最悪な事態になった。 マルフォイが覗き見していたのを発見したので、 とてつもなく悪い予感はしていた。 私達は小屋から出た後、 マクゴナガル先生にこっ酷く説教を受けるハメになった。 おかげで一人五〇点も減点された。これはかなり痛い。 これから処罰を受けることになるのだが、 唯一、嬉しい事と言えば、マルフォイも罰を受けるという事実だ。 ミスター・フィルチが「昔のような体罰がなくなって、 まったく残念だ・・・・・・。」独りでブツブツ言っている中、 マルフォイは私と目が合うなり、視線を泳がせていた。 *** ハグリッドの小屋に着くと、 その小屋の主が浮かない表情で立っていた。 ノーバートはもうここにはいない、とメソメソ声で言う。 その方が幸せじゃないか?とロンが励ますが逆効果だった。 これじゃあ、どっちが年上なのか分からないぞ。 「君たちがこれから行くのは、森の中だ。  もし全員無傷で戻ってきたら私の見込み違いだがね。」 「森だって?そんなところに夜行けないよ・・・・・・。  それこそいろんなのがいるんだろう・・・・・・  狼男だとか、そう聞いてるけど。」 マルフォイの声はいつもの冷静さを失っていた。 声が恐怖におののいているのがわかる。 けれど、私達はホグワーツに残るために その償いをしなくちゃいけない。 「よーし、それじゃ、よーく聞いてくれ。  なんせ、俺たちが今夜やろうとしていることは危険なんだ。  みんな軽はずみなことをしちゃいかん。  しばらくは俺について来てくれ。」 ハグリッドが先頭に立って、森のはずれまでやってきた。 ランプを高く掲げ、ハグリッドは暗く生い茂った木々の奥へと 消えていく細い曲がりくねった獣道を指さした。 森の中をのぞき込むと一陣の風がみんなの髪を逆立てた。 地面に光った物をハグリッドが指をつけた。 「一角獣(ユニコーン)の血だ。  何者かにひどく傷つけられたユニコーンがこの森の中にいる。  みんなでかわいそうなやつを見つけ出すんだ。  助からないなら、苦しまないようにしてやらねばならん。」 ユニコーンは私の憧れる魔法生物の内に入る。 角や尾の毛を魔法薬に使われること意外に、 その神秘的な雰囲気を纏う純粋な生物であるのを 図鑑を読んで知ったのだ。 その生物を殺した者は許せないが、 生物好きである私にとって安楽死させるという行為は心苦しい。 「よーし、では二組に分かれて別々の道を行こう。  そこら中血だらけだ。  ユニコーンは少なくとも昨日の夜からのたうち回ってるんじゃろう。」  そんじゃ、ハーマイオニーとロンは俺と一緒に行こう。  ハリーとドラコ、は別の道だ。」 「それじゃあファング貸して。」ファングの長い牙を見て、 マルフォイが余裕の笑みを浮かべて言った。 気持ちはわからなくもないが、私達じゃ頼りないと言ってるみたいで あまりいい気分じゃない。 それが顔に出ていたのか、マルフォイは動揺した表情で首を横に振った。 (一体どっちの意味なんだ?とは訊かないけど) 「よかろう。断っとくが、そいつは臆病じゃよ。  じゃ、気をつけろよ―――出発だ。」 だんだんと森の奥深くへ、三十分も歩いただろうか。 木立がビッシリと生い茂り、もはや道をたどるのは無理になった。 マルフォイはブツブツ文句を言いつつ、 私の背中をピッタリと離れずついて来ていた。 「もしかして怖いの?」隣でハリーがマルフォイに向けて言った側から、 突然妙な声が上がった。 「僕が怖いだって?」といつもの調子で言うマルフォイだが、 笑みが歪んでいる。 「、大丈夫・・・?」 「うん・・・・・・。」 奥へ進むにつれ、頭痛がひどくなっていった。 これ以上行ったらまずい。 心の中でそんな訴えが聞こえて来るが、 ユニコーンを見つけなくてはならない。 「見て・・・・・・。」ハリーは腕を伸ばして マルフォイを制止しながら呟いた。 地面に光り輝くものがあった。私達はさらに近づいた。 美しい一角獣が、死んでいた。 その長くしなやかな脚は、倒れたその場でバラリと投げ出され、 その真珠色に輝くたてがみは暗い落葉の上に広がっている。 ハリーが一歩踏み出したその時、ズルズル滑るような音がした。 ハリーだけでなく、私もその場で凍りついた。 平地の端が揺れた・・・・・・そして、暗がりの中から、頭をフードにスッポリ包んだ何かが、 まるで獲物を漁る獣のように地面を這ってきた。 頭痛が、更にひどくなった。 「ぎゃああああアアア!」 マルフォイが絶叫してファングと一緒に逃げ出した。 フードに包まれた影が頭を上げ、ハリーを真正面から見た――― 一角獣の血がフードに隠れた顔から滴り落ちた。 その影は立ち上がり、私達に向かってスルスルと近寄ってきた――― 私は何とかせねば、とハリーを自分の背に隠した。 しかし、杖どころか、印さえ結べなかった。 「・・・・・・、か。」 這いずるような声で自分の名を呼ばれた瞬間、 気づけば私は気を失っていた。