「あれ、いいわね。」
最初に見つけた飲食店の駐車場にある数台の車の中で、相沢はセダンに注目した。
トランスフォーマー化した上での大きさもバッチリ合っている。
今のところ人が出て来る気配はない。それを見計らって相沢は『存在変換』する。
<見張りお願いね。>
相沢の言葉にが頷くと、早速スキャニングを開始した。相沢に背を向けて薄暗い周辺を見渡す。
もう一度店の方へ視線を向けると、相沢の姿がなくなっていた。
「あっ・・・相さん!?どこにいるの・・・!?」
突然姿を消したことにより、恐怖と不安がを襲う。心なしか声まで震えていた。
さっきまでは人影や、ディセプティコンの気配もなかった。ほんの短い間に何があったんだ・・・!?
<。ここよ、ここ。>
「えっ・・・・・・・・・?」
本人の声が真後ろから聞こえる。振り返るが誰もいない。すぐ目の前には藍色のセダンの車だけ。
おかしい・・・確かにすぐ近くで彼の声がしたのに・・・。
<ふふ。一台増えてもバレやしないわね。>
「え・・・・・・ええっ!?」
<静かに!中の人達に気付かれるわよ。>
ハッと我に返り、すぐ口を閉じた。相沢の声はこの藍色のセダンからだった。
だがその車に彼が乗っている訳ではない。その車自体が相沢本人であるからだ。
相沢がロボットモードに変身すると、一部一部が車に変わっているのが明らかだ。
<後はだけよ。早く選んじゃって。>
「それなんですけど・・・・・・。」
が視線を駐車場へ移す。ロボット化した際の彼女の大きさに合う車体がないのだ。
<しょうがないわね。乗ってちょうだい。>
「お、お邪魔します。」
ビークルモードになった相沢の車体の中へ乗り込む。
車内は至って他の車と変わらない。喋らなければどこにでもある車だ。
エンジン音がかかったと同時に運転席に相沢が座っていた。(正確に言えば『映像』の、だ)
どうやらそういうカモフラージュも使えるようだ。
「動けます?」
<車の運転ならともかく、自分自身を運転するのは初めてよ。>
自ら乗ってくれと思わず口にしたが、考えてみればビークルモードでの訓練は当然していない。
自分の持っている感覚で運転を試みた。レバーを引く。・・・問題なし。
いつも運転している自分を思い浮かべながらアクセルを上下させる。
駐車場から抜け出して道路に出れば車と同じように走っていた。相沢は思わず歓喜の声を上げた。
<やったわ!練習なしで一発成功させてやったわ!>
「そ、そうですね・・・。」
意外にもから出た口調はどこか暗い。喜びの賛同を求めていたからか、相沢は思わずムッとした。
しかし、彼女はそういうつもりで言ったのではない。
「ごめんなさい。相さん達はともかく、私はまだ未成年ですから・・・。」
何が言いたいのかピンと来ていた。運転どころか免許証すら持っていない高校生だ。
ビークルモードを搭載したとしても、出来るかどうか不安であった。
<大丈夫よ。運転できる、できないかで判断することないわ。
貴女一人でがんばって『存在変換』を成功させたんだから、ならできるわよ。>
「・・・がんばります!―――あっ。」
<え?何?>
「すみません、ここに停めてもらってもいいですか?」
がそう指摘したのはスクラップ置き場。
彼女にとってあまりいい思い出がないのだが、相沢は彼女の意に同意して、その場所にゆっくりと停止する。
<ちょっと。ここ・・・。>
「わかってます。でも、もしかしたら私の大きさに合う車があるかもしれない・・・。」
要するにこの島を一周してまでも探す手間を省きたいという考えだ。
故障した車だらけとは言え、スキャンしたものは皆新品のように変わるので問題はないはず。
だが相沢は納得していない様子だった。一緒に行こうかと訊ねるが、は大丈夫だとやんわり断った。
<貴女が言うなら別に構わないけど気をつけてね。こういうとこは―――・・・。>
「え?何ですか?」
何か言いかけていたようだが、長い間を空けて<やっぱり何でもないわ。なるべく早くね。>の言葉だけを残した。
ちょっと気になったが、すぐに頷いてその場を後にした。
誰もいない無人の廃車だらけの中、何故か相沢はビークルモードのままでいた。
自分の車を一度修理屋へ頼んだ際、その時担当していた者が思わず口を滑らせていた噂が絡んでいるからだ。
<(には言わなかったけど・・・やっぱり怖い思いをさせたくないしね・・・)>
それに所詮、噂だ。まだ体験したこともない自分がそれを本当だと認めることができない。
けれど夜のせいか、修理会社の人間が言った話のせいなのか、不気味で仕方なかった。
とにかく早く戻って来てくれと内心願う中、向こうから悲鳴を聞いた瞬間、
無理にでもついていけばよかったと後悔した。