「おっとォ! 発見〜!」 「(えっ、どちらさま!?)」 突然見知らぬ男に、馴れ馴れしく声をかけられてしまった。 しかし、話し方はどこかで聞いた覚えがあるような、ないような……。 考えている内に、男はズイズイとナマエに近付く。 「変装してっから分かンないかな、わたしだよ、×××! いやァ、この間はど〜も!」 衝撃に言葉を失ったものの、すぐに筆談を始める。 《変装ってものじゃないですよ! お久しぶりですが……!》 「あっ、敬語敬語、いらないっていっただろ」 《う、うん……》  特殊メイクばりの変装に、は不思議な気分になりながら×××を見る。 男だ。男にしか見えない。この姿からして、映画関係の仕事についているのだろうか。 しかし、わざわざ女である×××を男にする特殊メイクとは、いかがなものか。 「今時間ある?」 特殊メイク(?)の衝撃で忘れてしまっていたが、今、はジョセフとシーザーと買い物中だ。 現在は別れて、目的のものを購入している最中だ。 は一足先に用事を終え、集合場所である噴水前に立っていた、というわけだ。 一足先にとはいえ、それなりに時間が経っている。 そろそろ二人が戻ってくる頃だ――の予想は、当たっていた。 「ちょっと、そこのおニイちゃァ〜〜ん? ウチのに何か用?」 「もっと離れてくれないか?」 勘違いされているようだ。いや、勘違いして当然のような状況だが。 ……さて、ガタイのいい男二人に睨まれ、 普通なら怯んで退散するレベルの眼光を向けられた×××だが……。 「(超! 面白い! うはーッ! こいつらわたしを男だと勘違いしてやがるッ! しかもしかもォ!   ナンパしてるって思ってるゥーッ!)」 さらに、二人にはに対する好意が滲み出ている。 これをからかわずにいられるだろうか……×××には無理なことだった。 離されたにわざと近付き、その細い肩に腕を回す。 癒されるなァと思いながら、×××は楽しそうに笑う。 「初めましてェ、とは運命的な出会い方をして以来、お付き合いさせてもらってまァす」 お友達としてだがなァ! ×××は上司そっくりの笑みを内心で浮かべた。 「(い、いったいなんでこんなことをッ!?)」 一方、当たり前だがナマエは混乱していた。 ×××とジョセフたちの間に、激しい火花が散っているように見える。 は女である×××が接近しているので意識していないが、 ジョセフたちからしたら男が肩に腕を回しているのに平気そうなに衝撃を受けていた。 さらに、運命的な出会いだのお付き合いだの言われ、頭の処理が追いつかない。 「これからとご飯食べに行こうかなーッて思ってたんだけど、を連れてっていいですかね」 う、うさんくさい……!! 言葉にするならナヨォとした態度の×××。全身からただならぬうさんくささを発している。 固まった二人を置き去りにし、×××はまんまとを連れ出す。 《どうしてあんな態度を……》 「アッハハ、せっかく男の格好してるンだし、デートとシャレ込みたいだろ?」 それは×××だけじゃあないだろうか……は言わなかった。 「どうしてあんな態度をって聞かれると、当人達に申し訳ないんでお答えできないかなァ」 《?》 まさか「恋のライバル」を演出してみましたァんと×××が上機嫌に思っていることなど、 誰にも知られることはなかった。 「さて、実はご飯食べたいってのは本当なんだ。この間のお礼ね。テキトーな店に入るけどいい?」 《……なんだか、質問っていうよりは確認だよね、それ》 「おー分かってるゥ〜〜さすがッ!」 ◆ に……恋人……? 信じられん、とジョセフとシーザーは二人の後を追うことにした。 親しそうな関係(×××が一方的に親しく迫っている、というのもあるが)に見えるのは確かだ。 「あ、あの店は……」 「知ってんの?」 「……女の子と、行ったことがある……スゴク評判のいい店で、料理も美味しい。  内装も外見も女の子好みで、男が一人で入れるような店じゃあない」 「にゃにィーッ!?」 「あの店を選ぶってことは、あの男、かなり女心を理解していると見て間違いない」 「そ、そんなやつが……い、いや、まだそうだとは決まってねェーッ!」 イライラのようなモヤモヤのような複雑な気持ちを抱え込みながら、ジョセフはたちを見る。 今にも歯軋りしそうだ。 その感情が膨らめば膨らむほど、×××の思う壺だとはさすがに読みきれないだろう。 終始、ただ食事をしているだけの二人だが、ジョセフたちは二人の表情の変化や行動に一喜一憂する。 「よし、おれァもう突入するぜ、シーザーちゃん」 「なに!?」 「ご飯食べてるだけなンだろォ? だったら、おれが加わったところで問題なんてないッ!」 「そ、そうだが……」 ◆ 《ジョセフ……》 苦笑いをこぼしてしまう。 結局、×××と分かれるまでずっとジョセフたちはからかわれ続けた。 そのせいか、二人は帰り道、を挟んでぴったりしながら歩く。 またどこからか、あのうさんくさい男が現れるんじゃあないかと警戒しているのだ。 《心配してもらって嬉しいけど、あの人はわたしの友達だから》 友達と言った瞬間、恐ろしい勢いでジョセフとシーザーの顔がに向く。 「えッ!? 今なんつった!?」 「と、友達ッ! そう聞こえたがッ!!」 まるで、二人の頭上より祝福の光が差しているようだ。 二人はそれぞれガッツポーズを取り、そして安堵の溜息をつく。 「(また×××に会う時は、男の格好はやめてもらおう……)」 はそうは思うものの、なぜか「男の格好はやめないだろう」という妙な確信があった。 *** あこがれのウッチョさん宅の雷獣夢主さんとの初共演・・・! ウッチョさんのサイト1周年祭でリクエストしたものです! 同性のはずなのに本当にカッコよくて、何度自宅の夢主に嫉妬したことか・・・!← 美味しすぎるシチュ、ありがとう御座いました!!