今からおよそ100年前―――。 ジョ―スター家の前に倒れていた私を最初に見つけてくれたのは、 その家の長男であるジョナサン・ジョ―スター。 時代も言語も違う国に取り残され、 『声』まで失い気が病みそうになった私を支えてくれたのも、彼だった。 そんなジョナサンには、誰にも打ち明けていない秘密がある。 ジョナサン・ジョ―スターに存在する『二つの魂』――― 幼い頃、川に落ちて溺れかけていたのをきっかけに、 何故か『シオン』という女の子の魂がジョナサンに憑依してしまったらしい。 俄かに信じ難い話だが、現代から100年も昔のイギリスにタイムスリップした 私が今存在しているのだから、そんなことが起こっても不思議ではない。 (ちなみに私の目の前で喋ってるのはシオンだ) ≪シオンもジョナサンも、大変だったんだね。≫ 「最初はね、当然戸惑ったよ。でも周りに父さん達がいたから・・・・・・。 だからも僕達を―――否、私達を頼っていいからね?」 その言葉と、そう発したシオンの顔は今でも忘れていない。 その顔が―――紫苑にとてもよく似ているのだ。 何故? 私は無意識の内に、彼女をシオンと重ねて見ているのか・・・? けれど、シオンはディオと共に大西洋に散った。ジョナサンの魂も・・・・・・。 「・・・?」 ≪―――何でもないよ紫苑。≫ そう、目の前にいるのはシオンじゃない。彼女に失礼だ。 無理やり頭から振り払うように、紫苑に笑みを返した。 ここに来てからまだ少ししか経っていない頃、 私は毎晩奇妙な悪夢を見るようになった。 また今夜も、その夢のせいで起きるハメになった。 『―――いやああっ!!』 「(・・・・・・紫苑!?)」 紫苑がいる部屋とは遠い位置にあるはずなのだが、 謎の察知能力が働いて彼女の『声』を拾った。 私はまだ夜明け前であるのを忘れて縁側を走った。 戸を開けると、布団の上で自分の体を抱きしめて丸める紫苑が目に飛び込んだ。 私が急に現れたにも関わらず、体を震わせていた。 「・・・・・・。」 ようやく口を開いた紫苑だが、 その小さな唇から出た声は消え入りそうなものだった。 私を映す紫苑の目には、絶望と恐怖が混ざり合ったような色で染まっていた。 とても、初めて悪夢を見たというものではなかった。 私がおそるおそる訳を訊くと、紫苑はぽつりぽつりと打ち明けた。 紫苑と誰かがいて、誰かが消えてしまう夢。 そこでいつも目が覚めてしまい、叫び声を上げていると言う。 「変な話よね、何度も同じ夢を見ているなんて・・・。」 「(紫苑・・・・・・)」 一瞬、「私もおかしな夢を見るんだ。」の言葉が浮かんだが、 今の紫苑を見て、とても伝えられる勇気はなかった。 自分は居候の身。 これを言って紫苑にまで余計な心配事をかけるわけにはいかなかった。 そして何より、優しく接してくれる紫苑を、 今度は私が支えなくてはならないと―――そんな使命感に駆られていた。 ≪私でよければ、側にいるよ?≫ 「・・・・・・ありがとう、。」 「(嗚呼、私が代わってやれたら―――)」 まだ完全には不安の色は消えていなかったが、 彼女の笑みが見れるだけでも、心の救いであった。