「おじさぁぁあん!!!!」
暴風がおさまり、は絶望的な表情でガレキの上を走った。
さっきまでいた場所は壊された石柱のガレキで埋まっていた。
「嗚呼・・・やだ、いやだ・・・お願い・・・早く出てきて・・・!!」
女一人の力では苦難である重量なガレキを、体全体を使うように分厚いコンクリートを上げて別の方へ倒す。
それを繰り返してどのくらい経ったか・・・ようやく蔵人らしき人の一部が見えた。
奥を見るとちょうどガレキが上手い具合に彼を覆うようになっていて、
外見上ひどいケガはないが意識を失っていた。おそるおそる蔵人の手首を取る。
どくん、どくんと温かい脈があることに安堵を漏らした。
「よかった・・・!」
引き続きガレキの中から蔵人を引き出そうとする。その光景をデッドラインは横目で盗見する。
<フン、小さい割によく俺のレーザー砲から逃れたものだ。オートボットも堕ちたものだ。
何故こいつらに加担するのか理解しかねる・・・。>
<何だ?デッドライン。お前さんのお得意の技が外されて悔しがってんのか?>
<ッ―――な、んだとッ・・・!!?>
<よそ見すんなよ。まだ戦闘中だぜ。>
ロランJが繰り出した拳をまともに受けたデッドラインはバランスを崩し、
その場にあったタンクの山が盛大に崩れた。
***
破片や光線が届かない場所へ移動し(本当はもっと遠い場が好ましいが)、自分のコートを枕代わりにして
蔵人を横にしていた。生死に関わるケガはなかったが、いつ目を覚ましてくれるかわからない。
は静かに見守りながら彼の手をぎゅっと握った。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい、おじさん・・・。」
さっきまで蔵人の命が危ないと豪語していたくせに、この結果だ。
自分の身を心配する前に、大切な人を危険に晒してしまった。
彼女の目から落ちた涙が蔵人の頬を伝う。わずかに眉を動かしたが、起きる様子はなかった。
もう、一生私のことを許してはくれないだろう・・・。
「10年間、迷惑ばかりかけてごめんね・・・。」
まだ両親が健在していた幼稚園生の頃。
小さい頃から霊が視えていた私にとってそれは普通のことだった。
「先生のとなり―――その女の人は誰なの?」
絵本を音読していたその先生から笑顔が消え、楽しく聞いていた他の園児達も固まっていた。
それから先生達は私との関わりを避け、最初は「何言ってるの?」「何の冗談?」と
きょとん、としていた園児達も離れていった。
そこから噂は彼らの親に届き、心のない噂が一人歩きした結果、小学校に上がっても白い目で見られた。
私が皆にとって『普通ではない』と理解したのはそう長くはかからなかった。
「どうして私は普通じゃないの?何で霊が視えるだけでみんな無視するの?」
まだ噂が広がる前、私と同じ霊感体質である母に子供である母に子供であるが故の思いをぶつけた。
「ごめんね。ママが霊が視えるからね・・・きっと貴女にも継いでしまったのよ・・・。」
自分が悪いんだと涙ぐみながら無理やり笑顔を浮かべる母。
その数ヵ月後、母と父と共に交通事故で亡くなった。以来、私は友人を作ることはしないと決めた・・・。
―――ドォォオンッ
遠くで地響きする音に現実を引き戻され、は肌が傷つくんじゃないかというくらい少々乱暴に
涙を拭った。
***
<どうしたオートボット。先程の威勢はどうした?>
<っ・・・うるせェッ・・・!>
激しく火花が散っている傷んだボディのロランJに対し、デッドラインの損傷はほとんどなかった。
<これが経験の差だ。半人前の戦闘員など・・・生まれたばかりの赤子にすぎない!>
<・・・へっ。よーく学習しとくぜ。何百年も戦に出ている奴らは口うるさくなるってな。>
<ッッ―――貴様ッ!!>
膝をついているロランJに何度も発砲した上、容赦なく頭部を踏んだ。
<よくも我らディセプティコンを・・・!!リベルトロン様を侮辱したな!!!>
暴言を浴びせ、何度も踏みつける。しばらくして少し冷静さを取り戻したデッドラインは、
それでも身動きしないロランJを仰向けにするように蹴り返した。
カメラアイには亀裂、青の光が弱々しい点滅している。
<あの時・・・貴様はあのまま逃げていれば良かったのだ・・・。二度と顔を合わせしなければ楽になれたもの・・・。>
<・・・。>
<その生意気な口を叩きつぶす前に聞く。貴様は敵であるが、それでも我らと同じ星に生まれた戦士。>
<・・・。>
