処罰としてハリーがロックハートのファンレターの返事を書く 手伝いをしに行って四時間近く経った。 ハロウィーン・パーティがもうすぐ終わろうとする頃、 私達はハリーを探しに、先に大広間を出た。 すると意外にも早くハリーとバッタリ会ったが、声だの何だの・・・・・・ いつもと様子が違う。 「誰かを殺すつもりだ!」 そう叫ぶなり、ハリーはロンとハーマイオニーの当惑した顔を無視して、 廊下を走り回った。待ってと叫ぶハーマイオニーの声もお構いなしだ。 息せき切っているのを見て、自分だけが汗一つもかいていないことに気づいた。 誰もいない廊下に出た時、やっとハリーが動くのをやめた。 外に向かってクモがぞろぞろと動いている。 一体何があったんだと訊く前に、 「見て!」とハーマイオニーが向こうの壁を指差した。 秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ 「なんだろう―――下にぶら下がっているのは?」 ロンの声は微かに震えていた。 床に大きな水溜りができていて、松明に反射して血の文字で書かれた その言葉が映っていた。 じりじりと近寄って、カッと目を見開いた。 その松明の腕木に尻尾を絡ませてぶら下がっているのは 管理人の飼い猫、ミセス・ノリスだ。 「ここを離れよう。」 「でも助けるべきじゃ・・・・・・。」 フィルチは好きじゃないが、彼女をこのままにしたくなかった。 「ここにいるところを見られないほうがいい。」すでに遅かった。 私達が立っている廊下の両側から、生徒たちがわっと現れた。 あまりにもタイミングが悪すぎる。 おぞましい光景を前に、おしゃべりも、さざめきも、ガヤガヤも消えた。 その時、静けさを破って誰かが叫んだ。ドラコ・マルフォイだ。 「継承者の敵よ、気をつけよ!次はおまえたちの―――」 しかし、私を見た途端、口を閉ざした。何故なら私が睨んだからだ。 あの時、彼がハーマイオニーに言った悪口のことを思ってだ。 そうさ、お前は黙っていればいい。 「わたしの猫だ!わたしの猫だ!ミセス・ノリスに何が起こったというんだ?」 人混みを押し分けてやってきたフィルチは金切り声で叫んだ。 そしてフィルチの飛び出した目が、私とハリーを見た。 「おまえだな!」叫び声は続いた。 「おまえだ!おまえがわたしの猫を殺したんだ!」 そう言って、何故か私の前にいるハリーに掴みかかった。 フィルチの目には、ハリーしか映っていない。 「俺がおまえを殺してやる!俺が・・・・・・」 「アーガス!」 ダンブルドア先生が他に数人の先生を従えて到着した。 それを機に、私は素早くフィルチからハリーを離れさせた。 皆を各寮へ戻らせると、当然私達は残された。 「アーガス、猫は死んでおらんよ。石になっただけじゃ。」 ダンブルドア先生が答えた。 ロックハートが割り込むように 「私がその場にいれば反対呪文で救えたのに。」と豪語した。 「ただし、どういう術を使ったのか・・・・・・。」 「あいつですよ。壁の文字をお読みでしょう。」 「違います。僕、ミセス・ノリスに指一本触れていません!」 「ウソつけ!」 「ハリーは何もしていない!」 私は大声でフィルチに反論した。 すると、「落ち着きなさいミス・」と影の中から声がした。 スネイプ先生だ。 「校長、一言よろしいですかな。 ポッターもその仲間も、 単に間が悪くその場に居合わせただけかもしれませんな。 とは言え、一連の疑わしい状況が存在します。 私はポッターを夕食の席で見かけなかった。」 「私と一緒でした。ファンレターの返事書きを。」 ロックハートが言った後から「それでハリーを捜しに行ったんです。」と すかさずハーマイオニーが言う。 「見つけた時ハリーは・・・。」 「ハリーは何だね?」 スネイプ先生の暗い目が蝋燭の灯りでギラリと輝いた。 「『空腹じゃない』と。」 間をあけてハリーが言うと、スネイプ先生は彼を目で射抜いた。 「寮に戻りかけたら猫が・・・。」そう言ったハリーの声は不安気が混じっていた。 「疑わしきは罰せずじゃよ、セブルス。」ダンブルドア先生がきっぱり言った。 フィルチはひどく憤慨した。 「わたしの猫が石にされたんだ!罰を受けさせなけりゃ収まらん!」 金切り声で叫ぶフィルチを、私は横目で睨んだ。 「アーガス、君の猫は治してあげられますぞ。」 ダンブルドア先生が穏やかに言った。 「スプラウト先生が、最近やっとマンドレイクを手に入れられてな。 十分に成長したら、すぐにもミセス・ノリスを蘇生させる薬を作らせましょうぞ。 それまでの間、くれぐれも用心することじゃ。よいな?」 私達は無言で頷き、「帰ってよろしい。」との言葉を貰ってから、 廊下を出て階段を上った。 「不思議じゃない?」 「不思議?」オウム返しで言うと、ハーマイオニーはハリーの方へ振り向いた。 「あなただけが声を聞き、その後ミセス・ノリスが石にされた。 不思議だわ。」 あ、そういえばハリーがそんなこと言ってたな。 「声のこと、先生に話すべきかな。」 「バカ言うなよ。」 「ダメよ。魔法界でもそれはヘンだと思われるわ。」 リーマスにはそんなこと、聞いてないんだけどな。 壁に飾られてある絵画の中の男性が「彼女の言う通りだ。」と言うのだった。