グリーと言う金属生命体の緊急信号の発信源は、この研究所から遠く離れたアメリカ―――
セツの故郷でもあった。
セツは普段『どうでもいい』と表では辛辣に言うが、目の前でたった一体のロボットによって故郷を
滅茶苦茶にされている様を見て呆然とした。
数ヶ月の間、暴動や犯罪など知らない平穏な町が、火の海になっている。
絶対に口には出さないが、将来バイクレースのチャンピオンを目指す自分をバカみたいに応援する親と、
学生時代からよくつるんでいた数少ない理解者の友人もあそこにいる。
無意識に血が滲むまで拳を握り締めていた。
皆を助けたい―――だが今更行って俺に何ができる?
今まで散々研究所の彼らを罵倒した自分が「この期に及んで何を言い出すんだ。」と見られるのがオチだ。
おまけに不安しか漂わない空気に誰も出撃しようと名乗る者はいない。
セツはそら見ろ、と心の中で鼻を鳴らした。所詮、俺達は人間なんだ。
ロボットに変身できるからって次元が違う。対等に戦えるという問題じゃねえんだよ。
だが、そんな静寂を破ったのはだった。
「私を・・・・・・戦場へ連れていって下さい。」
コイツ・・・・・・本気で言ってんのか?さっきの映像見てなかったのかよ?
口ではそう言っているが、完全に震えている。この少女も相沢達と同じく『THF』の一人だ。
一度だけディセプティコンと戦ったらしいが、やはり恐怖心を拭えないでいた。
「地球を守れるかどうかはともかく・・・そのディセプティコンをどうにかしなきゃいけない・・・。」
でも自分一人だけじゃ多分無理だ。本当は皆と力を合わせたいが、何とかやってみる―――。
自ら死に行くような物言いだった。
しかし何故あんな・・・覚悟を持った目ができるのか理解できなかった。
以前まで普通の女子高生だった少女の一声だけで、相沢達までがあんな顔ができるのか分からなかった。
セツを除き、バラバラだった心が一つになったのをきっかけに、用意したヘリコプターで移動する達。
呆然と立ち尽くすセツはその光景を見て、ある考えが浮かんだ。
俺も乗れば家に帰れる―――!
だが自分も戦いに参加すると思われたくないし、ましてやTFと関わるなんて二度とご免だ。
まず彼らの視線が扉から逸らしている内にこっそり侵入する必要がある。
5人以上可能である大きめなヘリコプターなら上手く隠れるかもしれない。
学生の頃、しょっちゅう学校に忍び込んでは中に隠れてやり過ごす経験が
思わぬ形で役に立つとは思ってもいなかった。
「(くそ、結構せめェな)」
けれど家に帰れるまでの辛抱だ。
自分の寝床にようやく戻れると考えると、無理やり体を機体に押し込むなんて安いものだ。
戦場に近づくにつれ、振動で激しく揺られても、じっと堪えた。
しばらくして扉が開かれ、外へ降り立つ足が見えた。
最後に白いブーツが出て行ったのを見て、素早く機体から抜け出し、そのまま速度を落とさず駆け出した。
よし、着いたぞ・・・!
ここまで来れば後は家まで直行するのみだ。自分の住む地域にも被害が及んでいないことを祈るしかない。
爆音がちょうど自宅方面から轟いた。例の戦闘機型ディセプティコンと戦っている最中だろうか。
何もせず、ただ帰ることだけを考えている自分。己の命を懸けてでも戦う達。
一瞬、罪悪感が押し寄せて来るが、それを振り払うように首を振った。
「(躊躇するな!俺には関係ねえことだッ!)」
振動が弱くなり、障害物を避けていくと後方からか細い声が掛かった。
「セツさん・・・ですか?」
ディセプティコンと対戦しているとばかり思っていたが驚いた表情でセツを見ていた。
研究所に残ったと思っていたのだがら当然のリアクションだ。
互いに沈黙する一方、セツの方面から金属同士がぶつかり合う音がよく響いた。
ミサイルが不運にも近くに直撃したことで、先にが動いた。
ここで、数ヶ月間訓練した成果を発揮した。
<セツさん、ここは危険なので安全な所へ避難して下さい。>
が発したのは予想外の言葉だった。
「何故ここにいるんだ?」とか「ここに来たからには一緒に戦ってもらう。」という言葉を聞く気でいた為、
思わず凝視した。何も答えないセツを見て、見たこともないロボットに驚愕していると勘違いしたのか、
<安心して下さい。私はです。>と言った。二言目で、ようやくセツが我に返った。
「・・・他に言うことがあるだろ。」
<他に・・・?あ!そうだった。セツさん、お怪我はありませんでしたか?>
本人は純粋に心配して言っているのだが、セツは今度こそ間の抜けた表情になっていた。
そんな彼をよそに、宛てに無線機が鳴った。
"!今どこにいるの・・・!?"
相沢からだ。相当やられたのか、時折火花が飛び散る音まで混じっていた。
<えっと・・・恐らく相沢さん達がいる所から3kmほど離れたとこに・・・。>
"気をつけて!ライトスクリームがそっちへ向かっている・・・ッ!"
<その通りだ。>
頭上からその声が聞こえた時には既にの機体は壁に突っ込んでいた。