*甘さ・誰おま注意報
に携帯電話を贈って数年。
世間体では、中学生の子供に与えるのはまだ早いとかそうでもないとか・・・。
理由は彼女の身の確認というのもそうだが、本音を明かすと、普段顔を合わせられない分、
メールだけでもやり取りしたいからだ。
お互い生活時間が異なる二人だが、それでも返信のメールが来れば、
それを律儀に文を打って送ると繰り返している。
硬い文章から、やや砕けた少女らしい文体に、送る数も増えていった。
「今日はこんなことがあった」「今夜のおかずは美味しかった」
「おかしな取引先と当たってしまった」・・・など、くだらない日常的なものばかりだが、
お互いを知るいい材料だ。
今日はどんな話をしようか、彼女は何と返してくれるだろう。
指定した彼女の着信メロディが鳴り響くと、副社長の顔付きがふ、と緩み、すばやく画面を見た。
『来週の期末テストで平均点以上とれたら、空いてる日に一緒に出掛けてもいいですか?』
一瞬、時間が止まった気がした。
これは・・・本気、なのか・・・?
の性格からして、僕相手にそんな冗談はしないはず・・・・・・。
今までこんな内容どころか、彼女の方から誘いが来ることなんて一度もない。
当然、半信半疑だが、内心、期待も高まっていた。
『それが本気なら一番を目指してほしいな。それ以外はいらない。
学年一位をとったら僕の時間を君にあげるよ。』
指を震わせながら打ってたくせに、我ながら嫌な男だと皮肉に笑った。
暫しの間が続き、これは流石にやりすぎたかと焦りを覚えた矢先、からの返信が来た。
『わかりました!半兵衛の期待に応えてみせます!』
最後に可愛らしい絵文字付き。
意地悪な難題を叩きつけたのに、健気な対応をするなんて彼女らしい。
なんて、そこまでは本気にならなかったが、最近が図書館へ寄り道したり、
食堂内の休憩室で勉強するのをよく見かけると、部下たちから聴いている。
彼女は以前から努力家だし、勉強はできる方だと知ってはいるが、
僕と出掛けたい一心なのかと思うと、不可抗にニヤけてしまう。
これは僕も期待を裏切るわけにはいかないな。
その一週の間、半兵衛はいつもより以上に仕事を捌き、部下からも厳しくも、
ごく稀に優しい表情をしていただと言う。
そして期末テストの結果は―――・・・
「どっ、どうしよう・・・。」
自分の部屋を忙しなくウロウロしている。
あーでもない、こーでもないと呟いてはあちこちに服が散乱していた。
そこへノックがして、断りもなしにドアが開かれた。
「なんだ、いるんじゃないか。」
「ひやっ!?はっ・・・半兵衛、さん・・・。」
「何回かノックしたんだが返事がなくてね・・・。」
「あ、ご、ごめんなさい、
今あるものでも半兵衛さんと釣り合える格好がし、したくて・・・。」
は今、ねねが編んでくれたセーターを上に、白いスカートと黒いレギンスを履いている。
彼女の服は成長に合わせて此方から買って贈ったりしているものの、
「必要なものがあるだけで十分です。」と彼女が頑なに遠慮していたので
揃えがいいとはいえなかった。家族なのだからもっと我が儘言っていいのにとつくづく思う。
自分からすれば今の格好でも申し分ないが、本人はそうもいかないようだ。
いつも片付けている彼女から想像できないほどの部屋の様子に苦笑いした。
「すみません、すぐに用意するから・・・。」
「いや、大丈夫だ。このままで行こう。」
「えっ!で、でも・・・。」
「君はそのままでも十分、魅力的だよ。ただ、これ以上待たされるのはいただけない、かな。」
「うぅ・・・・・・。」
恥ずかしさと申し訳なさが入り混じる中、低く唸った後にぼそぼそと、
「じゃ、あの・・・今日は、よろしくお願い、します・・・。」半兵衛の裾をぎゅっと握った。
小声でもしっかりと耳に届いており、「エスコートは僕に任せて。」と手を握った。
はますます身体を小さくした。
2016/12/31