*前半だけ戦国時代で起こったお話からスタート *舞台はBSR3・宴 刑部がいない―――。地上を駆け回ってどのくらい経ったか。 相手の思わぬ奇策によってバラバラに散った石田軍だが、呆気なくも戦はこちら側の勝利で終わった。 だが、それだけではなかった。既に戻ってきてもいい頃だというのに大谷が戻って来ない。 その状況を部下から聞いたはすぐに行動を開始したのだ。 「(おかしい・・・すぐに見つかってもおかしくないのに)」 まさか・・・否、彼がそう簡単にやられるはずがない。だが、今は戦国乱世。 今回のように敵が何らかの手で陥れようとしてもおかしくはない。 例え、大谷吉継のような智将であっても―――・・・。 「ん・・・?」 森の奥から人の気配を感じる。一度足を止めて懐刀に手を伸ばした。 だが、見慣れたその姿を見てすぐに武器を手放した。 「刑部!」 「おお、ぬしか・・・ヒヒ、見つけたのが風の子とは。」 見たところ、目立った傷はない。 体力を消耗して、暫く草の上で座って休んでいたようだ。 ・・・・・・草の上で? 「御輿はどうしたの?」 「ちと、足を滑らせた。やれ、輿なしで移動とは不便よ不便。」 「何かされたの!?」 「まあ、落ち着け。ぬしが思うようなことはされておらぬ。  忍の頭がそう騒がしくしてどうする。」 その言葉に体からスーッと溜まった熱が抜けていく。 感情的になってしまったと不甲斐ない自分の額を叩いた。 「ごめん、刑部。ありがと。」 「・・・はて、われが何かさえずりでもしたか。」 大谷は知らん顔でそっぽを向いた。 些細な(大谷にとっては)事でも礼を言われるのにまだ慣れていない。 「見て通り、われは歩けぬ。ただちに輿の代わりを見つけよ。」 「その必要はないよ。うちがおぶるから。」 聞き違いだろうか、はて・・・耳が遠くなってしまったか? 大谷は外していた視線をゆっくりとに戻す。彼女は至って真剣だ。 「うちが御輿の代わりだよ。」 「ヒヒ、それはそれは痛い冗談よな。その腕でわれを支えられるか?」 「任せて、此間部下をおんぶしたまま一日中移動できたから。」 「・・・・・・さようか。」 彼女は絶対に首を横に振らないと大谷は早々に諦めた。 お世辞にも大きいとは言えない小さい背中におそるおそる体重をかける。 は待ってましたと言わんばりに大谷の両足に腕を回した。 布越しに伝わる人の温もりにぴくりと体が反応した。 は気にする様子もなく、立ち上がってすぐ歩き出した。 彼女が言っていたことは伊達ではなさそうだ。さわさわと風が優しく包帯の上を通る。 さっきまで汗を流して足を引きずっていたことさえ、奪っていくように。 「刑部、気持ち悪くなったりしてない?」 「・・・ああ。」 背中越しからでも、彼女の心音が伝わってくる。 この音を聴くだけで、不思議と己の濁った心が少しずつ温かくなっていく気がする。 気のせいだと首を振る一方で、この体をこんなにも密着した状態を長くいられることに動揺を覚えた。 「・・・風の子。早く移動できぬか。」 「わかった。三成が待ってるしね。」 やや嫌味を込めても、さらりと返された。 本当の意味を明かすことはなかった。 *** 現代、日本―――。 じりじりと蒸し暑くなるこの季節。社宅までの帰路から離れた茶屋の下で涼む中学生とサラリーマン。 一方はじとりと睨み、一方はその視線に堪えていた。 「もう一度聞く。何故そのような真似をした。」 「だから、クラスメイトの子が具合悪くなったから保健室まで運んだって!」 「ほう、おぶる必要もあるほどか・・・・・・仮にも男であろうに。」 「仕方ないでしょ。この暑さで熱中症になってもおかしくないんだから。  水分足りなかったのかな。」 前世では水不足になることはそう珍しくはない。 貴重な飲み水でもある為、あらゆる知恵を絞って枯渇を防いできた。 同じ時代を生きてきた目の前にいる少女もそれを知っている。 なのに今時の奴らは一体何なんだ。におぶされる程、力がない。 その男子生徒をかばう、もだ。前世といい、どうしてこうも優しくしようとするのか理解できない。 「ぬしの行動の早さは立派よリッパ・・・・・・だが、安易に異性に触れぬな。  年頃である故、賢人の過保護はより増すであろ。」 「うん!?ん〜〜〜・・・・・・・・・わ、わかったよ、ごめん、刑部。」 「分かれば、よいよい。ほれ、早よ食わぬと怪しまれるぞ?」 「(何か、口止めされてるような・・・・・・)」 などと、表に出す勇気はなかった。大谷は三成に甘い分、怒らせると怖い。 現にもあまり強く咎められることはなかった分、怒りを露わにした彼の目は尋常ではない。 抹茶味の葛餅を口の中に放り込むをよそに、大谷は静かに息を吐いた。 ちらりと、の後ろを見る。あの時、間近で見た背中とほぼ同じだ。 「(やれ、時が過ぎるのだけは早いハヤイ・・・)」 目を閉じて、庭の隅でチョロチョロと動いていた幼子を思い浮かべる。 あのやせ細った体も成長するのだな、と柄にもなく思った。 2016/09/09