「……」 「…………」 「………………」  リクは困っていた。  目の前に居る友人、に対して。  テーブルに広げられているタロットカード――リクの商売道具の一つだ。  そのタロットカードを見つめる友人、に対し、どう答えればいいのかわからない。  沈黙が続いている中、紅茶を作っていたミカエルが声をかけてくれる。 「えっと……様、そんなに見つめられると占うことが出来ないと、   姫様はおっしゃりたいのだと思うのですが……」 <あ、ごめん> 「い、いいんだよ。そういうところがかわいいから許してあげる……し、しかし、うん、いいな」 <何が?> 「ねぇ、僕のものにならない?ミカエルやルー……   ルシフェルのように僕の使い魔になれば永遠に生きられるよ?」 「何言ってるんですか姫様!!   あなたこの前そんな事をワムウと言う男に言ったばかりでしょう!!」 「だってあのワムウって男さー戦士でかっこいいんだもん。   僕のモノにしたいって思うだろう?」  唇を舌で舐めていたずらっ子のように答えるリクに対し、   ミカエルはため息を吐く事しかできなかった。  も流石に彼女の言葉に少し引いている様子。  少しだけ、リクから下がった。 「あ、あれ?ちゃん?どうしてそんな後ろに行くのかな?   そ、そんでもってどうしてルーの後ろに隠れるのかな?」 <……安全だと思うから> 「おいリク。いたいけな女に手ェだすんじゃねーよ。お前本当に見境がないよな」  そういいながら黒髪の男、ルシフェルがを庇うように立っているのであった。 傍 に い る 二 人 の 使 い 魔 と 一 人 の 少 女 「悪かったな。リクは欲しいモノはなんでも手に入れる性格なんだ。   つい本音が出ちまったんだろう。許してやってくれ」 <構わないよ。リクは優しいから……50年前だって、そして今だって、リクは優しい> 「……」  リクとが出会ったのは、50年前だった。  リクは元々別の世界から来た人間。  も同様――未来から来た人間らしい。  共通している二人だが、違うことが一つだけある。  は普通の人間であり、   リクは永遠に生き続けている【化け物】だという存在だと言う事。  彼女の事を【化け物】だとわかっていても、   はリクの事を【友人】として見てくれている。  これからもずっとかわらないことを願って――   ルシフェルはそんなリクの使い魔でもある存在だった。  リクは今は【占い師】だが、本業は【魔術師】だ。  この世界では人の【生命】をもらわない限り、【魔術】と言うものは扱えない。  リクの世界では、そんな【魔術師】一人に【使い魔】と言う存在を   持たなければいけない決まりだった。  ルシフェルはそんなリクの最初の【使い魔】――  人間の姿をしているが、本来は黒い烏だった。  その姿もリクとミカエル以外には見せないため、も見たことがない。  彼は黙ったまま、買ってきた品物をテーブルに並べている。 「……今日は俺が夕飯を作る。   リクもお前も修行を頑張ってるんだからそれぐらいはさせてくれ」 <ありがとうルシフェルさん> 「……俺に出来ることは、お前やアイツを支えることだからな」  品物を確認しながらいるルシフェルの姿をは見ていた。  相変わらず無表情で何を考えているかわからない人だが、   彼は一番リク・ミーレンスと言う存在を思っている。  これからも彼女の事を思い続けていくのであろう。 「……なんだ?」 <リクは幸せものだなって思って……   ルシフェルさんにもミカエルさんにも思われているのだから> 「……傍に居ないと、いつかアイツが壊れちまうからな」 <え?> 「……アイツは強くない。いつか自分自身を壊すだろう……心も体も全て。   だから俺達が傍に居るんだよ」  ルシフェルの言葉に対し、は理解出来なかった。  ただその時の彼の表情はいつもとは違い、   思いつめたような悲しい表情をしていたのだった。   * * *  「はぁ……つ、疲れた」 「それはこっちの台詞だよー……ああ、腰痛い」 「そりゃあリクはおばあちゃんだからなー」 「ンだとコラ、もう一回言ってみろコノヤロー」 「ひ、姫様!お、落ち着いてください!!」  以外に歳を気にしているリクはジョセフをその場で殺す勢いのsッ気を放っていた。  拳を握り締めながら殴りかかろうとしているリクに対し、ミカエルが必死に止めている。  そんな後ろ姿のリクをはジッと見つめていた。  リクの怒る姿、そして笑う姿を見ながら、は考えていた。  ルシフェルが言っていたあの言葉を。 「……?どうしたんだい?僕の顔に何かついてる?」 <ううん、なんでもない> 「そ、そう?」  視線に気づいたリクはに声をかけるが、は無表情で答える。  一体何なのか理解できないリクは首をかしげながらその場から離れようとすると、   ふとポケットから何かが落ちた。  リクはそれに気づかず歩こうとする。  は落ちたそれを拾う――とても古いペンダントだった。 「?」  はジッとそれを見る。  どうやらロケットになっているらしく、は反射的にそのロケットを開けてしまった。  そのロケットの中には二枚の写真が飾られている。  一枚目にはかわいく笑う少年の姿。  二枚目には笑みを浮かばせている東洋の着物を着ている青年の姿だった。 「どうした、?」 <シーザー、これ> 「これは……リクのペンダントだな。時々大事そうに握り締めているペンダントだが……   中身に写真が入っているのか」 <多分大切なものだよね。返さないと……> 「そうだな……おい!リク!」 「ん?なんだいシーザー?」  