「やあ、シニョリーナ。君もビークルモードを取り入れたんだってね。  俺はフェラーリなんだよ。見たい?」 有無を言わさず「見たいよね!?」と勝手に会話を進めるナンパ男もといディランは ロボットモードをすっ飛ばして、ビークルモードに変換した。(わざわざ聞いてきた意味がない) 深紅色がフェラーリにも合っていてディランらしい。TF化する以前でも愛車(フェラーリ)を利用していたらしい。 <どうだい?カッコいいかい?> 「・・・ええ、まあ・・・・・・。」 <フフ、そうか!今日は天気が良いからね・・・愛車ではないけど一緒にドライブしないかい?> 「・・・今の(・・)貴方に乗るってことですか・・・?」 「このようにしつこく聞いてくる男の言葉はまともに返事してはいけない。」と相沢に言われたにも関わらず、 はそう聞き返した。後になって「しまった。」と退きたいとこだが、もう遅かった。 ディランは得意気に鼻歌まじりに言う。 <このビークルモードで人を乗せるのはまだないからね・・・。その(・・)初乗客は君であってほしいんだ。> もはや意味がわからない。 この17年間、一度も男に言い寄られたことがないのもあって、は思わず表情を歪めた。 今までディランと会って来た女性達はどう対応していたのだろうか。 <どうせなら君の大切な初めて(・・・)も俺―――> <にナンパ野郎!『パトロール』の時間だぞ!> 「えっ・・・。」 幸いにも年齢制限ギリギリの発言を偶々通りかかったロランJによっては聞かずに澄んだが、 彼の言うセリフに思わず聞き返した。 「も、もしかして・・・今日はディランさん、と・・・?」 <交代制だからな。仲間との協力関係を築いていくのは大事だってよ。> ロランJの言うパトロールというのは『表向きの言葉』。 実際は、各地に散らばった残りのオールスパークの欠片を探すのが目的である。 『欠片』はトランスフォーマー達によく反応を示すが、 中には信号をキャッチすら難しいところにある場合もある。 それはここにいるオートボット・・・達の一つの任務なのだ。 <敵襲を心配してんなら安心しなよ。最近ディセプティコンは大人しくしているが、 だからと言って油断なんてしちゃいない。いつでも出動できるようにスタンバッているからな!> 「う、うん・・・。」 それよりも(・・・・・)一番心配していることがある―――なんて今更言える訳がなかった。 *** 最近の情報では、この都心から離れた(もちろん日本の)海岸沿いに一つ反応があったのだが、 今ではプッツリと途絶えている。海に流されたか、海底に深く落ちたか、だ。 ビークルモードで移動し、元の姿に戻ってから、まず反応のあった位置の周辺で捜索を開始した。 潮風に当たりながら、少し離れた後方から聞こえてくるカメラのシャッター音に、深く溜息ついた。 「(あの人、やる気あるのかな・・・?)」 ディランとはあまり接していないが、別に彼が嫌いという訳じゃない。むしろ苦手だ。 少し前まで彼と(他にもセツもいたが)共に行動していた相沢に、どうすればいいのか聞きたい。 「、こちらの海を見てごらん。」 「・・・自分の方に専念するんで、ディランさんはそちらの周囲をお願いします。」 「そうなんだが、今どうしても確認したいことがあるんだ。ちょっと来てくれ。」 どうせまた『くだらないこと』でも言うのだろうと心底呆れていた。 それでも顔には出さず、渋々と彼に応えるもである。 「海の中に何か見えたんですか?」 「今は(・・)何も・・・これを見てくれないか?」 「・・・海ですけど?」 「これはさっき写したばかりので・・・・・・これは10分前の写真。」 今ここにいる場所と同じ海面に『謎の発光』がくっきりと写っていた。 再び例の海面を見下ろすが、光らしきものはない。 「・・・な?どう考えても普通じゃない。」 「・・・この(・・)下に・・・。」 「そういうことになるな。悪いけどこれ持っててくれないか?」 何の返事もなしに手渡されたデジタルカメラの重さが両手に圧し掛かる。 まさか、と思った時には既にディランはYシャツを脱いで半裸姿になっていた。 (蔵人以外の男の肉体を見るのは初めて、だとか思ってる余裕はない) 「ディランさん!」 「大丈夫。自分の手で取れるとこまでしか泳がないよ。もし俺が出て来なかったら皆に連絡してくれ。」 自慢のサングラスとネックレスも取り払い、決してキレイとは言えない色に染まる海面に飛び込んだ。 一体どれくらいの深さがあるのか知らず潜るなんて―――。 だからと言って自分がそこまで泳げる自信はない。 ただ見守るしかできない自分にもどかしさが生まれた。 「(まだなの・・・?一体どのくらいの深さまで・・・?彼は無事なの・・・!?)」 未だ出て来る気配のない状況に、は不安を過ぎらせた。 その表情は徐々に青ざめ、握り締める両手が小刻みに震える。すると海面にブクブクと気泡が立つ。 そして派手な音を立てて、ディランが顔を出した。 片手に青白い光を放つ『オールスパーク』の欠片を持って。 「いや〜お待たせ!そんな深いところにはなかったんだけど、岩の間に挟まってたんでね。  時間かかっちゃったよ。」 何事もなかったように「アハハ。」と笑みを浮かべる。 嗚呼・・・私はなんて愚かなことを考えていたのだろう―――と思わず、 「ごめんなさい・・・。」 そう呟いた。小さな声にも関わらずバッチリと耳に入れたディランはすかさず、 「俺は君に何かしたかい?」と訊ねる。 「いいえ・・・・・・。私、貴方のこと・・・誤解してました。悪い方に・・・。」 口ごもるにディランは一瞬きょとんと目を丸くするものの、いつもの調子で彼女の頭を撫でた。 「もしかして俺が一生出てこないと思ったの?心配かけてごめんね。俺は大丈夫だよ。」 「・・・はい。」 本当は違うのだが、これはこれで良しとしよう。 無事欠片を回収したことを報告し、海を眺める一般女性を見つけたディランは即行向かった。 ・・・女癖は良しとしないが、真面目に協力してくれたことに感謝しなくては。 その時ふと、海から道路側へ視線を移すと、やけに黒い改造車が止まっているのを目にした。 「(あんな車もあるんだ・・・)」 ボーッと考えている内にその車はエンジンを入れて、その場から去っていった。 "―――オールスパークの欠片の保持者、二名。 ディラン・マックケイト 引き続き監視する―――"