「さん、お願いがあるのだけど・・・。」 同じ部屋の住人である碧がいつもよりも控えめに声をかけてきた。 まるで内緒話をするようで、ここには二人しかいないのに・・・と考えた瞬間、 はハッと気づく。 「(まさか・・・・・・既に敵が!?)」 だが、敵と思しき気配がない。 もしかしたら射程距離外にいるのかも・・・そいつを彼女は見つけたんだ。 一人で自己解釈しているをよそに、碧はきゅっと一と結んだ口を開いた。 「私に・・・格闘術を教えてほしいの!」 「(・・・・・・えっ?)」 予想だにしていなかった言葉に、思わず間の抜けた心の声を漏らした。 あれ?と思いつつ、碧の返事に応えようと心を落ち着かせた。 「『えっとォ・・・・・・碧ちゃん』『どうして突然それを?』」 「旅立つ前、教えてくれたでしょう?  ジョセフさんのおじい様の代からジョースターと共に戦ってきたって。  『波紋』だけでなく『スタンド』をも扱うことができて・・・・・・  実践経験のある貴方からぜひ、戦う術を身に着けたいの!」 「『確かに、まあ・・・・・・。』」 とんだ思い違いした羞恥心よりも、戦うことばかりであった事実に複雑な思いが強かった。 碧たちのように『今』を過ごせていない自分はやはりどの時代でも異質な存在だと。 けれどが一番気にしているのは、それではない。 「『でも、何で私なの?身につけなくても君のスタンドだったら十分じゃ・・・?』」 すると碧は俯き、ずっと握っていた拳を胸に置く。 彼女の手が小刻みに震えていた。 「今のままじゃ駄目・・・・・・私がこの中でも最も非力だろうから、  いい的だって嘗められるんだわ。  ジョセフさんはきっと、断ると思う・・・。  それに、たった一人を相手にも対応できなくちゃ意味がないから。」 「『・・・・・・此間のことか?』」 それは珍しく碧がうっかり皆を見失ったあの日、 一人になったところをDIOの刺客に狙われたのだ。 帰りの遅い彼女を心配して迎えにいったポルナレフが撃退したことで難を逃れていた。 あれは彼女の不注意でもあるが、 あの時碧の『足音』がないことにもっと早く気づかなかった自分にも非がある。 「君だけ非があるわけじゃない。」と言いそうになるが、 ここまで碧を追い詰めているのは他にもある。 「ジャンは優しいから・・・・・・  いつでも頼ってくれって笑いかけてくれるたびに、期待しちゃうの。  ありもしない希望を持っちゃうのは嫌なの。だから・・・・・・。」 今ではほとんど塞がった頬に薄っすらと残る傷痕をなぞる。 碧がポルナレフに好意を寄せていることはもちろん、 ポルナレフも同様な思いを抱いているのは見て明らかだった。 だけど他人からの好意を素直に受け取ることが苦手である碧は、 無意識に悪い方へと考えてしまう。 口から言うのは簡単だが、今の彼女に伝えるのはそう上手くいくとは思えなかった。 承太郎やホリィのように長年共に過ごしていない自分がとやかく言う立場ではないと・・・・・・。 今、自分ができることはこれくらいしかない。 「『碧は脚力とかある?』」 突然投げられた言葉にきょとん、と目を丸くする碧だが、 「さあ・・・でも走るくらいは。」それでも健気に答えてくれる。 「『格闘技なんだけど、』  『拳より蹴りが得意だからそっちに偏っちゃうんだけどそれでもいいかな?』」 「あ・・・・・・ええ、もちろん。よろしくね、先生。」 「『"先生"はいらない。』」 まだ顔は強張っているものの、さっきよりも表情は明るく見える。 碧に格闘術を教えると決めたのは、彼女を追い詰めてしまった責任からではない。 本当に心から、彼女の力になりたいから。 鍛錬していない状態でも、自分の体重を支える筋力を日々養っている脚力。 鍛錬を積んでいけば蹴り技も、武器を持っているようなものだ。 ジョセフに怒られる光景を思い浮かべ、戦友に向けて小さく謝った。 これは自己防衛と伝えればいい。(まず、極真空手から入ろうか) *** #ふぁぼしてくれた人のお子さんとうちの子で小話書くより