新一年生の歓迎会が始まるまで、 私はモルルの世話を始め、ファングと遊んだり、 畑の手伝いをやって丸一日を過ごした。 「ずっとここに暮らしたいな。」と呟くと、 「勘弁してくれ。」と言うハグリッドだが、 表情は満更でもなかった。 当日になってこっそり輪の中に紛れると、 パーティーが始まってもハリーとロンが来ない間、 空飛ぶ車で墜落して退校処分になった、と 訳のわからない噂が流れていた。 「バカバカしいわ!いったいどこに行ったのかしら、あの二人。」 ハーマイオニーが声をあげたくなるのは無理もない。 しかし、噂などお構いなしに二人は颯爽と現れた。 もちろん、退校処分にはされていなかった。 車を飛ばして『暴れ柳』に突っ込んだことに、 グリフィンドールの寮生全員が拍手で迎えた。 その中でハーマイオニーと同様、 パーシーだけが不機嫌な顔をしていたが・・・。 だが翌日、午後のクラスがあの授業になった途端、 私は「うげぇ・・・。」と表情を歪めた。 (ハリーとロンは別の意味で顔を歪めていた) 「『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生を紹介します。私です。」 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店の時とは別の、 何故か華やかな格好をしたロックハートが階段を一段ずつ 下りながら長い自己紹介をした。 一体どこの歌劇団の一員だ。 隣の席に座るハーマイオニーをチラリと見た。 相変わらず惚けた表情でロックハートを見つめている。 見つからないよう、陰で溜息ついた。 「さあ―――気をつけて! 魔法界の中でもっとも穢れた生き物と戦う術を授けるのが、 私の役目なのです!この教室の君たちは、 これまでにない恐ろしい目に遭うことになるでしょう。 ただし、私がここにいるかぎり、 何物も君たちに危害を加えることはないと思いたまえ。 落ち着いているよう、それだけをお願いしておきましょう。」 期待はできないが、一応、覆いのかかった大きな籠を注目した。 「どうか、叫ばないようお願いしたい。」そんな声など無視である。 「捕らえたばかりのコーンウォール地方のピクシー小妖精。」 シェーマス・フィネガンはこらえきれずにプッと噴き出した。 確かに、身の丈二十センチぐらいで群青色のピクシーたちを見て、 恐怖の叫びを上げろというのは無理な話だ。 「君たちがピクシーをどう扱うかやってみましょう!」 ロックハートが声を張りあげ、籠の戸を開けた。 ピクシーがロケットのように四方八方に飛び散ると、 教室中はパニック状態だ。 ちょうど視界に入った二匹がネビルの両耳を引っ張って、 天井のシャンデリアに引っかけた。 これを機にさっさと教室を出ればいいのだが、 まだ三人が残っていた為、そういう気にはなれなかった。 それ以前に、生き物全般大好きな私にとって、 こんなにも興奮しない授業は初めてだ! 「その辺に残っているピクシーをつまんで、 籠に戻しておきなさい。」 杖を奪われ、逃げるように個室に引っ込んだマヌケな姿に、 私は目の前で浮遊するピクシーを引っ掴んで、 その戸に向かって投げてやった。 *** 土曜日の午前中、ハリー達とハグリッドを訊ねる予定なのだが、 レヴァンノンの世話をしたい私は予定よりも早くベッドから起きた。 美味しそうに赤ニンジンを頬張っているレヴァンノンを見ていると、 今になって胃袋がゴロゴロと鳴った。 何か今日はマーマレード塗りたくったトースト食べたいなあ・・・。 ハグリッドのとこにないかなあ・・・・・・。 「そういえば・・・・・・君にニンジンをあげた人、来なくなったね。」 新学期が始まってから今日まで、 レヴァンノンの元に例の餌やりはなかった。 まるで、私が来るのを待っていたように思えた。 もしかして、私の知ってる人なのかな?その人にお礼しないとね。 レヴァンノンと別れ、待ち合わせ場所のグラウンドへ向かったが、 肝心の三人の姿が見当たらない。 代わりにピッチで練習しているスリザリン・クィディッチ・チームの姿があった。 その中に、何故かグリーンのローブを着て空中に舞い上がるマルフォイがいた。 目が合うと頬を赤らめるなり、途中顔を強張らせて視線を逸らした。 怪訝な表情を浮かべながらも、近くにいた生徒に訊いて回り、 ようやく彼らがいる森番の小屋へ向かった。 「やっと来たか、!もう皆来とるぞ!」 「うん、ごめん皆・・・・・・。」 と言った所で、私は洗面器の上で屈み込んでいるロンを目にした。 涙目を浮かびながら、口からなんと、ナメクジを吐き出した。 「ロン、一体どうしたの・・・!?」 「僕の杖が逆噴射したんだよ。おかげで・・・・・・オエッ!」 洗面器から再び顔を上げて、「・・・この有様だよ。」と弱々しく呟いた。 例の退校危機の件で、ロンの杖が折れたことを思い出す。 一体、そんな呪いを誰にかけたかったんだ、と訊くと、 「マルフォイが・・・!」と言いかけた所で、 何故かハーマイオニーが制止をかけた。私は思わず、眉をしかめた。 「何か、言われたの?」 訊いてはいけない予感がしたが、ロンが呪いをかけたくなる程、 マルフォイはひどい悪口を言ったに違いない。それも、私の友人に・・・! 「・・・ええ。マグル生まれの私に対して、最低の言葉をね。」 そこまで言って深くは説明してくれなかったが、 それでも十分、カッと顔が熱くなった。 苦々しく拳を握りしめると、その上からハーマイオニーの手で覆われた。 「も怒ってくれてありがとう。 もう大丈夫だから、殴り込みに行こうなんて考えないでよ?」 「そりゃあ止めてよかったな。 ロンにも言ったが間違いなくルシウス・マルフォイが、 学校に乗り込んできおったかもしれんぞ。」 「うぐっ。」 流石、一緒にいるだけあってハーマイオニーは鋭い。 しかし父親のマルフォイ氏のことなど、 言われるまで全く頭に入ってなかった。 ハグリッドの言う通り、あいつの顔を学校でも見るハメになるのはご免だ。