不意打ちであった為、後頭部に大きな衝撃を真に受けてしまった。
何とか体勢を立て直すが、相手の方が素早かった。
ライトスクリームの足が、起き上がるの胴体に容赦なく突き降ろした。
そのまま地に押し戻し、身動き取れないの額に銃口を向けた。
反撃の時間も与えない実力者の攻防に、改めて『力の差』というのを思い知らされた。
<他愛もない・・・。少しは楽しませてくれてもいいんじゃないのか?人間諸君。>
人間のように金属の表面の形を変えて、不敵な笑みを浮かべている。
嘲笑うライトスクリームの言葉を無視して、踏みつけてくる足をどかそうと腕に力を込めた。
<余計なことはするな。>と頭上から更に銃口を額に押し付けられる。
<トランスフォーマー化する人間は・・・お前と、向こうに隠れている奴一人か。>
セツのことだ―――ぎょっとして、何とか彼だけは守らなければ!と
ブレインサーキットをフル稼働させた。
危険を悟ったセツは、音を立てないよう慎重に体を動かす。息を殺して、闇に紛れる。
しかし、めざとく気配を察知され、ライトスクリームの銃口がからセツへ向けられた。
それを機に、は両腕から内蔵されているミサイルを撃ちつけた。
至近距離であった為、ライトスクリームの機体が後ろへ吹き飛んだ。
だがその際、セツを狙っていたエネルギー砲がちょうどセツの真上に当たった。
鉄屑となったコンクリートがセツを襲う。
<危な・・・ッ!!>
他人を優先したは迷いもなくライトスクリームに背を向けた。
それが仇となって、上半身だけ起こしたライトスクリームの銃弾を受けた。
声も出ず、背中を損傷した勢いで、セツの方へ倒れ込んだ。
セツが表情を強張らせたまま硬直していると、ガレキが二人を積み重ねるように下降した。
ガレキで埋もれたそこから、何の音も発しなかった。
<これで全員か・・・。全くもって期待外れだった。>
破壊大帝は何故この星にこだわる・・・?
自問を繰り返しては、無理やり振り払った。己の野望を果たすべく、その場から離れた。
まず、オートボットとTF化の人間をサポートする奴らだ。グリーはそう遠くにはいないはず。
***
息苦しさを感じて、(頭をぶつけたであろう)後から来る痛みに涙目を浮かべながら
セツはゆっくりと体を動かした。だが思うように動けない。周りが暗い。
手探りで分かったことは、狭い空間に自分と、未だTF化を解除していないの頭部があるということだ。
もし、彼女が咄嗟に自分を覆うようにしてくれなかったら、そのままガレキの下敷きになっていたはずだ。
一度目は、流れ弾によるガレキから、
二度目は、ライトスクリームから、
そして、三度目は誤発によるガレキから―――は自分を救った。
この事実に、セツはひどく困惑していた。
<うっ・・・・・・。>とノイズが混じった声が正面から漏れる。
の大きな頭部が僅かに動くと、彼女の上に積んであるガレキが崩れようとしていた。
つまり、自分の真上から―――・・・
「待て!動いたら岩が落ちて来る!」
思わず口から出したセツに、の頭部はピタリと静止した。
音が止んで、セツは盛大に息を吐いた。
<セツさん、そこにいるんですか?今視界が真っ暗で・・・。>
「ああ、お前のすぐ近くにいる。」
コンコン、と分かりやすくの頭部を軽く叩く。
<・・・よかった。>と排息混じりには言った。
<ごめんなさい。貴方を、巻き込んでしまって・・・。>
「は?な、何でお前が謝るんだよ・・・?」
<だって、セツさんはこういうことを望んでいなかったはずです・・・。
私が背を向けたばかりに・・・。>
「っ〜〜〜ガーガ―うるせェんだよノイズがッ!さっさと元に戻っ―――いやダメだ!
