貯金箱から出したある程度の小銭を握りしめ、 社宅からそう遠くない距離にあるコンビニへ向かった。 外出するのも億劫になる肌寒い季節になると、温かい物はもちろん、アイスも食べたくなる。 今回はその後者だ。 「えへへへ。」 社宅に戻り、アイスが入ったビニール袋を見て笑みを漏らす。 アイスが溶けない内に早く部屋へ帰ろうとしたところで声をかけられた。 「おっ、じゃん。どしたの?」 「買って来た。」 ガサリと音を立ててアイスが入っている袋を左近に見せた。 「こーの寒い日に行ってきたのかあ・・・相変わらず元気だなあ。」 「左近もね。一緒にアイス食べよ?」 「おっ、いいねえ!そうと決まれば刑部さんのとこ行こうぜ。  こたつ出してるのあの人の部屋にしかないし。」 「うん!」 *** 「・・・・・・して、われの所へ参ったか。やれ、とんだ頭の内の作りが良い者たちよな。  われのこたつはアイスほど安いのか。」 「もちろん、タダで出入りはしませんよ!ちゃんと刑部さんの分もありますから!  ・・・だよな?。」 「・・・刑部の口に合えばいいんだけど。」 見せるのはこれで二度目となる。 一応多めに買ってはいるが、足りなかったらまた買いに行けばいい。 大谷は袋の中を一見して意味深に頷き、くるりと背を向けた。 「中を汚すでないぞ。」 「ありがとうございまっス!」 「お邪魔しまーす。」 未だ大学生感が抜けていない左近の靴はやや乱雑に置かれているのに対し、 小さな運動靴はきちんと揃えられていた。それを見て指摘されたのは言うまでもない。 既にスイッチが入っているこたつに足を入れると、じんわりと温みが広がった。 「おっ!これ美味そう〜貰っていい?」 「いいよ。はい、刑部の。」 「ヒヒ、われの好みが分かるようになったか。」 大谷は機嫌良く、淹れてきた緑茶をそれぞれ目の前に置いた。 一番気になっていたソフトクリームを一口。うん、おいしいです。 すると、隣側から強い視線を感じる。そこにいるのは左近しかいない。 「・・・一口いる?」 「おっ、いいの?」 「目がそう言ってた。」 「あからさまよなあ。」 その代わり左近のギザギザチョコレートをくれと言うと快く頷いた。 コーンカップの方を持って左近の口元に移動させると、ぱくりと口を閉じた。 何だか大きな犬に餌をやっている気分になる。 そんな感じでぬくぬくしながらアイスを食べ、冷えたお腹を緑茶で温めた。 「は〜・・・おいしい・・・。」 「ぬしが買ったこの甘味とよく合うな。」 そう言って大谷はもう一口運ぶ。 小豆と餅入りバニラアイスをすっかり気に入ったようだ。 そういえば、まだ食べてなかったな。 がぼーっと見ていると、ずい、と大谷のアイスが載ったスプーンが目の前に差し掛かった。 「え、何?」 「これが食べたいとずっと顔に出ておったぞ。」 「で、でもそれ刑部の・・・。」 「元よりこれらはぬしが買った品。われにこれ以上、気を遣う必要はない。」 「ん〜〜〜。」 大谷の目線の圧力には敵わず、言葉に甘えて口を開けた。 餅がいい具合にとろけて絶妙な触感に思わず頬を綻ばせる。 「どうだ、実に美味であろう、ヒヒ。」 大谷は心底満足した笑みを浮かべ、我に返ったは顔を俯かせた。 「あーッ!だけずりぃー!刑部さん!俺にも!」 「・・・この皿を使え。」 *** この話を書き出した頃がちょうど冬だったので季節外れに感じるのはご容赦で。 2016/09/09