「やった!!」と思わず笑みが綻ぶ。否、そもそも最初から油断するべきではなかった。
けれど自分は人間だ。『情』というものにすぐ左右される。
それが・・・こんなことに繋がってしまったのだから。
口に広がる鉄の味。ぼやける視界に映った制服。
腹部にさっき目に霞んで映ったあの破片が刃となって突き刺さっている。
「(うわ・・・赤黒くなってる・・・)」
不思議と痛みはなかった。だが思うように動けない。
そうしている内に腹部から血のシミがみるみる内に広がっていく。
頭では『やばい』と分かってても、指一本動かすだけで精一杯だ。
やるだけやった。蔵人の仇は取れたんだ。(あのくらいで倒すことは不可能だったが)悔いはない。
でも―――。
「(なんてちっぽけな人生なのだろう・・・)」
思い返せば辛い出来事ばかりだった。でもその中で彼がいたからこそ、今の私がいる。
そして、その命はもうすぐ消える。
「(朝は辛いけど・・・ちゃんとご飯食べてね・・・・・・・・・)」
無意識に笑顔を浮かべたまま、の体は動かなくなった。
そこに二度も身を乗り出したデッドラインは、
亀裂の入った顔から鉄屑をこぼしながらを目で捉えた。
<とんだ時間を費やしたがようやく任務完―――。>
最後までその言葉は届かず、代わりにビルから落下する音が盛大に響く。
ドシンドシンと足音を立ててやって来たのはスクラップ寸前のロランJであった。
背中からかけて装備してある銃口から煙を吹いていた。
が時間稼ぎしたおかげでエネルギー砲が使えたが、あとは弾丸しかない。
それよりも、彼女の反応が突然小さくなったのが気掛かりだ。
<何だよお前。そんなとこで寝てどうした?>
安堵しきっている彼をよそには答えない。
返答のない彼女に少しイラつき始めたロランJは、かなり手加減して指で小突く。
その反動で思いっきり仰向けから地にうつ伏せた。流石に様子がおかしいと焦り出す。
<じょ、冗談だろ?変な芝居はよせよ・・・。>
の柔らかい頬を突く。「痛いよ。」「くすぐったいから止めて。」―――そんな言葉も来ない。
ロランJのブレインサーキットに『機能停止』『死』が浮かぶ。
<その娘は死んだ。>
フックで瓦礫をなぎ払いながら冷たく言い放つデッドライン。
何の反応もないロランJに更に言葉を付け足す。
<こうなることを理解していながら無謀に動くなど愚かなことだ。>
<・・・ェ・・・。>
<・・・だがその娘に救われながらその意志をムダにする貴様はもっと愚かだ。>
<っるせェッつってんだよ!!>
冷静さを失ったロランJの銃口はちゃんと標的が定まっていなかった。
言いように言われ、完全にペースに流された彼はデッドラインの拳を受けた。
受身を取れなかったロランJの心臓部である『スパーク』が収納されているボディの一部が、
の体内に潜り込んだ。先程、デッドラインは<死んだ。>と言ったが、これは事実ではない。
実際やつは微量ながらも生命反応があるのを確認していた。
全ては任務を全うする為―――ウソの証言をとったのだ。
どんな震動が起きても目を開けることもなかったの指が一瞬動く。
それを引き金として、彼女の体が光に包まれる。
<な、何だ・・・!?>
<またあの光だ!一体何が―――。>
が浴びたのは放射能ではなく、正しくは『オールスパークの光』だ。
例えほんの一部のものだとしても、その力は大いに発揮した。
<ヌッ・・・この反応は・・・!!>
何故かデッドラインが焦り出す。光が弱まっていき、ビルは完全に倒壊したが、そこに何かがいた。
間違いなく人ではない。何せ我々と同じくらいの大きさだ。
ようやく景色がはっきり見えた時、全く見覚えのないトランスフォーマーが立っていた。
<何者だ貴様!?いや、それよりもお前は・・・・・・本当にトランスフォーマーか?>
白く輝く機体にオートボットでもディセプティコンでもない、青白いカメラアイが真っ直ぐデッドラインを見た。
一歩動き出したと思った瞬間、デッドラインの片腕が飛ばされていた。
<おおっ!!スゲェッ!!・・・・・・・・・あれ?>
思わず歓喜の声を上げる一方、そのトランスフォーマーはその勢いのまま、
建物を巻き込んで地に伏せていた。まるで生まれて間もない赤子のように不自由だ。
<おのれッ!あと一歩の所を・・・!!>
片腕を失い不利になったとデッドラインは歪な形のクレーン車に変形して撤退していった。
奴がいなくなったのにも関わらず、その白い物体は起き上がってフラフラと動き始める。
コイツが敵か味方かと考える余裕はない。
<おい待て!そっちは都市部だぞ!>
自分の腕から電流が流れるのを耐え、その者の腕をつかんだ。
案の定、ピクリと動かなくなったが、ここからが問題だ。もし抵抗すれば自分はもう終わりだ。
そして何より気になることが一つ―――。
<蔵人のおっさん・・・待ってるぜ?>
ありえないことだと分かっていながらの言葉だった。
何故なら彼らにとって、これまでの常識が覆されることを示すのだから。
<・・・ク・・・ロ、ド・・・。>
<ん?>
<オ・・・ジ、サン・・・・・・>
テレビの砂嵐に似た耳障りな声を発した瞬間、あの光が解き放つ。
白いボディが鉄屑となって次々と剥がれ落ちていく。大きさがどんどん小さくなっていき、人間サイズへ縮まった。
否、元に戻ったと言うべきか。
「・・・・・・・・・あれ。」
姿も身なりも声も、のものだ。
腹部に埋まっていた破片はなく、傷痕もなくなっていた。長く眠っていたように虚ろな目でロランJに近寄る。
「ねえ、一体何があったの・・・?」
一体どこから説明すればいいのやら・・・。
一難去ってまた一難。これは僕だけじゃ解決できないぞ。