場所は違えど、スクラップ置き場に出向くなんて思ってもいなかった。
あの時は蔵人を助けたい(もちろんロランJも)一心で思いついたのだが、蔵人の車の修理に付き合っていた際、
彼の友人がボソッと語った。
「知ってっか蔵人。廃車だらけのスクラップ置き場にまつわる噂。」
「はあ?何だよそれ。」
「車だけじゃなくてもよ・・・物には人の『念』ってやつがつくんだぜ?
蔵人の車以上にぶっ壊れたやつとか、捨てられたやつとか・・・・・・出るって噂だぜ。」
「・・・おい。」
「怒んなって!別にのお嬢さんを怖がらせるつもりで言ったんじゃねェんだぜ!?」
「・・・あの・・・・・・それで続きは・・・?」
「お、おい!」」
心霊関係の話はなるべく聞かないようにしていた彼女だが、何故か今回ばかり男の話に耳を傾けていた。
今までそんなことがなかった為、蔵人は目を見開いていた。どうして好奇心を抱いたのかは今でも分からない。
「えっ?お、おお・・・。そういうのって昼間にも起こるらしいんだけどよ、特にお盆期間中―――
かなりヤバイらしい。」
「大人になって車買うようになったら気ィつけな。」その人に頭を軽く撫でられたのを思い返す。
そういえば今日、ちょうどお盆の真っ只中だ。時計は持っていないが、もうすぐ丑三つ時かもしれない。
その時間帯は最も霊が活動する、云わば彼らのゴールデンタイム。
霊感のあるにとって宜しいことではない。
相さんが言いたかったのって・・・このことだったかもしれない・・・。
今更後悔したって仕方が無い。見つけたら早くこの場所から立ち去ろう。
海の砂浜が混じった砂利道を踏み続けていると明らかにもう一つの足音が混じっていた。
の肌に汗が浮き出る。
「(はあ・・・中々見つからないなあ・・・)」
気を紛らわそうと車を探し回った。皆普通サイズだ。今時コンパクトカーなんて乗らないのだろうか。
はあ・・・困った―――あ。
「(見つけた―――ッ・・・!!)」
視線を泳がせた先にそのお目当ての車が目に映った。
だがそれと同時にその車内からこちらを見ている人影も入り込んだのだ。
何年経とうが、やはり霊に遭遇するのは慣れなかった。
「うぁぁぁあああああ!!!」
トランスフォーマー化したまま、その姿に合わない悲鳴を上げて視界は暗転した。
―――!
・・・ッ!・・・!!
ちょっ・・・聞こえてる?
―――
「!!」
相沢の声によって覚醒し、カメラアイには黒い空と元の姿に戻っていた相沢が映っていた。
後頭部に何か違和感があるなと上体を起こすと、錆びていた車が枕代わりとなって見事な凹みが出来ていた。
「大丈夫?『存在変換』を解かないまま倒れてたなんてどういうこと!?」
どうしよう、相沢に言うべきだろうか。
「・・・もしかして見たの?」
その意味深な言葉は彼の目を見てすぐピンと来た。はおそるおそる頷く。
「やっぱりちゃんと言うべきだったわ。」と相沢は顔に手を当てた。
「でも大したキズはないようね。もう行くわよ。さっき貴女が倒れた音で住民に聞こえていたら厄介だわ。」
人が来る前に早く戻ろうと言う相沢に、は「大丈夫。」と言った。
「ここに来ることはないと思います。彼らがいるから・・・・・・。」
「え?」
が気絶する前、霊達は一斉に彼女にこんなことを訴えた。
『もっと生きたかった。』
『まだ走れる。』
『捨てないで。』
それぞれ意見は違ったが、その悲痛な思いを誰かに伝えたくてこのようなことが起きたのだろう。
ほとんどが、霊が視えない人達ばかりなので皆、恐怖で近寄ろうとしないのだ。
「この車・・・直りますかね?」
「ここまでなったらどうしようもないでしょ。・・・でもどうして?」
「ここに集まる人達のことを考えたら、何だか申し訳なくて・・・。」
相沢は何も言わなかった。成仏させる力のないにできることは祈りだけだ。
自分が霊媒であることを明かしたのにも関わらず、堂々と不本意にも潰してしまった車に向かって両手を合わせた。
しばらくして、淀んでいた空気が少し軽くなった。
***
研究所に戻り、ずっと沈黙を守っていた相沢は「後悔していないの?」と言葉をかけた。
予想外の質問にはきょとん、と彼を見る。
「何を、ですか?」
「自分は霊が視えるって・・・・・・。」
本当はそれを明かすつもりはなかったんじゃないのかと言う相沢に、
逆に「それを知って私を嫌になったりしないんですか?」とちょっと皮肉に言い返した。
「まさか!霊が視えようが視えないが貴女に対する意識は変わらないわよ。
寧ろいいなって思うわ。」
「えっ・・・何故ですか?」
「他人事のように言っちゃうけど、テレビでよくやる心霊リポート?その番組に登場する除霊する人がいる。
霊視する人がいる。そういうのがないから彼らの気持ちがわかるもんね、は。」
「いえ、そんな・・・・・・最初から幽霊を友好的に見ていた訳じゃありませんし・・・。
それに私だけスキャニングに失敗した・・・。」
<―――いや、ちゃんとしているぞ。ホラ。>
「「えっ?」」二人同時に声を上げた。グリーの言葉にイマイチ実感がわかないは『存在変換』し、
車をイメージした瞬間、ギガガギゴと変形していた。それはが見つけた例のコンパクトカーである。
「でも私スキャニングした記憶なんて・・・。」
<私の推測だが、倒れた際ショックで自動的になったんだろう。
それが運良くコンパクトカーに当たっていた、ということになるな。>
何ともかっこ悪いやり方をしたんだ私は・・・!!まあこれで当初の目的を無事果たせたのでいいのだが・・・。
「そういうこともあるわよ。もしかしたらその霊のおかげかもしれないし。」
「・・・だといいんですが。」