どうやらペンダントを落としたことに気づいていないらしく、   リクはいつものようにぺらっとした顔で振り向く。  そして次の瞬間、リクの表情が消えた。  はリクに見せるように銀色のペンダントを見せる。  それと同時、リクの体は勝手に動き出していた。  急いで走り出し、の近くに行き、写真を奪い取る。  一瞬、その顔がいつもと違う顔になっていたことなんて、リクは気づいていない。  そして、いつも見せない表情を見せたため、とシーザーは驚いた顔をしていた。  奪い取ったペンダントを強く握り締めていた後、   自分が今に酷いことをしたという事に気づく。 「あ…………ご、ごめん!怪我とかはしてない?」 <大丈夫……大事なペンダントなんだね> 「……ああ、すごく、すごく大事なものなんだよ。ありがとう、拾ってくれて」 「だが奪いとらなくてもいいだろう?が怪我したらどうするんだよ」 「うん、気をつける……」 「……」  いつもと違う表情――彼女から笑顔が消えていた。  はミカエルに視線を向けると、ミカエルも目線をそらし、   どこか悲しそうな顔をしていた。  リクの手がかすかに震えている。  握り締めているペンダントと同時に。 「……」  はそっと手を伸ばす。  かすかに反応したリクだったが、は優しくリクの手を握り締めた。  そして、リクに笑いかける。 <次はなくさないでね、リク> 「……うん」  その手の温もりが、どこか温かかった。  このままずっと、彼女に握り締められたいと思ってしまった。  リクはそっと笑う。  しかしその表情はまだどこか、硬かった。  数秒握ってくれた後、リクはそのままから離れ走り出していってしまった。  彼女がその場から居なくなっていたことを確認すると、   ミカエルがジョセフと一緒にとシーザーに近づいてきた。 「すみません様。我が姫の無礼をお許し下さい……   あのペンダントの中身をごらんになりましたか?」  は頷く。  すると何か考えるようにしながら、ゆっくりと口を開いた。 「……中身の写真をごらんになりましたね。   少年の写真は姫様の実の弟君……そして私の元主でございます。   青年の方は嘗て姫様と恋仲になった人でございます……   どちらも殺され、死んでしまいましたが」 「っ!」 「な……んだと?」 「おい、それって……」 「私の前の主を殺したのは姫様の母君。   姫様はその深い悲しみの中【契約】をし、【不死身】となり、【破壊者】となり、   そして自分自身の【世界】を【破壊】しました。   青年を殺したのは親同士が勝手に決めた婚約者の女性だったそうです。   もちろん姫様は青年を殺された後、その女性を殺し、【世界】を【破壊】しました」 「……」 「姫様決して強くありません。  【破壊者】と言われていますが、本当は普通の女の子なんです。   心のとても弱い【悪女】なのですよ……だから弱みを見せない。   弱さを見せない……笑っていなければ、姫様はその場に立つことが出来ないのですよ」  いつものように笑う彼女の姿。  まるで何もなかったかのように振舞っているその笑顔は、本当の笑顔なのだろうか?  は黙ったまま、ミカエルを見つめると、ミカエルはの右手を握り、   笑みを浮かばせながら答えた。 「しかし姫様はあなたの事を好いている。   大好きな貴女が傍に居てくだされば、   姫様もきっとこれからも明るく前向きに振舞うことができるでしょう。   だからお願いします……ディオの時もそうでしたが、決して死なないで下さい。   貴女が死んでしまったらきっと……姫様の全てが壊れてしまいますから」  ミカエルのその言葉に、重みがあった。  もし、目の前で大事な人を失ってしまったその時――   リク・ミーレンスと言う存在が壊れてしまう。  また、もしリク・ミーレンスと言う存在が消えていなくなってしまったとき、   二人の【使い魔】は殺した奴を苦しみませながら殺すに違いない。  二人にとって、彼女は【大切な人たち】。  リクやが、嘗てジョナサン・ジョースターを慕っていたときのように。 <その気持ち、わかるよ>  はそう答えて笑った。  そしてミカエルもそっと笑みを浮かばせながら、の頭を撫でる。  撫でている最中にシーザーにぶん殴られるまで、五秒前。  走っていってしまったリクはペンダントを握り締めながらその場に立っていた。  その後ろに、ルシフェルが姿を見せる。  振り向くことなく、リクは静かに答えた。 「……はいい子だよねルー……彼女、本当に僕のモノにしちゃおうかな?」 「そんな事をしてみろ。シーザーに殺されるぞ?」 「そうかもっ……でもね、知ってるでしょう?  僕は欲しいモノは絶対に手に入れる主義なんだよ」 「……」  リクは空を見つめる。  綺麗な星空が、リクの瞳に映し出される。  リクは静かにその星空を見つめながら答えた。 「……ルシフェル。僕はこれからも大切な人たちのために強くなりたい。   あの時のように、ジョナサンが目の前で死んでしまう光景なんて、見たくない」 「……ああ」 「誓え、ルシフェル」  その時、彼女の瞳は鋭く、冷たい瞳になっていた。 「俺を永遠に裏切ることなく、永遠に俺の傍にいろ……俺の体が尽きるまで、永遠に」  無表情の顔が、静かにルシフェルを捕らえていた。  ルシフェルはリクの右手に手を伸ばし、手の甲にキスをした。 「Yes, My Master」  ルシフェルは冷たい瞳でそう答えているのだった。 *** 相互記念に頂いた素敵なお話です。 使い魔のミカエルさんとルシフェルさんがカッコいい! 重いものを背負うリクさんを抱きしめたい勢いですが使い魔に殺されますね(笑) これからも宜しくお願い致します!