試験合格の喜びも束の間、厳しい戦闘訓練が幕を開ける。
ロランJのトゲのある言葉が、今では可愛く思える。戦いとは無縁な少女に対し、現実は残酷だ。
まず簡単な動きに慣れてから組み手に入る。数分後には銃撃戦を体感する。
訓練とは言え、今までにない光景がの脳を刺激する。
<遅いぞ!気配を察知したらすぐ構えろ!本物の戦場はこれよりもっと過酷だぞ!>
<―――了解ッ!>
あの時容赦なく毒舌を吐いたのは、この時のために言ったのだろう。
これから来る辛い試練を乗り越えるために―――。
「やはり彼女に戦術を叩き込むのは無理があるんじゃないのか?」
<何、時間はまだまだある。後は戦場に出てどう切り抜けるか、だ。>
TF化したとロランJが拳で連打し合うのを目にしながら、
高校生の少女に戦闘の術を身に付けさせるには限度があるとスパイクは言う。
グリーはあくまでも冷静で、この状況を切り抜けなければどうしようもないと、淡々と語った。
人間がTF化した上で戦うこと以前に、
トランスフォーマーの中にもロクに戦うこともできない同胞もいると言う。
ここの立場上、問題はないだろうが―――
グリー達の生まれ故郷サイバトロン星となれば即、切り捨てられる。
が戦場に出られるかどうか、今後にかかっている。
<そう言う君達の方はどうなんだい?彼らは協力してくれるのか?>
「・・・なんとも言えないな。まずTF化している自分の体を受け入れられない者と記憶に障害がある者―――二人いる。
こちらに来てもらって心を改めてくれるとは思えないが・・・・・・。」
スパイクが不安の渦中で呟く頃、その同時刻に一機のプライベートジェット機が、
ウィトウィッキー研究所に到着した。
***
地獄のような訓練を終えてすぐベッドにダイブしたはその疲労が多く溜まっていたのか、
朝食時間帯になっても起きなかった。だがいつもより向こう側が騒がしい。
その騒がしさに夢から覚めたはまだ疲れが残ってる体を起こして部屋を後にした。
大広間に近づくと、その声は徐々に大きくなっていく。
「ふざけんじゃねェぞ!話が違ェじゃねェか!」
<間違ってなどいない。『存在変換』ができるなら、それを治すことも可能だと伝えたはずだ。>
「テメーの意見なんざ聞いちゃいねェんだよクソロボがッ!さっさとオレの体を元に戻せェエエエ!!」
決して蔵人がここに連れて来られて暴言を吐いている訳ではない。
グリーにかみついているのは全く見覚えのない青年。
その他にも見知らぬ男達が時折その光景を見つつ、辺りを見渡していた。近くにいるカーリーに話を伺う。
「あの・・・一体どうしたんですか?それにこの人達は・・・・・・。」
「貴女と同じオールスパークの欠片を持つ者よ。本当はもう一人いるんだけど、
まだ出向ける状態じゃないって・・・。」
「欠片のせいで体に何か異常でも?」
「いいえ。それ以前に記憶喪失になってたって言うのよ。詳しいことは私にもよく分からないけど。」
そんな会話を交わしながらカーリーと話していると、横からにゅっとチップが割り込んできた。
「ちょうどよかった。に紹介しようと思ったんだ。ついて来て。」
「あ、はい。」
彼らもと同じ被害者であると同時に、『仲間』であることに彼女はうれしく感じていた。
『存在変換』の良い結果を出してくれたおかげで、彼らにもTF化が可能であることを知ったのだ。
「彼らにも戦闘に出てもらう。」と言うチップに、はそう予想していてもやはり微妙な心境だ。
「初めまして。僕はチップ。そして彼女がだ。」
先にチップが自己紹介した後からを紹介した。
彼女達の前にいるのは中性的な顔立ちの30代程の男だ。
色のいいストールを首に巻いていて、お洒落に気を遣っているような外見である。
「は、初めまして・・・と言います。」
その男に向かって軽くお辞儀をするも、本人は無言で彼女を見ている。
何かまずいことでも言ったのだろうかと不安がるに、ようやく男の口が開く。
「貴女・・・・・・ずっとここで世話になっているんですって?」
女性的な口調に若干驚きつつ、「はい。」とは答える。
「おかげで私達までここに来るハメになってしまったわ。
そもそも欠片とか、そういうのがなければ今頃学校で授業してるはずなのに・・・。」
「待ってくれ。オールスパークが飛び散ったのは我々の仲間が敵に渡すまいと必死で―――。」
しかし、そう弁解するチップをが制止した。
「迷惑をかけているのは私も、チップさん達も承知しています。
でもそんな自分の心を救うのも、大切な人を巻き込まないためにも、私はここにいるんです。」
互いに見つめ合う二人にチップは無意識につばを呑み込む。
するとへの字に閉じていた男の唇がゆっくりつり上がる。
「ふふふ、ごめんなさい。訓練しているのが私の教え子達と変わらない年の子だって聞いたから―――
自分の意志を持ってここにいると分かって安心したわ。」
「え、えっと・・・教師、なんですか?」
「霞ヶ丘っていうとこの高校三年の担任をやってるのよ。ちなみに教えているのは体育。
そして名前は相沢総司。よろしく。」
「あ、よろしくお願いします!相沢、さん・・・。」
「もう〜堅いわねえ。貴女だったら『先生』か『相さん』でもいいわよ?」
「そうですか?じゃあそう呼ばせてもらいます、相さん。」
「んまあ!可愛いわね貴女!」
そう言いながらの頭を撫でるだけでは足りないのか、彼女の体を抱きしめた。
違う学校ではあるが、こんなテンション高く自分に接してくれる先生など一人もいなかった為、
にとって新鮮な気分であった。
こんな調子で先程の青年とも打ち解ければいいのだが―――。