『みぞの鏡』を見なくなってから暫くしたある日の夜。 不思議な夢を見ていた。 あの鏡が私の目の前に立っていて、 その鏡に私の両親が映っていた。 少し時間が経つと両親の姿が消え、知らない女性が映し出された。 母にも負けない美しい人だ。 その人は私に微笑むが、その笑みには悲しみが含んでいた。 嗚呼・・・・・・そんな顔しないで。 彼女のことを、私は知っている。 『大切な人』であるはずなのに、 どうして私は忘れてしまったんだ・・・? 名前を聞く前に女性の姿が朧になっていき、 気付けば朝になって目を覚ましていた。 「(・・・・・・また、会えないかな・・・・・・)」 ある意味、毎晩悪夢にうなされたハリーと似たような感覚だった。 ハリーと言えばロンとハーマイオニーと共に何かを探しているようだが、 どうも私に対してよそよそしい。 私には言えない、ということは信頼していないというのだろうか。 自分だけ友達だと思っていたと考えると悲しくなる。 しかし、ハリーはそんな子じゃないとその考えを振り払った。 「(あ、そうだ。今夜ハグリッドのとこに行かないと・・・・・・)」 実は皆に内緒で危険指定されている魔法生物を飼っている。 事の発展はハグリッドの小屋で彼にその生物を見せてもらったからだ。 その子を見て気入った私は即行で世話することを決めたのだが、 生憎、自分の部屋に連れていくのは難しい。 家に帰るまでハグリッドにその子を預けているのだが、 夜行性なので顔を見るなら今しかない。 ベッドからこっそり抜け出した時には、 何故か同室のハーマイオニーがいなくなっていた。 *** カーテンが全部閉まっている小屋のドアをノックしたが、 中々出て来ない。おかしいな・・・・・・。 もう一度ノックしようとした瞬間、ドアが開いた。 その中から窒息しそうな熱気が私の顔を覆った。 「おお、すまん。ちっとお前さんの前に客人が来てるんだ。」 「えっ、・・・!?」 「何であなたまでここに・・・!?」 それはこっちのセリフなんだけどなあ・・・。 まさかハリー達だけでなくハーマイオニーまで来ていたとは どういう理由ありだ? 「いやー実はね、ちょっとハグリッドのとこで飼わせてもらってる ペットがいてね。」 「ペット?」 「ハグリッド、『モルル』は?」 「おう、俺のポケットでぐっすり寝とる。」 「え・・・・・・寝すぎじゃない?」 ハリー達にも秘密にしていたので皆も食いついて ポケットから出てくる生物を凝視した。 頭から白いペンキをかぶったように白く、 普通のコウモリよりかなり小さい。 マグル界では当たり前のコウモリにはない角が生えていた。 ずっと静寂が続いていた中でロンが息を呑む。 「『一角の白いコウモリ』だ・・・!」 「あ、ロンも知ってるの?」 「そりゃあもちろん!ドラゴン程とは言えないけど、 希少価値のある生物だよ!ただ、その・・・・・・。」 ロンが言い難そうに視線をそらす。 「うん、危険生物と指定されてるコウモリだよ。」 「な・・・何考えてるのよ!危険生物を飼ってたなんて・・・! ハグリッドも何で承諾したのよ!」 キッパリと言えば、すかさずハーマイオニーがかみついた。 まあ、確かにそれが普通の反応なんだよね・・・。 学校に来る前まで別の危険生物を隠れて飼ってた時も リーマスも全く同じこと言ってたし・・・・・・。 「安心してハーマイオニー。 危険生物とはいえ今はまだ赤ん坊だ。 それにちゃんと注意を守れば襲われることは絶対ない。」 「お、襲うって・・・・・・。」 普通に言ったことなのだが、ロンは少しげんなりしている。 それに比べハリーは興味津々でモルル(私が名付けた)と戯れていた。 今度彼にも生物図鑑貸してあげよう。 「でも何でさっきドラゴンって・・・?」 「ああ、賭けに勝ってその卵をもらった。」 「は・・・?」 ハッキリと言ったハグリッドに、私は思わず間の抜けた声をもらした。 ドラゴンの卵を見つけるのも買うのも一苦労するというのに、 ハグリッドが欲しがっていたドラゴンの卵を今持っているとは―――。 それにしても・・・『ドラゴン』と聞いた時から体がおかしい。 何なんだ、この震えは・・・? 「いよいよ孵るぞ。」 卵はテーブルの上に置かれ、深い亀裂が入っていた。 中で何かが動いている。 みんな息を潜めて見守る中、私だけは別の意味で動悸していた。 突然キーッと引っ掻くような音がして卵がパックリ割れ、 赤ちゃんドラゴンがテーブルにポイと出てきた。 やせっぽちの真っ黒な胴体に不似合いな、巨大な骨っぽい翼、 長い鼻に大きな鼻の穴、こぶのような角、オレンジ色の出目金だ。 ハグリッドは『ノーバート』と名付け、手を差し出して顎をなでた。 すると赤ちゃんはくしゃみをすると、鼻から火花を散らした。 ハグリッドの顎髭が軽く燃えたのをよそに、ノーバートがこちらを見た。 すると、あんなにやんちゃな赤ちゃんドラゴンが身を縮め込んだ。 「急に大人しくなったわね・・・どうしたのかしら?」 「さあ・・・。」 「―――っ!誰だ!?」 顔から血の気が引いたハグリッドが声を上げた先には一瞬窓に誰かが映っていた。 すぐに去っていったが、あれは間違いなくマルフォイだ。