「―――・・・・・・は!・・・・・・に―――。」
「では―――・・・・・・う―――!」
「―――ッ!」
ハリーの悲痛な叫び声に、私は反射的に飛び起きた。
よかった・・・・・・無事だったんだねハリー。
ハリーだけでなく、私の周りにはハグリッド達が集まっていた。
よく見ると森の中ではなく、ハグリッドの小屋が見える広い地だった。
「怪我はない?あなたが倒れたってハリーが言ってたから・・・・・・。」
「私が・・・?いつ?」
「あの影が近づいて来た時・・・・・・。
それと同時にフィレンツェが助けに来てくれたんだ。」
どうやらハグリッドの友人らしい。
直接この目でケンタウルスが見られなくて残念だが、
今はそう思えない程、私の心はざわついていた。
あの影が消え去ったと知り、いつの間にか頭痛が消えていたことに気付いた。
皆が無事でよかったとホッとする中、
ファングと一緒に逃げたマルフォイが申し訳ないといった顔で謝った。
「君を・・・・・・しかもよりによって、女の子を置き去りにさせて・・・・・・
本当に、ごめん・・・・・・。」
あのマルフォイが謝っている!
特にロンがあんぐりと口を開けて凝視しているのがよく分かる。
ハリーもハーマイオニーも同じ表情をしていた。
(あの様子だとハリーには謝ってないな、マルフォイのやつ)
「私は平気だよ。そういう君は怪我とかない?」
「あ、ああ・・・・・・大丈夫だ。」
マルフォイはそう言って視線を逸らした。
焚火のせいか、頬がよりピンク色になっているように見える。
自分の容態が大丈夫だと分かり、皆寮へと戻った。
私は何故か談話室に残るハリー達を気にもせず、
「先に休むね。」と言ってベッドに潜り込んだ。
当然、いつものようにぐっすりと眠ることができなかった。
結局、私達が見つけたユニコーンは助からなかった。
それもショックだったが、あの影に遭遇したことが一番引っ掛かっていた。
「・・・・・・、か。」
あの影は、確かに私を見てそう言った。
あいつは、私を知っている。
そして私も、あの影の正体を、知らないはずなのに知っている―――。
思い出せそうで思い出せない。何という矛盾。
けれど、純粋な生物を殺してまで永遠に生きようとする―――
これは他人事ではない。恐怖よりも怒りが勝っていた。
ここでようやく、まどろみが来た。
***
試験期間に入り、皆は慌ただしく勉強に励んでいた。
その復習で忙しくて、例の影について気にしている余裕はなかった。
試験が終わってさんさんと陽の射す校庭に
ワッと生徒の群れが繰り出した。
私も早くファングたちと戯れたい一心で迷わず
ハグリッドのところへ行くと、
大変だという顔をしたハグリッドが立っていた。
「どうしたの?何かあった?」
「ああ、!ハリー達を見なかったか!?」
「え?いや・・・・・・でも、どうして?」
「フラッフィーをなだめるには音楽を聞かせれば
すぐねんねしちまうって・・・・・・。」
突然、再びしまったという顔をしたハグリッドに、
私は思わず顔をしかめた。
フラッフィーが守っているもの、
ハリー達が最近コソコソと何かを探っているのは
一体何なのか、全て理解した。
「何で・・・・・・何で言ったんだ!そんな大事な話を皆に・・・・・・!」
「うっ。す・・・・・・すまねえ。俺が口を滑らせたばかりに・・・・・・。」
わかっている。これはハグリッドだけの責任ではない。
冷静になって言いすぎたと反省した私は彼をなだめた。
あの影と、『賢者の石』と関わっているとなれば、こうしちゃいられない。
玄関ホールに入ってハリー達を捜しに行くと、ぬっと黒い影が私の視界に入った。
スネイプ先生だ。
「あ、こんにちは。」
「どうかしたのかね。今日はポッター達と一緒ではないのか。」
「ええ、ちょっと捜してて・・・・・・。」
何故か今回に限って私を見るスネイプ先生は、
