*関ヶ原の戦い(若干4寄り)
*名前表記ありませんが、よその子お借りしてます(奏さん宅の紅ちゃんです)
*軽くクロスオーバーネタ含んでますが多分薄め
*どんなものも許せる人のみ推奨
「・・・降りそう。」
「ん?何?」
何とも言えない緊迫感のある何万も兵力を後ろに従える石田三成軍の武将三人の内一人が、
ポツリと呟くことで先程までの殺伐とした空気が薄れていく。
最初に隣に立っていた島左近が気付き、それに続き大谷吉継は「ふむ、不幸の星が降り注ぐか?」と
空を仰いだ。
「ううん、雨が。」
「雨?」
復唱してからもう一度空を見上げるが、雨どころか雪すら降る気配もない清々しい青空である。
今の三成からすれば、燦々と照らす太陽が雲に囲まれて光を遮断してほしい思いだろうが、
この恵まれた天候を見て何故そう言えるのかと、当の張本人を見た。
「何となく・・・?」
「えっ、何で疑問形?」
「ヒヒ、本場の忍のように『勘』とやらを真似るか。」
「勘・・・・・・そうかもしれない。」
「ほう。」
はこの戦場に立つと決まった時から拭いきれない不安に煽られていた。
彼女の前世が、今から400年も先の未来の現代人であるが故、この歴史を知っている。
史実通りであれば西軍は―――は考えるのをやめ、過った結末を無理やり振り払った。
何も知らない大谷は、「策のさの字も知らぬ風の子が・・・立派だ、リッパ。」
まるで本当の親のように少女の頭を撫でた。
「そーいや聞いたことがある。忍の長年の経験から来る勘って結構当たるとか!」
「しゆは長くも忍でもないからなあ。」
「う゛、わかってはいたけど・・・まだ認められないか・・・・・・。」
「あー、あー・・・でも気配りできるし貴重な紅一点なんだから落ち込むことないって!」
「ヒヒ、腕の良し悪しもないなあ。」
「あーもうー!刑部さーん!」
これから戦だというのにこの和やかな空気は何なのか。
初めこそ、まだが武将として配属されるまで正気の沙汰ではないと誰もが思った。
しかし今や凶王と恐れられている三成が最小限に自我を保っていられるのは彼女の存在もあるからだ。
以前までは上司と部下でしかなかった二人だが、主君とその親友が討たれて以降、
その上下関係は絶たれ、大谷同様にとも友人関係を結んだ。
そこまでに至る空白を、身分の低い我らが知る由もない。
三成を支える彼らがいてこそ、栄えていた豊臣時代のようにこの会話は続くのだ。
後ろに控える兵達の堅い表情も朗らかであった。
関ヶ原に深い霧が立ち込み始めたのは、その後からである。
***
あの会話が、ついさっきまで続いていたような錯覚を覚える。
顔にはススや生傷。忍装束や髪もボロボロであるが今それを気にしている場合ではない。
大谷隊は壊滅。それに続く東軍勢の総攻撃で、兵力の数で勝っていたはずの西軍は完全に壊滅した。
三成が討たれた。刑部も、左近もいない・・・・・・。
乱世を生き抜くために、己の為にと付けて来た力を友の為に使おうと思ったのはいつからか。
三成らを手助けできなかった自分は今、各地を転々としながら逃走している。
何のために茨の道を選んだのか、自分の無力さに反吐が出る。
佐和山城は落城。せめて彼の城だけは―――だが自分だけで取り戻すのは無謀すぎる。
誰が手を貸してくれる?
味方がいない・・・いない・・・・・・。
「・・・・・・ふっ、う・・・。」
熱くなる目頭を抑え、また別の地を蹴った。
その足具は泥だらけで、何日も走り続けたせいか固く変色していた。
いくら忍の鍛錬を続けて来た彼女も所詮、人間に変わりない。
戦で起こった裏切り、友の死で相次ぎ、既にの精神は極限状態まで陥っていた。
もういっそのこと楽になりたい。
そう思い始めた矢先、短いようで長かった逃走劇に終止符が打たれた。
懐かしい出で立ちが二人。
家康と、忠勝・・・・・・。
背後に太陽が昇っているからか、後光を放っているように見える。
陽を避け続けて来たにとってその光は眩しすぎた。
「やっと会えたな、。」
自分を見つめるその瞳は遊んでくれた当時と変わらない温かいものだが、
彼を映すの目に光はなかった。
家康が一歩近づくと、此方も一歩下がる。
「、聞きたくないとは思うがワシの話を耳に入れてほしい。」
「いらない。聞きたくない。」
「・・・。」
「どうせ処刑されるんだから、必要ない。」はまた一歩後退した。
「そんなことはしない。寧ろお前の命を、失うわけにはいかない。」
「・・・友、だから?・・・ハハ、そんなの嘘だ。
本当に友達のこと思ってるなら・・・・・・豊臣から出て行かないッ!」
「、」
「三成、家康のこと友達として見てくれたんだよ?
