生物寝静まる頃。森林の上空にはとても不似合いな戦闘機が何故かあった。 誰かがいるはずであろうコックピットはなんと無人だった。独りでに動いている、ということになる。 その正体は―――機体にある『ディセプティコン』を証明するマークが全てを物語っている。 ギガガギゴ、と無機質な音を立てた後、 森林を真上から組み立てた足で盛大に踏み潰した。 <フン、ここが地球か・・・。> 事前にこの星について謎のトランスフォーマーは情報収集していた。特に人間について、だ。 昔の歴史と現在と比べれば随分進歩しているようであるが、 我々トランスフォーマーからすれば「所詮この程度か。」と悪意のある者ならそう言うだろう。 <オールスパークの欠片でTF化する人間か・・・。デッドラインは何を手こずっているのか理解できん。> ブレインサーキットを探ってみるが、警戒網が張り巡らされているため、奴らの場所が特定できない。 人間のくせに生意気な―――そう言わずにはいられなかった。 <まあいいさ。嫌でもあちらから姿を現すだろう。> 再びビークルモードに変形した戦闘機型のディセプティコンは不敵な自信を持って、夜空へ消えていった。 *** 金属同士がぶつかり合う音がトレーニングルームに響き渡る。 TF用に作られた広すぎる室内は、今まさに達にはちょうどいいサイズだ。 TF化した相沢とディランが激しい組み手をする光景を眺めながら、 一旦元に戻ったは用意されたドリンクで喉を潤した。 壊れるんじゃないかと思うくらいに、ディランが豪快に吹き飛ばされる。 「相さん、やるなあ。」と独りごちた。 <おいおい!いくら練習だからって今のはやりすぎだろう!?> <何文句を言ってんのよ。このくらい本気でやらなきゃ、どんな敵にも勝てっこないわよ!> 「―――ははっ!流石教師だね。」 その声に反応して振り向くとスパイクとチップの姿があった。 「何か用事ですか?」と訊けば、「セツを見かけなかったかい?」と返された。 そこで組み手をしていた二人も話に参加する。 <悪いが見ていないな。> <私も同じく・・・・・・・・・というより大丈夫なの?まだ一度も訓練すら参加してないのよ?> 「嗚呼・・・そうなんだ。でも無理強いはしたくない・・・・・・。」 そう言ってスパイクはチラリとを見る。彼女がしたことを今度はセツがやってしまうのは流石に困る。 口にはしなかったが、は瞬時に理解した。 <だったらここに連れて来た意味がなくなるんじゃないのか? 俺達も元の身体に戻りたいが、そう簡単にいかないのが現実だしね。> 「・・・すまない。」 <二人が責任を感じることはないわ。でもここに来てまだ半年も経っていない・・・・・・。 もう一度話をしてみたらどう?> 「そうなんだが・・・・・・さっきから彼が見当たらなくてね。ここから遠く離れるのはないと思うが―――。」 不安を寄せる中、は一人その場を抜け出してある場所(・・・・)へ向かった。 事実を受け入れず飛び出した海岸へ―――今ちょうど夜だったので辺りは薄暗いが、 点灯があるおかげですぐ見つかった。(すぐと言っても建物の死角のある場所だったが) 足音を聞いて素早くこちらに振り向いたセツは人相の悪い顔を更に歪める。 「えっと・・・・・・こんばんは、セツさん。」 「・・・・・・誰だテメェは。」 「と言います。セツさんと同じ(・・)者です。」 彼女はやんわりと言ったつもりだったが、当の本人には逆効果のようだ。 「俺はテメェらとは違ェッ!一緒にすんじゃねェよ!」 「・・・それはごめんなさ―――」 <一体何が違うって言うんだ?> が最後まで謝るのを制止したのはロランJ。どうやら彼もセツを捜していたようだ。 <お前さんは隠れてるつもりなんだろうけどなあ・・・・・・ここから出ようたって無理な話だぜ。 いい加減受け入れたらどうだ?> 「受け入れる・・・?俺の体が『半分機械』だってことかッ!?」 <そうだ。お前と一緒に来た相沢達は既に自分のものとしている。 いつ敵が襲って来るのか、いつ元に戻れるか分からない以上―――自分の手で身を守らなきゃならない。> 「そうよ。」 「相手がバカでかいロボットだからなあ・・・。ビームだって撃つし。」 後から付け足すように人間に戻った相沢とディランがやって来た。 なんだか集団で責めているようで申し訳ない、とは心の中で謝罪する。 「―――よく言うぜ。身を守るだとか、アイツらにコキ使われてるだけじゃねェか!」 「っ・・・ちょっとアンタ!」 「セツ、だっけ・・・?カーリーさんのことを言っているのなら許しはしないよ。」 一向に噛み付いてくるセツの態度に流石の相沢も声を上げる。 ディランに至ってはどんな女性でも侮辱されることを嫌うため、ここで初めて怒りを表した。 前に出るディランに「ケンカ上等だ。」と近づくセツ。これでは益々悪くなる―――!! 止めなくては―――が勇気を持って二人の間に割り込んだ瞬間、この島全体に警報が鳴り始めた。 "―――こちらグリー。今都心の高層ビル街にディセプティコンが出現。至急応援を頼む。" まさに最悪な状況に最悪な報せが放り込まれ、周りはしんと無言になった。