<本当にいいのか?> 「うん。そうでもしないと・・・きっと納得しないから。」 <まあ・・・このおっさん意地堅いからな。> 「―――元気でね。」 聞き捨てならないセリフに我に返った蔵人は飛び上がる勢いで体を起こした。 使い古したちゃぶ台に、収まりきれず畳の上に乗っている布団と枕。更に掛け布団が彼の体にかかっていた。 何を隠そう、自分とが暮らすマンションの部屋だ。だが彼女の声が聞こえたはずなのにその本人はない。 「・・・俺は・・・・・・にあんなことを・・・!」 冷静ではなかったとは言え、不本意すぎる。俺は娘として育ててきた彼女を非難した。 ケンカは何度かあったが、今回ばかり様子が違う。何故自分が家に戻って来てるのか現状を知りたい。 力強く立ち上がった際、頭を打った痛みが全身を走る。 「クソッ・・・・・・こんなとこでじっとしてる訳には―――。」 自分のスーツの懐からバイブ音が聞こえる。 急いで携帯電話を取り出すが、画面には知らない番号が表示されている。 内心ガッカリ(・・・・)するも、手慣れた動作で通話ボタンを押す。 「もしもし?」 その奥から何の返事も来ない。「イタ電かよ・・・。」心の中で舌打ちして通話を切ろうとした瞬間、 テレビで昔深夜にあった砂嵐の音が耳元から離れていても十分届いていた。(というより音がデカイ!!) <失礼、調節し終えたばかりの者ですので・・・。> 「はあ・・・。」 何だコイツと思いつつ、もう一度耳を傾ける。 <貴殿は今非常に危険な立場にいる。今後外出は控えよ。> 「・・・ハッ。面白ェこと言うなアンタ・・・。こっちがそうしたくても俺と使い回す上司達は―――。」 <彼らはいない(・・・)。既に貴殿を辞職させたのだ。行ったところで門前払いされるだけだぞ。> 「・・・・・・・・・一体何がしてェんだテメーは?」 <貴殿を守るよう命が下された者。どう足掻こうがそなたを監視するのも拙者の任務。> 「どういうことか説明しろッ!一体誰な・・・って切りやがった!クソ!」 悪態ついて自分の携帯電話を畳の上に投げつけた。 そんなことが起きている部屋の窓をじっと見ているかのように、 謎の黒い覆面パトカーが道路の上で佇んでいた。 *** 海面にそびえ立つウィトウィッキー基地。ここを目にするのはこれで二回目となる。 頑なに拒否していたが戻って来たことに彼らは当然唖然としている。 「あの・・・勝手に出て勝手に入って来て早々に悪いんですが・・・・・・仮眠・・・室か何か・・・  お借りできませんか?」 「・・・え?!えっ・・・あ、そっ・・・そうだよね!もう遅いし疲れただろう?  ベッドも完備してあるからついて来て。」 「ありがとう、ございます・・・。」 スパイクの言葉通り、彼女の顔にハリ(・・)がないように見える。 もし本当に海を渡ってずっと休んでいないのだとすれば相当疲労が溜まっているはずだ。 を連れて共に帰還したロランJにチップは車椅子を動かしながら近づく。 「よく連れ戻してきてくれたね。ありがとう。」 チップの言葉に。<何を言ってるんだ?>と首を捻る。<僕は何もしていない。> <全て彼女の意志さ。> その夜、は1日ぶりにまともな寝床で横になった。次々と投げられてくる問題に頭がパンクしそうだ。 ごろりと天井を見て、ぽつりと蔵人の名を口にする。 「(おじさん・・・ちゃんとご飯食べたかな・・・)」 いつ会えるかわからない・・・いや、もしかしたら一生会えなくなるかもしれない。 でも今(・)の彼からすれば私がいなくなって清清したかも・・・。 「(あ・・・だめだ。また涙が出そう・・・)」 自分で決めたはずなのにまた涙が溢れてくる。もう頼れる人間はいない。 