!?何で―――!」 「また会ったな、・・・・・・。」 あの(・・)の声が囁いた。 後ずさりしたがったが、足が動かなかった。 声はクィレル先生の後ろから聞こえた。 否―――正確にいえばクィレル先生の後頭部から、だ。 移動されていたはずの『みぞの鏡』に、その(・・)顔が映っていた。 ギラギラと血走った目を持つ、蝋のように白い顔だった。 あれが―――最強といわれた闇の魔法使い。 「ヴォルデモート・・・・・・。」思わず口から洩れた。 「そうだ。だが今はこうして誰かの体を借りなければならん・・・・・・  しかし、この数週間は、ユニコーンの血が  俺様を強くしてくれた・・・・・・。  後は『石』と・・・・・・お前の(・・・)『血』さえあれば・・・・・・。」 「えっ・・・・・・?」 私の・・・・・・血?どういうこと? いや、それよりも何故私の名を知っているんだ・・・・・・!? 「貴方と会うのは、今回が初めてのはず・・・・・・。」 勇気を振り絞ってようやく口を動かせた。 すると、意外だといった顔が私を凝視する。 「ああ、そうか。まだ記憶が戻っておらんのだな(・・・・・・・・・・・・・・)。  なら頷ける・・・・・・。」 「なっ・・・・・・!」 ヴォルデモートは、私の知らないことまで『知っている』ッ! 益々疑念が膨らむばかりで、私は困惑した。 そんな自分の腕を引いて逃げようとするハリーの行動に、 私は冷静を取り戻した。 邪悪な顔がニヤリとした。 「、おまえなら協力してくれるだろう?  今は命を粗末する時ではない。  友人を見殺しにしたくなかったら小僧から『石』をよこせ。」 「絶対に渡すもんか!」 「捕まえろ!」 ヴォルデモートが叫んだ。 次の瞬間、クィレルがハリーに向かって跳びかかった。 忍者の性質もあってか、私はハリーの体を強く押し退き、 自分が身代りになった。 クィレルの手が私の首にかかった。 跳びかかった勢いもあって、上手く押し退けることができない。 「何をしている!早く捕まえろ!」 印を結びたくても片手を掴まれている為、その希望は叶わない。 意識が朦朧し始めた頃、首を絞める手の感覚が突然なくなった。 「手が・・・・・・私の手が!」 徐々に意識が戻って来た私の視界には、 いぶかしげに自分の手のひらを見つめているクィレルが映った。 真っ赤に焼けただれ、皮が砂となって崩れていった。 茫然と立っているハリーに「何をしたの?」と目で訊いても、 首を横に振るだけだった。 「それなら殺せ、愚か者め、始末してしまえ!」 ヴォルデモートが鋭く叫んだ。 ハリーはとっさに手を伸ばし、クィレルの顔をつかんだ。 「あああアアァ!」 クィレルが転がるようにハリーから離れた。 顔が焼けただれていた。 理由は分からないが、 クィレルはハリーの皮膚に触れることはできないらしい。 クィレルの恐ろしい悲鳴とヴォルデモートの叫びが上がった。 そして、全身砂となって崩れた。 ホッとして背を向けた時、恐ろしい悪寒を感じて振り向くと、 魂だけとなったヴォルデモートが襲って来た。 私は無意識にハリーを庇って階段に倒れた。 「!」 ハリーが必死な様子で私の名を呼んでいたが、 自分の意識は闇の中へ落ちていった。 気がつくと、私の視界にダンブルドア先生が映っていた。 彼を見つめていると、徐々に記憶がよみがえった。 「先生!『石』!クィレルがヴォルデモートと絡んでたんです!  ハリーは!?」 「落ち着きなさい、。ハリーは君の隣におるよ。」 その言葉を聞いて顔を横に向けると、 私と同じ白いシーツのベッドに横たわるハリーが 安らかな寝息を立てていた。 ロンとハーマイオニーも、無事であった。 胸を撫で下ろすが、まだ、私の中に引っ掛かっていたことがあった。 「先生、一つ聞いてもいいですか?」 「おや、一つだけかい?」 「私は一体、何者なんでしょうか。」 「ほう。何者、というのは?」と先生は一回瞬きした。 「私・・・・・・今よりもずっと昔に、この学校に来ていたんです。  とてもおかしな話ですが、前から先生達のことも知っていて・・・・・・  でも記憶が曖昧で・・・・・・ヴォルデモートとも面識があるみたいで・・・!」 「まあまあ、一旦落ち着くんじゃ、。  すまないがその質問に答えてやることができん。いまはだめじゃ。  こんなことは聞きたくないじゃろうが・・・・・・その時が来たらわかるじゃろう。」 ここで食い下がってもどうにもならないということがわかった。 すぐに知ることができなくて残念でならないが、 その答えを知るのはそう遠くはない気がする・・・・・・。 そして時は早く、学年度末パーティーが始まる前に、 校長先生からそれぞれの寮の点数が発表された。 高得点であったスリザリンだったが、 後から駆け込みの点数がハリー達に与えられ、 グリフィンドールのテーブルから歓声が湧き上がった。 「えへん。」と校長先生が咳払いすると、再び静寂が戻った。 「人は絶対絶命の危機に陥ると、己を見失うことがある。  しかし、友人のためならば覚悟を持っているからこそ失わずに済んだ。  その者に一〇点を与えたい。」 皆は一体誰?と互いに顔を見合わせながらも、拍手を止めなかった。 ダンブルドア先生が一瞬こちらを見てウインクした。 私のことなんだ、と思うと何だか照れくさかった。 校長先生が手を叩くと、グリーンの垂れ幕が真紅に、銀色が金色に変わった。 グリフィンドールだけでなく、レイブンクロ―もハッフルパフも スリザリンがトップから滑り落ちたことを祝って、喝采に加わっていた。 悩んでいたことが吹き飛ぶほど素晴らしいその夜は、 ずーっと忘れないだろう。