<なのに何故人間共の味方になる?欲望のために平気で傷つく生き物に―――。>
ダメージによる損傷でうまくブレインサーキットが作動しない。
それ以前に物事を深く考えるのが苦手であるロランJは普段あまり活用しない。
だが、今の彼には『これからどうしようか』『コイツを倒す術は他にないのか』―――
という考えは一切ない。
<僕は頭が悪いからな・・・。いつも通り接してみても、どうも相手の気を悪くさせてしまう・・・。>
<ここに来てガガッ・・・間もないガッ・・・・・・アンタが思ってるほど人間って・・・悪くもねェぞ。>
<ア"ア・・・・・・皆に怒られるよなア"・・・。>
薄く笑みを浮かべているように見えるロランJ。もうそれ以上何も語るまい。
それを見て同郷のよしみか、デッドラインはフックを掲げて一気に仕留めようと振り落とした。
―――カンッ
何とも小気味良い音がその場の空気を遮る。
デッドラインは軽い衝撃があった頭部を掻きながら、ジロリとカメラアイを動かす。
そこには小石を手に緊張を隠しきれていないが立っていた。
<貴様か・・・。そこで大人しくしていろ。後でゆっくりオールスパークの行方を聞かせてもらう。>
<ア"ッ・・・!?お前っ・・・何で戻って来タ・・・!?>
このくらいででデッドラインの気を逸らすのは一時的でしかない。なのでもう一回。
カツン。意外にもすんなり当てられたので再び小石を投げてやった。
するとデッドラインの機体が小刻みに震え始める。それと同時にも体勢を変える。
<さっきから黙っていればッ・・・!!あの男と同じようにした方が良さそうだな!!>
今度は彼女に銃口が向けられ、ロランJは無理やり体を動かそうとするが、代わりに火花が飛び散るだけ。
静かに睨むは一瞬体を浮かし―――彼らとは別の方向へUターンして走った。
これまた想定外のことにふいを突かれる。だがその行動が完全にデッドラインの気を逆撫ですることになる。
<ッッ・・・この人間風情がッ!!どこまでも俺をバカにしやがって・・・!!>
「(来た・・・!)」
そう、これは全て彼女の作戦だ。
ロランJのように戦うことができなくても、敵を誘い込むことくらい人間でも可能だ。
彼の今の状態では確実にやられてしまう。せめて仲間を呼ぶまでの辛抱だ。
はっきり言って恐い・・・けれど、彼の仇くらい取らなくては気が済まない―――!
人気のない海岸沿いにある廃車置き場にたどり着くと、違和感を覚えて振り返る。奴の姿がない。
こちらの考えがバレたのか?
廃車の影から自分が通った道を見た途端、前列に並んであった廃車が何台か横に吹っ飛ばされた。
<隠れてもムダだ。貴様が浴びたオールスパークの光が残っている限り、俺は追い続ける・・・!!>
言葉からして、どうやら体内オールスパークの欠片があることを知らないようだ。
上を見上げ、ビルの屋上にある廃車を壊す際に使われる重機を確認すると、
デッドラインの目を盗んでそちらへ向かって走り出す。
その僅かな差を敏感に反応したデッドラインはセンサーで追いながら邪魔な障害物を破壊していく。
人間サイズしか入らない出入り口さえ躊躇なくフックで壊してはの姿を追うが、
彼女の方が先に上へ上っていく一方。
<クソッ・・・ちょこまかと・・・!!>
彼女に目掛けてフックワイヤーを投げるも空振りする。
だが障害物に当たった際、その破片が凶器となっての太ももの皮膚を切った。
足に痛みが襲うも、最上階を目指した。
「はあ、はあっ・・・あった・・・!!」
先ほど目に焼き付けた重機に駆け寄る。大分古びているが、幸いにもカギがついている。
試しに一回動かすと大きく揺れただけで再び静止した。
これを動かそうと無謀な挑戦を思いついただけで終わってしまう。
何とかならないかと言わんばかりに叩いたり蹴ったりしている内に再び大きな揺れが起きる。
「(動いた・・・!?)」
だがそんな甘い思いとは裏腹にこの建物全体が震動し始めた。
巨体でよじ登るデッドラインの姿を目に入れた時、思わず後退して重機にぶつかった。
すると突然自分の体の奥から『熱』が湧き出す。
<ムッ・・・!これはオールスパークの反応・・・!!>
奴がここまで身を乗り出し、「ここまでか。」と思われた瞬間、突然重機の鉄球がデッドラインに目掛けた。
反応が遅れた為、無様にも顔面にヒビが入った。
「(よくわからないけど助かった・・・!)」
ホッとしたのも束の間、ドスッと鈍い音がしたと気付いた時には視界が大きく反転していた。