やっぱ戻るな!」
<・・・はあ・・・。>
怒ったり慌てたり忙しいセツの言葉に、は文句を言わず応じた。
気まずい空気の中、徐々に酸素が薄くなっていく。
危険だと頭で理解している中で、セツは「何で・・・。」ポツリと呟く。
「何で俺を助けた?散々お前らを罵った俺なんかを・・・・・・。」
<私も以前まで・・・貴方と同じ立場でした。>
<セツさんは、一緒にしてほしくないと思うかもしれないけど・・・。>と間を置いた。
<セツさんが協力しなくても、仲間じゃなくても・・・・・・救える力があるのに見過ごすなんて
私にはできない。それに・・・セツさんは優しいよ。>
「あ・・・?」
<さっき、"元に戻るな"って言ってくれたでしょ?
今閉じ込められてて空気がなくなっているから・・・・・・。一番辛いのはセツさんのはずだよ。>
気づいていたのかと分かった途端、顔が火照ったのを感じた。
今、の顔がずっと平地に向いていたのが幸いであった。
「・・・はっ。辛いのはどっちもだろ。」
セツなりの、精一杯のお礼だった。その時、ノイズが入った無線が入る。
最初は全く聞き取れなかったが、徐々に正常に戻っていった。
"・・・!!聞こえるッ!?"
相沢総司だ。音量が高いからか、セツにも届いていた。
<はい。遅くなってすみません・・・。>
"よかった・・・!ライトスクリームの狙いはウィトウィッキー研究所みたいよ。
今すぐこっちに来て!"
<そうしたいんですが・・・ちょっとトラブルで・・・・・・。>
「。」
前方から、セツが初めて自分を呼んだ。は、言うのを止めた。
「俺に、ロボットになる方法を教えてくれ。」
『ロボット』―――トランスフォーマーのことか。
しかし何故、あんなに拒んでいた彼が今になって・・・?
「言っておくが、俺はこの体になったことを許しちゃいねェ・・・。
かと言って・・・何もせず逃げるくらいなら、この体を利用する。」
<セツさん・・・・・・。>
「それと、だな・・・・・・お前まで閉じ込められてるから仕方なく、だ!
か、勘違いするなよ!」
<ええ、分かってます。>
嘘が下手な人だ。心の中でクスリと笑った。
<えっと、ですね・・・。初めてロボット化する際、
一度私のような機体や部品に触れればセツさんの体にあるオールスパークが反応して変身できるようになります。>
「触るっつったって・・・ケータイすら持ってねェぞ。」
<私の頭に触れればいいんですよ。>
迷いもなく言ったに、セツは目を見開いた。
「ちょっと待て。お前さっき部品って言ってたじゃねェか!もし失敗したらお前は・・・!」
<いいんです。回復するまで時間かかりそうですし・・・。それにセツさんなら大丈夫。>
「どういう根拠だよ?」
<強いて言えば・・・・・・優しさですね。>
「・・・ホントにお前、クレイジーだぜ。」
だが、不思議と彼女の言葉を聞いて、不快感はなかった。
こんな自分を信じてくれる。それだけで、心が幸福感で満たされた。
セツの手が、の白銀色の頭部に触れた。
すると、セツの体内がカッと熱くなった。今までにない状態に、セツは恐怖を覚えた。
脳内から<大丈夫。心配しないで。>と声が聞こえた。徐々に、セツの心臓の鼓動は落ち着きを取り戻していった。
「皆・・・こんな気持ちの中で変身したのか・・・。」
心の中で言ったつもりが、ポツリと口から漏れた。
目を閉じたまま、自分の体が『機械』に変わっていくのを感じていた。
ゴシャッと音がしたと目を開けた時には既に自分はTF化していて、ガレキの山から脱出していた。
<あれ・・・?>近くから呟いたの方に振り返ると、何故か傷がなくなっていた。
<何だ、ちゃんと直ったじゃねェか。>
<そう・・・みたいですね。腕すら動かせなかったのに・・・。>
これも、オールスパークの欠片によるものだろうか。
しかし今はそう悠長に考える暇はない。
<よし。その何とかアイスクリームって奴を叩きのめしてやるぜッ!>
黒くピカピカの機体に、セツの豹みたいなフェイスが、不敵な笑みで刻まれた。