戦闘訓練に新たに加わった相沢とディラン。
ロランJにとって教え子が増えたことに喜んでいたのも束の間。
まずディランが訓練そっちのけで唯一年頃の女子であるに声をかけていた。
相沢が呆れ顔で注意するも、<やる気あるのか!!>ロランJが怒声を上げる。
<おいそこォ!お前僕達に協力する気あるのかよ!?>
「おいおい、勘違いしないでくれ。俺が協力するのは君達ではなく、レディーのためさ。」
ディランが指す人物は恐らくカーリーのことだろう。
無類の女好きである彼にはカーリーの説得がなきゃ頷かないのかもしれない。
<いくら事故とは言え・・・何でよりによってコイツの体にオールスパークの欠片なんか―――。>
「それはこちらのセリフだ。俺の胸に飛び込んで来るのは可愛い女の子限定だっていうのに。」
<だぁあああムカつく―――!!>
<・・・あの二人は放って続けてなさい。>
「あ、はい・・・・・・。」
ディランはケンカを買う気ゼロだが、ロランJはロランJで勝手にギャーギャー騒いでいる。
もはや仲間であるグリーも見て見ぬフリをする始末だ。
は先に『存在変換』でTF化した相沢を見上げた。どこか相沢らしい女性的なフェイスである。
「相さんのボディカラーは藍色なんですね。」
<そう言うのボディは何色?>
「あ、ちょっと待ってて下さい。」
『存在変換』して人間の名残もないTFの体となったの姿を見て、彼女の白銀に輝くその全身を見る。
自分より若干小さい彼女の機体はそれでもしっかりしている。
<何か貴女らしい色ね。>
<そうですか?>
互いに変身した姿を見ながら感想を述べていると、<―――いいかね?二人とも。>と
グリーの声で我に返る。
<相沢君も変換することができているようだな。
―――さて、我々と同じ体に慣れたところでもう一つ覚えておかなきゃならないことがある。>
<それは貴方達にとって必要なこと?>
<そう。今から私がやるからちゃんと見ておくんだ。>
そう言うなりグリーは<トランスフォーム!>の掛け声と共に、自分の機体をあらゆる形に変形させる。
人のような形から、なんとジープの姿に変わっていった。
<ああ、そういえば貴方達にはそういうのに姿を変えて人間社会にとけ込むって言ってたわね・・・。>
<その通り。我々オートボットは主に自動車、対照的にディセプティコンは戦闘機が主流だ。>
<(確かに―――)>本当に真逆なんだとグリーの言葉を聞いて思わず頷く。
<万が一現場に出動する場合、ロボットモードでは目立ちすぎる。なのでこのビークルモードを搭載する。>
<それで私達が変形するものは何なんですか?>
<これから決めに行くのさ。>
<<えっ?>>グリーの理解し難い言葉に思わず間の抜けた声を出す。
今は夜中の12時。太陽が出るまでまだ時間がかかる時に、グリーは突然無線をつなげる。
<こちらグリー。これから車体をスキャニングするため街へ行く。>
その言葉に二度目となる間の抜けた声を出すのだった。
***
トランスフォーマーの機体にはスキャニング機能があり、
実際の物体を見て通さなければそれに変形できないと言う。
まさか本当に夜中出歩くことになるなんて―――。
「でも結局来たのは私達と操縦者の4人だけどね。」
「そうですね・・・。」
言い出しっぺであるグリーにはロランJのように海の中を進む機能がない。
そのロランJに連れてってもらう案が出たが、未だにディランにケンカを売っていて、
そういう状況ではないしとても静かにしてくれそうには見えない。
仕方なく研究所の職員2名がついて、ヘリコプターで隣りの街まで移動することになったのだ。
「我々はこちらで待機しています。できるだけ人気がないのを確認して行動して下さい。」
万が一に備え、一部の記憶を消滅させる装置を持たせている。
ここにいる場所は電灯すらない殺風景な港だ。こんな所にまともな乗り物があるか不安だ。
「、あんまり離れないで。いくら何もない場所でも痴漢があったりするから。」
「わかりました。」
そう言って懐中電灯を片手に、を隣りに誘導させる。流石は現役教師。
「寒くない?」
「大丈夫ですよ。そう言う相さんは平気ですか?」
「あら、そんな弱々しく見える?」
「そんな・・・!私はそのつもりで言ったんじゃ―――。」
「わかってるわよ。もう〜〜〜ホント真面目ねえ貴女は。」
楽しく会話をしながら前方を進むが一向に車が見当たらない。あるとすれば漁師が使う船のみだ。
「・・・相さん。」
「ん?」
「どうしてウィトウィッキー研究所に行こうと思ったんですか?」
「何故今更そんなこと聞くんだ?」と言いたげな彼の表情に、は答える。
「前にあんなこと言いましたけど・・・・・・最初に連れて来られた時は完全に拒絶していました。
とにかく家に帰りたいって必死で・・・でもそのせいで大切な人を巻き込んでしまった・・・。」
「・・・。」
「相さんにも、守るものがあるんじゃないかと―――
だから離れるには相当の想いがあったんじゃないかと思いまして・・・・・・。」
「・・・確かに疑問を持たれるのは当然ね。もちろん、私だって最初から彼らに賛同していないわ。」
すると、長い間を空けての顔を見た。
「貴女から見て私ってどんな人間に見える?」
「え?」
「率直に思ったことでもいいわ。本当のこと言って。」
真剣な眼差しをする相沢を見て、はすぐに疑問を振り払った。
「とてもキレイな顔をした人―――というのが第一印象でしたね。
後から女性の言葉遣いにはちょっとびっくりしましたけど・・・・・・
私の学校には絶対いてほしいって思いますね。」
「それはどうして?」
「・・・自分のことなんですが・・・・・・私には周りの人からしちゃ普通じゃない体質を持っていまして・・・。
それが原因で学校でも受け入れてもらえなくて・・・担任さえ話も聞いてくれません。」
「でも気にしないで下さい。」と苦笑ながら付け加える。
相沢は「言わせてごめんなさい・・・。」と消え入りそうな声で呟いた。
「貴女がさっき言ってた通り・・・・・・私、こんな口調でこの格好だもの。
だから皆私のことそっち系の人間じゃないかって避けてるのよね。」
「相さん・・・・・・。」
「本当に驚かせてごめんなさいね。直そうと思っても中々そうもいかなくてね・・・・・・。」
「っ―――全然おかしくなんてないですよ!私なんかと比べればッ・・・・・・相さんの方がずっと―――。」
しかし、それ以上は言えなかった。今にも泣きそうな彼女を、相沢が制止するかのように抱きしめたのだ。
「自分を否定するようなこと言わないでちょうだい―――。」
「言い忘れてたけどね、こんな私にも貴女のように受け入れてくれる生徒は何人かいるの。
中には『そのままの方が断然サイコー!』ってうれしいことまで言ってくれるのよ。
もし彼らがいなかったら―――今の私はいないわ。」
「だから後から考えると迷惑かけたくないし、関係ない生徒達を関わらせる訳にはいかない。」と
相沢は答える。
「つまり理由は―――貴女と同じよ。その体質を受け入れてくれる人がいるから貴女はここにいる。
胸張っていいんだからね?」
「っ・・・・・・ごめんなさい、私から話を振っておいて・・・。」
「気にすることないわ!むしろそのきっかけを作ってしまったのは私なんだけどね。」
「さ、探すのに集中しましょ。」いつもの調子でを先導しながら鼻歌まで始めた。
彼のその明るさに羨ましいという思いと、感謝の思いで胸がいっぱいだった。