「ラザレス!」
待ち合わせ場所にやって来たは此方を見るなり大股で駆け寄ってきた。
とある喫茶店のテラスに響く彼女の声に何人かの視線が飛び交うが、すぐに定位置に戻った。
(本当は女の子なのに・・・)
ラザレスはカップをソーサの上に置いて、にこりと微笑んだ。
「ごめん、待ったか?」
「ううん。でも珍しいね。君が学校以外の用件なんて。」
「ああ、どうしてもホグワーツじゃ出来ないからさ。」
こっちに来てくれと案内するの背を追うように、ラザレスは喫茶店を後にした。
ロンドンの街並みから外れ、周りが緑に覆われた風景に変わる。
奥に進むほど人気がなくなっていく。もしかして、自分のペットを紹介するつもりだろうか。
ようやく足を止めて、改めて辺りを見渡す。
湖の真ん中にポツンと小さな島がある。
その小島には花どころか、葉が一枚も生えていない一本の樹があった。
動物らしき姿もなかった。
「一瞬だから・・・・・・よーく見てくれよ。」
は懐から杖を取り出し、一本樹に向かって一振りした。
杖の先からバチッと白い光が迸った。
すると、枯れかけていた枝から緑の芽を吹き始め、やがて蕾から花へと開花した。
その花はラザレスがよく知っているものだった。
「、これは・・・・・・。」
「そう、桜だよ。俺の叔母に無理言って小さいのを貰ったんだけどさ、
やっぱり人の手じゃ限界があるみたいだ。」
開花した花が散り始め、島が桃色で染まったと同時に樹は元の状態に戻っていた。
「本当にあっという間だね。」
「けど、俺が見たものを具現化させただけだから・・・・・・やっぱり本物じゃないとな。
本当は本物の、本当の美しい桜を見てほしかったのに・・・・・・ごめん」
「しょうがないよ、今は時季外れだし。でも、よく出来たね。
あの魔法はそんな簡単にできないよ。」
「前にラザレスの杖で見せてくれた桜を参考にした。他は本で。」
「なるほど・・・・・・それで、どうして僕に桜を・・・?」
はどうしようかと苦悶の表情を浮かべ、視線を泳がす。
何故そう言い辛い顔をしているのか。
「今日、あんたの誕生日だろ?今まで家族以外の相手に祝ったことなくてさ・・・・・・
今は何人かしてるけど、あんたには何をあげたらいいか分からなくて、
俺の好きな動物贈っても喜ぶか分からないし、それで候補にあがったのが―――」
「それで、僕に桜を見せようと・・・?」
「ああ・・・。」顔を合わせ辛いのか、背向けたまま小さく頷いた。
ラザレスに呆れていると思っているのだろう。「ごめん。」
「どうして謝るの?」
「だって・・・こんな有様だぜ?嬉しくないだろ?」
「とても嬉しいよ!僕の誕生日祝いにやってくれた君に何の非があるんだい?」
そう言うと、背向けていたの顔が此方に向いた。
「それは・・・・・・本当に?」
「"物しか贈らない"なんて風習があるわけじゃないでしょ?
の気持ちは十分伝わったよ。それとも僕の言葉は信用できない?」
「まさか!いや、でも、俺のセンス・・・・・・本当によかった?」
「そうだねぇ・・・・・・にしては物静かで繊細だったかな」
「そこまで言うか!?」
冗談だよ、とラザレスはくすくす笑みを溢す。
つられて、も笑みを浮かべた。
「今度は桜が咲く時期に見せてくれないかい?」
「だけど、この樹はもう・・・・・・。」
「植えてから大分経つんでしょ?なら可能性はあるよ。
また芽吹いて、花を咲かせてくれるよ。」
「・・・・・・不思議だな。ラザレスが言うと本当にその通りだって納得しちゃう。」
「そう?」
もう一つ、ラザレスとの約束が出来たと、は喜んだ。
もしかしたら本場の桜を見る日も、そう遠くないかもしれない。
***
#ふぁぼしてくれた人のお子さんとうちの子で小話書くより