どことなく不穏な色を漂わせていた。
「先ほど三人を見かけた。
職員室の前をうろついていたが、君は知らないか・・・・・・。」
きっとダンブルドア先生のところへ会いに行ったんだ。
ハリー達は話を聞いてほしいと思ったのだろうが、スネイプ先生の話を聞くと、
どうやら校長先生には会っていないようだ。
「そうですか。ありがとうございます。」
「くれぐれも慎重に行動するよう、君からも言いなさい。」
スネイプ先生は大股に職員室の方に歩いていった。
何だか気になる言葉だが、今はハリー達だ。
一体どこをウロウロしていたのか、夕食の時間になるまで三人の姿を見ることはなかった。
「どこ行ってたの?」と訊いても、「図書室に行ってたんだ。」と
それ以上のことは教えてくれなかった。ちょっぴりショックを受けた。
少しくらい私に話してくれてもいいのに・・・・・・。
この落ち着かない様子―――今夜部屋を抜け出すのだろう。
夕食の後、談話室に残る三人を確認した私は部屋に戻った。
彼らを追うために―――。
***
静まり返った談話室を下りると、
全身固まった姿で一枚板のようにうつ伏せになっているネビルがいた。
目だけが動いて、恐怖の色を浮かべ私を見ていた。
(ハーマイオニーとかに魔法をかけられたのかな)
「ごめんねネビル。私も行かなくちゃ。」
動けないネビルに毛布をかけてから寮を出ていった。
ハグリッドに教えてもらったフラッフィーのいる四階への階段を上った。
鎧がたくさん飾ってある長い廊下を行くと、鍵が掛かっているドアが見えてきた。
「アロホモラ!」覚えている数少ない呪文の一つでもあったりする。
ゆっくりと扉を開き、その小さな隙間からグルルルという唸り声が聞こえた。
私はハグリッドにもらった横笛を唇に当てて吹きはじめた。
だんだんと犬の唸り声が消え、ゴロンと床に横たわった音がした。
眠り込んだのを確認し仕掛け扉を開け、下へ落ちていった。
妙な植物に絡まれながらも、その後は難なく進んだ。
大きなチェス盤のある部屋に入ると、
横たわるロンと彼の側にいるハーマイオニーの姿が目に飛び込んだ。
「ロン!ハーマイオニー!」
「!?どうしてここに・・・・・・。」
「ハグリッドから聞いたよ。『賢者の石』・・・・・・でしょ?」
途端、ハーマイオニーの表情が強張った。
すると、彼女は意を決した顔で全てを打ち明けた。
『例のあの人』がその石を欲しがっていると―――。
ただ、スネイプ先生が石を狙っているというのは俄かに信じ難いが・・・・・・。
「ハリーは向こうにいるんだね?」
「待って!危険だわ!」
「どうして?ハリーはよくて何故私を止めるの?」
すると、ハーマイオニーは項垂れるように黙り込んだ。
「あなたに内緒にしてたの、ちゃんと訳があるの。」
震えた声で顔を俯けたまま、そう呟いた。
「ハリーが―――あなたを巻き込みたくないって・・・・・・。
それ以外の理由はなんてないわ。もちろん、私もロンも同じよ!」
「ハーマイオニー・・・・・・。」
私も彼らの立場だったら、同じことを言うかもしれない・・・・・・。
でも―――
「そう思ってくれて、本当にうれしいよ。
でもね、ハーマイオニー・・・・・・。
友達を手助けできるなら、どんな災いが振りかかろうとも
私は喜んで受け入れるよ。」
「あ・・・・・・違うの。そういうつもりじゃ―――!」
「わかってるよ。」
嗚呼、私はいい友達を持った―――。
無事ハリーと共に帰還できたら、一刻も早く、この喜びをリーマスに伝えたい。
「、ハリーをお願い。気をつけてね!」
「うん、ハーマイオニーも早く校長先生に―――。」
お互いに抱き合ってから、ハーマイオニー達を背にした。
長い階段を下りていくと、再び頭痛が起きた。
この先にいる―――ハリーと、頭を露わにしたクィレル先生がいた。