*親世代での記憶 「星といえばだけど・・・・・・。」 静かであったホグワーツで一番高い塔の屋上でぽつりとが呟いた。 天文学で宿題を出されたと、手伝いを兼ねて星空を眺めるといって同席している リリー以外は誰もいない。じっと見上げていた視線をに移した。「なあに?」 「ある有名な日本の小説家の話なんだけど、彼が英語教師をやってた時に、  生徒が『I love you.』を『我が君を愛す』と訳した際、  『日本人はそんなこと言わない』って言って、『月がきれいと言えばいい』って返したんだ。」 「それって日本流の告白?」 リリーがふふっと微笑んだ。 「どうだろう・・・・・・叔母さんの話だと、日本人はハッキリ『愛してる』って言わないんだ。  叔母さんの夫のさんも、あんまり言わないんだって。」 「意外とシャイなのね。」 「その代わり、サプライズとか忙しい合間を縫ってやってくれるようだよ。  昨年の結婚記念日には『俺のような男にこんな美しい花は勿体ない』って  顔を真っ赤にしながらメッセージカードを渡したってさ。」 軽く笑いながら喋っていると、リリーの視線が夜空に向けていることに気付いた。 「ごめん、また身内の話になっちゃって・・・・・・。」 「あら、どうして?あなたの親戚やご家族の話を聞いていて、とても楽しいわ。  それに、日本についてもっと知りたいの。」 「ほ、ほんと?」 一瞬、自分の話に飽きてしまったのではないかと思った為、 リリーからの思わぬ返事に大きな動揺を含んだ喜びが沸いた。 「日本人が言う他の愛の言葉を教えて。」 は思わず目を見開いた。 「もしかして・・・・・・気に入ったの?」 「おかしいかしら。」 首を傾げるリリーに対し、「そんなことない!」とちぎれんばかりに首を振った。 「日本人の感性って不思議ね・・・・・・星や花に例える方が自信つくなんて。  奥手だけどそういうところ嫌いじゃないわ。」 「皆に必ず通じるなんて確証はないのにな。」 俺だったら言えないな、とは呟く。もう一度、空に視線を戻した。 ポツンと浮かぶ満月の光で、回りが輝いているように見えた。 「今夜は月がきれいね。」 リリーが何気なく、そう呟いた。 は大きく目を見開き、観察を忘れてリリーの横顔を凝視した。 ドキドキしながら、確信のない期待を待ちわびた。 「日本でも月って見られるよね?」 「あ、ああ、もちろん。」 そんなわけないかと心の内で自分を嘲笑った。 見られないよう背を向けていた赤い顔から静かに熱が去っていくのを感じた。 リリーは気付かないまま、目の前に広がる星々をもう一度眺めていた。 「きっと、星もきれいでしょうね。」 「・・・・・・ああ、十分きれいだろうさ。」 リリーはこの言葉の意味すら知らないだろう。