私の命を救うって・・・・・・三成は友達じゃないってわけか。
・・・・・・何で。何で何で何でッ!」
「違う!話を聞いてくれ!」
留め金が外れたかのように喚く彼女を見て
嫌な予感を覚えた家康は手を伸ばすが、目前で突然止めた。
駄々をこねた少女とは一変して、は慈愛の女神を思わせるような微笑みを浮かべていた。
「ひどいこと言ってごめん、家康。
君は・・・いや、貴方は敵同士になった今でも案じてくれる・・・本当に優しい人だ。
でもね、私・・・・・・もう疲れたんだ。」
そう呟くカサついた唇は生気のない色であった。
しゆの握り拳から、血が滴る。それを見て家康は「まさか!」と目を見開く。
名を叫んだと同時に、少女の身体は後ろへ倒れた。
これでようやく、終わる・・・・・・。
二度目となる死だが、彼らと再会できるとならばと思うと微塵も恐怖を感じなかった。
***
―――じゃり、じゃり。
先程とは一変して全く別の場所をただ歩く。
この世があるなら、ここがきっとあの世だろう。
初めて来るはずなのに、懐かしく感じてしまうのは何故だろうか。
暫くすると目の前に長い川が見えて来た。あれが、三途の川というものだろうか。
前世の私も、きっとここを通ったんだろうな。
先に進もうと右足を出す。体が動かない。もう死んでいるはずなのにこんなことがあるのか?
だがよく見てみると、自分の左腕を誰かが掴んでいる。
ゆっくり後ろを振り返ると、自分とほぼ同じ背丈のある『赤』を象徴とした姿の少女が立っていた。
地獄の番人・・・・・・にしては可愛すぎる。何故だろう、私は前にも彼女に会った気がする・・・。
「さん。」あの世であることを忘れてしまうような心地よい声だった。
「お久しぶりです。また会えてうれしいけれど・・・。」
何で、そんな悲しい顔をするの・・・?
「まだ・・・間に合います。貴女は、こっちに来ちゃだめなんです。」
「どうして?だって私はっ・・・・・・帰る場所も、友達も失った。
生きる理由なんてない・・・・・・。」
「いいえ。まだ失っていないですよ。ほら、待ってくれる人がいます。」
今度こそ本当に驚いた表情で彼女を凝視すると、
向こうから私を呼ぶ声と、眩い光がこちらに近づいてくる。
少女は私の背中をトンと押した。
「さようなら、さん。今度こそ、長生きして下さいね。」
そう言って優しい笑みで私を送り返し、光は辺りを包み込んだ。
***
何日ぶりに嗅ぐ畳の香り。微かにツンと薬品の臭いも混じっていた。
自ら傷つけた手首に包帯が巻かれている。
まさかまた、こうして布団の上で横になれるなんて思いもしなかった・・・。
体を起こそうとするが、思うように動かない。
少し経ってから女中が様子を見に来て早々に立ち去ったと思うと、
今度は廊下が大きな足音で騒がしくなると、スパンと障子が開けられる。
「!目が覚めたか!」
ホッと胸を撫で下ろすのは徳川家康。後ろから不謹慎だの何だのと家臣にまで注意されていた。
ああ、そうだ・・・・・・私は―――。
「すまない。二人きりにさせてくれないか?」
家康の放たれた言葉に、はスーッと体が冷えるのを覚えた。
再び訪れる静寂はとても居心地が悪い。
特に、家康の目を見るのが怖い。彼は今どんな顔をして私を見ているのか。
「単刀直入に言う。返答はしなくていい。ただ、今はワシの話を聞いてくれ。」
再会した当時と変わらない落ち着いた口調だった。
口を閉ざしたままのを肯定として受け取って話を続けた。
「ワシが豊臣から離れた理由、覚えているな?
お前たちに恨みを持たれる当然のことをした。
ワシに命を救われるのは、苦痛でしかないのだろう。
それでも三成は・・・・・・忘れ得ぬ友だ。三成の生をこいねがいた・・・・・・。」
、ワシに三成が遺したお前の生をねがう許可を。」
三成を思わせる言葉を口にして、家康は頭を下げた。
相変わらず沈黙を保ったままだが、微かに唇が震えた。
「ワシを一生憎んでいい。ワシの為とは言わない。
三成の為に、豊臣の為に生きてくれッ!」
が聞く耳持ったのは家康に心を許したわけではない。
自分でさえ、何故彼の話を素直に聞いてしまったのか分からなかった。
胸の奥が熱くなる理由も、全く分からない。
「勝手だよ、家康は。本当に勝手だよ。
三成に言ったら、少しでも救われていたはずなのに・・・。
ずるいよ・・・・・・やすにぃのバカァアア!!!」
堰が切れたかのように、は泣き叫んだ。
こんなに大泣きするのは久方ぶりだろうか。
ここに三成や大谷がいたら、「それでも豊臣の一員か。」やら「相も変わらず闇が似合わぬ。」と
怒鳴れたり弄られるに違いない。
その間に遠慮がちに左近が割ってオブラートに包んでくれるだろう。
そう思っても現実は残酷である。
私の今の様を、秀吉さんも半兵衛も・・・・・・彼らはどう思っているのだろうか。
関ヶ原の地で潔く死ななかった私を、ほんの少しでも生きたいと願ってしまった私を嘲笑うだろうか。
それでも構わない。
豊臣の為に生きる。それが彼らへの償いとなるならば、私は一生因果の鎖に縛られよう。
皆のことを思うなら、容易いことだ。
この世に未だ生を請う許可を