。15歳。
マヌケなことに熱中症(多分)で倒れた挙句、何故か19世紀のイギリスへタイムスリップ。
そして―――それが原因であるのかないか、突然『失語症(仮)』になったというダブルパンチを受けた。
あまりにも痛い。苦しいと言うよりかなり痛い。
訳のわからない状況に陥る私を引き取ってくれたジョースター家はとても心が広い。
ジョージさんやジョナサンはもちろん、ジョナサンの妹であるジョアンも優しい。
「お姉ちゃん!何してるの?」
≪これ読んでた。≫
私がホラー系の本を見せると、ジョアンは「うっ。」と表情を歪める。恐怖ものは苦手のようだ。
「でも姉。」
「(ん?)」
「本当に学校に行かなくていいの?父さんは良いって言ってたのに・・・。」
≪ここにいさせて貰ってるだけで十分だよ。≫
それに心強い家庭教師がいるからね。
≪そうだ。私イギリス初めてなんだ。今どんなものが流行っているのか、どんな国か教えてくれない?≫
「いいよ!そうだね〜何から話そっか〜?」
人懐っこい子犬のような人柄はまさしくジョナサンの血を受け継いでると見た。
こんな人見知りである私に微笑み、年が近いということもあって、すぐ打ち解けた。
「姉も日本について教えて!」
≪いいよ。≫
こんな楽しい時間は今までにない。
大袈裟に言ってるかもしれないが、私にとってそれはずっと小さい頃から望んでいたものだ。
いつまでも続いてほしい―――その願いは一瞬にして砕け散るのだった。
「待って姉!」
「(!・・・ジョアン・・・)」
これからウインドナイツロットへ向かおうと外に出ると、知らされていないはずのジョアンが立っていた。
彼女も私と同様波紋が使えるが、治癒目的でしか効果がないらしい。
私が女であるから(多分)と頑なに反対を押し切っていたジョナサンだが、「が同行する代わり、
ジョアンは連れていかない。」という条件で、ようやく許可したのだ。
兄と同じく勘のいいジョアンだからこうなることをわかっていたんだろう。
≪ごめんね、ジョアン。≫
「・・・どうしても行くの?」
「(うん・・・)」
俯くジョアンの肩が小刻みに震えている。
「絶対っ・・・・・・帰って来てね!」
涙を必死にこらえるジョアンを見た私は思わず抱きしめた。
その時力強く抱き寄せてしまったが、ジョアンは咎めの言葉を言わず抱き返してくれた。
その温もりを肌に刻み、沸いて来る悲しみを抑えながら彼女に背向けた。
・・・それが間違いだったんだ。あの時私が立ち止まってジョアンの健在を確認していれば―――。
「・・・ジョアン!何故―――!?」
ジョナサンが叫ぶ先で目にしたのはベッドに横たわるジョアンの姿。
ふらつく体で寄り添い、震える手でジョアンの体を軽く揺さぶった。閉じた瞼が開かない。
もう、ジョナサンと同じキレイな瞳は私を映してくれないのか?
「おれはジョアンを気に入っていた。」
「だから連れて来た。」悪びれた色を示さず淡々と答えるディオに、ジョナサンは怒りで体を震わせ、
私は怒りの頂点に立っていた。
「初めましてっ。ジョアン・ジョースターといいます!よろしくね!」
緊張を解してくれる優しい笑み。
「私だって心配してたんだよ!頼ってくれたっていいじゃない!」
私に対してちゃんと、本気で面と向かって怒ってくれた。
≪ジョアンはどうして"姉さん"って呼ぶの?≫
「実は私・・・ずっとおねえちゃんがほしかったの!でもそんなこと言ったら父さんやジョナ兄も、
きっと悲しむから・・・。」
≪大丈夫だよ。それだけジョナサン達が大好きだってことなんだから。
―――もちろん、彼らの方も。≫
実は私も、妹がほしかった。
「そ、それで・・・・・・これからもそう呼んでいいかな?お姉ちゃん。」
≪―――もちろんだよ、ジョアン。≫
私には勿体無い、可愛い妹だった。それを・・・それをディオが―――
「(ディオォォオオオウッ!!)」
これまでに怒りと波紋を込めて、ディオに向かって走り出した。
***
「(―――これでよし!と・・・)」
掃除を終えた私はほうき等をまとめて元の場所に戻すと、ちょうど後ろから可愛らしい足音を立てて
私の背中に飛びついた。
「姉!掃除終わった?」
≪ちょうどね。待ってた?≫
「ううん、大丈夫!早速行こう!」
そう、私達が愛してやまないジョアンだ。(そんなフラグあると思ったら大間違いだよ)
話せば長くなるが、あの時―――ジョアンはちゃんと生きていた。
目を覚まさなかったのは私の起こし方が誤っていたんだと後にジョナサンは言う。
・・・え?ジョージさん?
