。
もうすぐ始まると同時に周囲が静まりかえる。さっきまで騒いでいたロランJさえ、奇妙に思うほど無口だ。
グリーの指が動かす機械音がばかに目立って聞こえて、緊張を煽るように心臓の鼓動が早くなる。
<いいかい?『存在変換』するだけあって精神の疲労は付き物だ。
特に運動神経が乏しい君の場合、体力と強い心を持ち合わせなければ、いざという時に発揮できない。>
「(強い心・・・・・・)」
「人の心は脆い。」と誰かは言う―――。
どんなに肉体を鍛えても、情に鈍くても、ほんの隙にショックを与えれば簡単に崩れる。
私も例外ではない。胸に手を当てて、軽く息を吐く。そして、静かに目を閉じた。
の脳裏に浮かぶ蔵人の姿。気づけばさっきまでの鼓動が、徐々に落ち着きを取り戻していた。
<―――始め!>
グリーの合図で両目を見開く。ギガゴゴギガ、と瞬時にトランスフォーマーに変身する。
だが本題はここからだ。最初は上手く変身できても、元に戻るスピードが圧倒的に遅くなる。
<小さくなるイメージしろ。>ロランJがいろんな例えで助言して来たが、にはしっくり来ないらしい。
この時も既に同じパターンに入っていた。
「(まずい・・・このままじゃ完全に平均より遅くなる・・・!)」
わずか数秒だけでも厳しい判断が下される。この時点で何秒かロスしてしまったに違いない。
嗚呼、しょせん人間の力じゃ―――のカメラアイがブレ始めた時、
ブレインサーキットにある場面が引き出される。
「バカヤロー!!こんな時間にまでなって遊ぶガキがいるか!?」
「(えっ・・・・・・)」
「ん?何だ?俺が親戚でもない赤の他人だから叱られないとでも思ったのか?」
「ちっ・・・違う!・・・わたしはっ・・・・・・。」
皆に気味悪がられている霊媒の人間だから・・・そんなわたしを引き取ってくれたのが蔵人おじちゃんだから
―――迷惑かけたくなかったから出てったのに・・・。
「勝手に家出て・・・・・・知らない人に『誘かい』されたから・・・・・・。」
「・・・。」
「何でそう言ったんだろうと思ったから・・・・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
沈黙が痛い。怒るなら怒って。ののしるなら、ののしって。
悪い言葉を言われるのは、もう慣れたから・・・。
「・・・手。」
「・・・え?」
「手ェ出せっつってんだよ。ホラ。」
「あ・・・・・・。」
「よし、帰るぞ。」
何も咎めることもなく、その一日は終わった。
けれどほぼ強引につながれたその大きな手はわずかに汗ばんでいて、とても温かった。
同時に涙が溢れる。
私はここに帰ってもいいのだと―――気づいた時には既に自分のいつもの姿に戻っていた。
「あ・・・・・・あれ?」
あまりの静けさで彼らに目を向けると、何故か全員ポカン・・・と口を開けっ放しでいる。
ロランJに至っては硬直状態である。タイム計測していたグリーまで呆気に取られていた。
「あの・・・?私、何かマズイことでもしましたか・・・?」
の言葉に先に我に返ったグリーが改めてタイムを確認する。
<変身開始後は10秒ジャスト、問題なし。変身解除後は・・・・・・・・・2秒01・・・。>
「・・・えっと・・・・・・つまり?」
<我々には誕生した時点で変形する能力を持っているのだが・・・まさか、ここまで出るとは・・・。>
思わずそう言ったグリーの態度から、確実に『合格』であると物語っていた。
そこまでのタイムを出せたとは知らなかった、と立ち尽くすにスパイク達がわっと駆け寄った。
「おめでとう!。」
「よくがんばったね。」
「やるじゃない!」
数々の賛美を浴びる中、ずっと無言で気になっていたロランJを見ると、
カメラアイから大量の冷却水を流していた。
「床が濡れる!」「部屋を浸水させる気か!」と怒声が飛び交う中、ロランJは声を上げる。
<よがっだぁ〜!!無事合格できてよがっだぁぁあああ!!>
とても昨日までいじわるなコーチを気取っていたあのトランスフォーマーが、
自分のことの様に喜びの涙を流している。
今まであんな憎たらしい言葉を発したのは、あくまで私の為に思って発言してくれたのだろう。
<・・・しかし、たったこの短い間に随分人間臭くなってしまったな。>
ぽつりと呟くグリーの言葉には苦笑いを浮かぶしかなかった。