これからは一人の力で這い上がっていかなくてはならない。私を残して逝った両親の分まで―――。 そう思った途端、自然に瞼が閉じた。 *** <『夢』というものは人間の記憶を適当に組み立てられた、というのだが全く不思議なものだ。  まるでドラマを観て感極まるように涙が頬を伝っている。この映像(・・・・)に映っているこの二人は肉親  ・・・というところか。> ・・・頭上から誰かが喋ってる・・・。 目を開くとロランJと違うトランスフォーマーがいて、しかも私が休んでいた部屋じゃない。 まさか・・・ディセプティコン!? <一気に体が硬直している。緊張と恐怖によるものだと認識した。> 「(だっ・・・誰か―――)」 そんな心の叫びが届いたのか、そこにやって来たのは意外にもダニエルであった。 「・・・・・・・・・何をしているのですかグリー?」 整かれている表情の眉間にしわがクッキリと刻んでいるのが遠くからでも分かる。 の姿を見るなり、すぐに駆けつけた。 「グリー・・・頼むから許可を取らずこんなマネをするのは止してくれ。」 <私はただ彼女の体内を確認しただけであり、何も「頭の中を覗くな。」とは聞いていない。> 「いや、だからそれはプライバシーというものが・・・。」 <グリー!夢ってのはどんなものだったか教えてくれよ!> 「水を差すなロランJ!!」 後からやって来たスパイク達がグリーと呼ばれるトランスフォーマー(どうやら同じオートボットのようだ)に 注意する何ともシュールな画ができている。 ロランJに至って人間の見る(動物もそうだと思うのだが)夢に関してかなり興味津々だ。 呆然とするに対し、空気を読んだダニエルが大きく咳払いした。 「それで・・・ロランJの言う不可解(・・・)なことを証明するものは見つかったのかい?」 <もちろん・・・。ただ興味本位にロランJの誘いを引き受けた訳ではないからね。> 「あの・・・何の話ですか?」 <はあの時さ―――。>ロランJが身を乗り出す。 <デッドラインを誘って―――スクラップ置き場で僕達再会したろ?それまでの記憶覚えてるか?> その時の出来事をもう一度思い返してみる。 デッドラインに反撃できた後、思わぬ事故に遭ってそれ以降記憶が途絶えている。 <奴(・)に向かって腕を斬ったのも、か?> 「・・・私が・・・?」 「何の冗談?」軽く苦笑してみせるが、ロランJは唸るばかり。 横で溜息(恐らく)ついていたグリーが口を割る。 <自分の体内にオールスパークの欠片があることは知ってるね? 私達トランスフォーマーや身の回りにある機械に触れて体に異変はなかったかい?> 「そういえば・・・。」その言葉に何回も心当たりがある。自分が過剰意識しているだけだと思っていたが・・・。 「もしかして何かおかしなことでも・・・?」 <君達からすればそうだが、我々には大変興味深っ―――。> わざとらしく咳をするスパイクにやれやれと言った風に軽く謝罪した。 <君の体をスキャンしてロランの言う戦闘時間前とその後を調べてみた。> 「(そんなこともできるんだ・・・)」 <本当にただ割れたあとの欠片が・・・・・・今ではスパークと同じ(・・)形をしている。> 「どういうことだ?」 「えっ、あのっ・・・スパークって?」 「私達で言う、彼らの心臓のようなものよ。」 「・・・それと一体何の関係が・・・?」 未だ理解できていないの問いに周囲の空気が重く圧し掛かる。 悟ったスパイク達の表情は「まさか・・・。」と思いつつ驚きを隠せない様子だ。思わずゴクリと息を呑んだ。 <ざっくり言ってしまえば―――君の体は半分、トランスフォーマーになりつつ(・・・・)ある。> 頭部に鈍器で殴られたような衝撃だった。