近づくにつれ、振動の激しさも増す。それがトランスフォーマーによる戦いを物語っていた。 「我々はここまでです。現在グリーの損傷が激しいです。くれぐれもお気をつけて。」 まだ夜だと言うのに辺りが明るい(・・・)。周りに燃え上がる炎があるせいだろう。 プロペラが風を切る音に混じって後ろから走り去る(・・・・)音が聞こえたが、すぐ振り返った時には誰もいなかった。 *** ディセプティコンはオートボットの一般戦闘員よりも戦闘能力が高い。 階級が上へ行くほど強く、その頂点にいるのが破壊大帝リベルトロン。 自分の力さえあれば今すぐその(・・)座を奪えるはずだった―――。 現在でも自分は変わらずNo.2の位置。 早期でリーダーの地位に立ったのにも関わらずリベルトロンも、その者を支持する奴らの意志も揺るがなかった。 だが圧倒的な力の差を見せ付けて来た現リーダーに対し、一つ解せないことがある。 先代メガトロンが不時着し、何度攻めても手中に堕ちることはなかった『地球』―――。 こちらが有利であるのに関わらず全軍で攻めようとせず、中級兵のデッドラインだけを派遣した。 破壊大帝あるまじき慎重ぶりに思えるが、彼を見てとてもそういう風には見えなかった。 <自分はあの老いぼれ(・・・・)とは違う―――。> 時折苛立ちを見せるリベルトロンの映像を再生(リプレイ)して、先代を超えよういう奴の強い意志を改めて思うのだ。 未だ先代(かこ)にこだわるなど愚かなことにすぎない―――と。 だから奴の狙いである地球を襲い、オールスパークを奪って新のリーダーに成り上がろうと決めた。 一応は警戒していたが・・・何なんだ?これが―――先代が手間取っていた星がこれか。 手を出せばすぐ壊れるではないか。 <この星にいるオートボットは貴様だけなのか?看護員なら看護員らしく治療だけに専念しておけ。> 最もその自分が一番酷い傷だがな、と皮肉を込めて目の前にいるグリーに言い放った。 グリーの体からは無数の火花が飛び散っている。 <ッッ・・・・・・そういうお前は何故ここにいるんだ? リベルトロンがわざわざお前ほどの兵を寄こすとは思えないが・・・。> そう思われるのは承知している。リベルトロンにこの事を知られる前に決着(ケリ)をつけなくては―――。 <ライトスクリームあろう者が考え事かァ―――ッ!?> そんな声が発せられた方向から本体であろうロランJが銃を構えた状態で飛んでいくのを捉えた同時に、 後方からオールスパークの反応をキャッチした。 見覚えのないトランスフォーマーが二体―――例の欠片を持って変形する人間か。 <人間如きが俺に敵うと思ったのか!!> 素早く戦闘機に変形して振り払う。上空で再びロボットモードになると彼らに向けて発砲した。 <オートボットに気を取られている内に二体がかりで襲う・・・悪くない作戦だが俺が相手では話にならんな。> そう言ってうつ伏せになっている彼らを見下すライトスクリームだが、その時ハッと顔を上げた。 ロランJが倒れた状態でニヤリと笑う。 <そう・・・アンタの気を引かせるのはほんの一瞬だけでいいのさ。 このくらいの攻撃なら同じ体になった相沢達なら平気だろ。> さっきまで跪いていたグリーの姿がない。仲間を引き離すために仕掛けた罠だったのだ。 だが、ライトスクリームに焦りはなかった。 <・・・きれいな友情だな・・・。それもいつまで続くんだろうな・・・?> 不敵な笑みを見せるライトスクリームにロランJ達は一斉に武器を構えた。 *** ライトスクリーム達がいる場所から少し離れた郊外の住宅地。 閑静ある場に誰も立ち寄ることもない廃墟となっている団地にグリー達(・)は身を潜めていた。 「ごめんなさいグリー。私達がもっと早く来ていれば・・・。」 <心配してくれるのは有難いが、わざわざ敵の気を引かせてまで助ける必要はないぞ。 私みたく戦闘力の乏しい看護員の代わりはいくらでもいる。> 「そんなこと―――」 <だが一足遅ければ確実にスクラップにされていただろう。感謝する。> 「・・・お礼なら皆に言って下さい。私は貴方を引っ張っただけですから・・・。」 <そうかね。> 素直に嬉しがらず、そう遠慮するとはつくづく人間は変わった生物だ。 火花を散らしながら故障した部分を治療しながらグリーはそう思った。 その光景を目にしつつ、はロランJ達のいる方を何回か横目にした。 <・・・行って来なさい。彼らが気になるのだろう?> 「!!・・・でも・・・。」 <私のことは気にするな。このくらいで心配される程やわではない。> 「・・・わかりました。でも無理はしないで下さいよ!」 キッパリと忠告してからは再び戦場へ向かった。 どんなに傷ついても修復可能なトランスフォーマーにそのような言葉をかけられることは 一度たりともなかった。 そんな言葉を言えるのは無垢であるからか、ある意味貴重な人材だな―――グリーはほくそ笑んだ。 <(少し問題(・・)となることが起きてしまったが・・・本人には言わない方がいいだろう)> グリーの気遣いが良い方向へ転がるかは誰も知らない。 *** 始めからTFの姿で行くのは確実にバレる。時間はかかってしまうが、上手くこちらを有利な立場に置きたい。 戦いによって道端に転がる障害物を避けながら行くと、ふと前方に人影が動いたのを目にした。 まさか住人か・・・? だがそう不安になることではなかった。 ・・・否、これから起こることに関しての不安の『種』と言った方がいい。 「セツさん・・・?」