もちろん元気ですよ。ディオのバカのせいで軽いケガをしたけど命に別状はない。
何故世界を巻き込む事件になったかと言えば、昨年に溯る―――。
同じ家で育ったディオはジョアンに想いを寄せていたらしく、
中々振り向いてくれない腹いせに『石仮面』を被って吸血鬼になった彼は「この世を、世界を支配するッ!」と
訳のわからない言葉を口走ったのだ。
「そんな理不尽な奴はお仕置だ!」
ディオに立ち向かうべくツェペリさんに『波紋法』を教えてもらった。
だがジョアンが死んだとばかり思っていた私はディオを一発でKOさせた。
後から起きたジョアンは「勘違いでもそれは酷いよ!」最もな言葉を吐いて、私はすぐに土下座した。
何やかんやで戦いは終わった訳だが、
同行したスピードワゴンやツェペリさん達も全員無事なので一応良しとしよう。
「ジョアン!そんな太陽の下よりも夜の方が素晴らしいぞ!」
「(黙れ)」
「WRRRYY!!」
「また二人をいじめていたのか!ディオ!」
「違う!まだ何も―――ひでぶッ!!」
私の『種子弾丸』とジョナサンの肘打ち(波紋入り)が決まって断末魔を上げる。
ジョナサンとアイコンタクトを取り、
心の中でガッツポーズをした所で「気をつけてね。」私達に向かって手を振った。
「ねえ、ディオは何て言ってたの?」
≪太陽の下で遊ぶのは素晴らしいってさ。≫
「・・・やっぱり吸血鬼になっても太陽が恋しいんだね。」
我ながらいいウソだ。
先程見た通り、ディオは生きている。
あの後一応和解したところで、いつも通りジョースター邸で過ごしているのだ。
今でも吸血鬼なので、二度と太陽の下に出ることはできないが、ジョアンの意見も兼ねて、
「どうすれば人間に戻れるか?」気が遠くなりそうな方法を共に探している。
ジョナサンとジョアンじゃなかったら確実にこの世にはいなかったはず。
感謝しろよ、ディオ。
≪何作ってるの?≫
「ん〜〜〜冠、かな。ジョナ兄達にあげるの!」
手際いい動作で摘んだ花を繋げていくジョアン。
それを眺めながら種を手の中で転がしていると、ふいに名前を呼ばれた。
「姉は・・・・・・今、楽しい?」
それは『今の生活』―――ってことだろうか。
≪楽しいよ。≫
「・・・元の生活より?」
元の生活―――ここに来るまでのことかな?
思い改めると学生時代の半分以上って黒歴史だな。
あの頃は辛いことばかりあったけど、何だかんだ言っていい思い出もある。比べるとどちらも悪くないな。
ジョアンに視線を戻すと何故か暗い表情で俯いていた。
「こんなこと言っちゃいけないってわかってるんだけど・・・・・・
ずっとここにいてほしいってばかり考えちゃう。・・・やっぱり、困るよね・・・・・・。」
何が言いたかったのかようやく悟った私は改めてジョアンを見た。鈍感な奴でごめんね。
この時代に長く慣れてきたせいか、すっかり忘れていた。(母さん達がいたら怒られていたに違いない)
改めるとすぐに決断するのは難しい。ここにいるのは楽しいが、帰りたくないと言えば嘘になる。
「吸血鬼がどうすれば人間に戻れるのか?」と嫌そうに伝えたが、もしかしたら―――・・・。
「―――え?時代を往復する・・・?」
≪私が100年以上も後から来たというのは知ってるよね?≫
「う、うん。だから元の時代に戻る方法を探してるんじゃないの?」
≪最初はそうだったけど・・・元の時代に帰っても、またジョアン達のところへ戻れる方法を見つけたいんだ。
どんなに時間の差があっても、どちらも大好きな居場所だから。≫
「・・・本当に?気を遣ってるんじゃなくて?」
≪―――ジョアンが困るならここは潔く帰ることに専念するよ。≫
「もう!何でそうなるの〜!姉のいじわる!」
「(ごめん、ごめん)」
しかしどんな言葉をかけても中々こっちを向かない。これは完全に拗ねたな・・・どうしよう。
一旦背を向けて考え始めた瞬間、頭に何かを載せられた。
これは―――花?
「あんなこと言っちゃったけど、うれしかったよ。でも姉がいじわるなこと言ったから小さめね。」
先程ジョアンが作っていたであろう花の冠は、手触りからして本当に自分の頭の一回りより小さい。
けれど結んでいる茎から僅かに残っている温もりは本物だ。私は振り向かないまま頬を緩める。
ジョアンを一度後ろに振り向かせ、彼女の背に近づく。
「・・・・・・姉?」
不安気につぶやくジョアンに、私はある方法で応えた。
彼女の頭上に舞うカスミソウ。その花のように、小さな『幸福』をたくさん感じられるよう込めて―――。
≪まだまだ早いけど、誕生日おめでとう。≫
当日はこれより、もっと驚かせてみせるよ。
私の可愛い妹さん。
Baby's breathに込めて