「他のメンバーも知りたいよね?なら私が紹介するわ。」
「あ、もう相さんはお知り合いなんですね?」
「まともに話を聞いてくれたのは一人だけなんだけどね。あいつは知らないわ。
いきなり言葉の暴力で攻めてくるんだもの。」
『あいつ』というのはさっきからこの大広間で騒ぐ例の青年だ。名前はセツ。
眉がないことから相沢は『眉なし』と呼んでいる。
「これから会う人のことなんだけど・・・あんまり私の側から離れないでね。」
「どうしてですか?」
「すぐわかるわよ。」
相沢の言葉に益々首を傾げる。
しかしそれらしき人物はさっきまでこの大広間にいたはずなのに、いつの間にか姿を消していた。
「ねえ、赤いサングラスの女たらしは?」
「(女たらし?)・・・ああ、彼か。先にゲストルームで休んでるよ。」
「そう、ありがとう。さあ行くわよ。」
「あ、はい。」
途中スパイクが「何かあったの?」と目で聞いて来たが、「(何でもないです)」と苦笑で返した。
ゲストルームと書かれたドアの前に今一度相沢が確認を取る。
「何があっても直視しちゃだめよ。」
「はい。」
「私が許可するまで部屋に入っちゃだめよ。」
「はい。」
「・・・よし。じゃあノックするわよ。」
人に会いに行くだけなのに何故ここまで警戒するのだろうか。
まさかセツと言う青年と同じような短気(というよりキレやすい)な男なんだろうか。
そうだとしたら付き合い辛い。
「入るわよ。」
相沢がゆっくりとノブを回し、はその様子を後ろで眺める。
彼に何度も忠告を聞いたせいか、思わずつばを呑み込んだ。
相沢が室内に入った瞬間、視界が一気に暗くなった。
停電?いや、違う―――!
自分の目の周りに人の手の感触がある。
誰かが自分の視界を遮っている―――けれど何のために?
「おや、意外だなあ。もうちょっと慌てるかと思ったんだけど・・・。」
男の声だ。さわやかな感じで自分より年上だと思う。(そしてその人物が後ろにいると分かった)
「誰なんですか貴方は・・・。」
「これまた意外!このまま会話進めるの?なんて可愛いハートの持ち主!」
全く会話が成立していない。むしろ聞いているのかさえ疑ってしまう。
すると前方から「ちょっと!」相沢の声が飛んで来た。
「部屋にいないのかと思えばいつの間に・・・。」
「いやあ・・・久々に女の子の足元が聞こえたモンでね。こっそり様子を見させてもらったよ。」
「相変わらず悪趣味ね・・・。いい加減離したらどうなの?」
「・・・離してほしいかい?」
「離して下さい。」
間髪入れず強調して言うと「おや、残念・・・。」声色からして本当に残念がっているようには聞こえないが、
ようやく解放されたの視界に相沢の姿が飛び込むと、すぐさま頭を下げた。
「すみません、相さん・・・。」
「貴女が謝ることじゃないわ。不可抗力だったようだし・・・。」
「それに本当はその男が謝罪するべきだわ。」との背後にいる男を睨む。
「ほんのイタズラさ。もしかして怖い思いをさせちゃったかい?ごめんよシニョリーナ。」
「い、いえ・・・。(確かに最初はびっくりしたけど・・・)」
「俺はディラン。君の名前を聞かせておくれ。」
「何だこの人は。」と思いつつ、自分のフルネームを名乗る。
相沢も芋虫を噛み潰したような表情でディランを見ていた。
「!ん〜〜〜いい名前だ!ここは海に囲まれているんだったね。
後で海をバックに写真を撮らせてくれよシニョリーナ。」
「カメラマンなのよ、彼は。」
「なるほど・・・」は短く呟く。
そこへ偶然カーリーが通りかかるとディランは真っ先に彼女に向かって走り出す。
「そこの素敵な貴女!このディランに一枚、撮らせて頂きたい!」
「まあ!」
ディランの行動に思わず呆気に取られる二人は静かに互いを見つめる。
「そういう奴なのよ、ディランは。」ぼそりと呟く相沢に疲労感が見えているのは気のせいだろうか。
「まあ、こんな連中しかいないけど暫く厄介になるわ。
あと『存在変換』について話を聞きたいんだけど・・・。」
「私でよければ。」
女性的な教師(男)に、筋金入りの女好きなカメラマン、そして問題のヤンキーな青年。
(もう一人いるらしいが、どんな人物かは分からない)
これから彼らと共に、見たこともない光景を目にするのだ―――。