クィディッチ試合の時、何故かブラッジャーはハリーを執拗に追い回していた。 試合が終わっても、ブラッジャーは襲い続けたのだ。 ロンは「マルフォイが仕掛けたんだ。」と 同じことを何度も繰り返したのをよく覚えている。 万一の場合に備えて防衛術を学ぼうと、『決闘クラブ』が開催された。 教える人物がロックハートでは、全く役に立てないだろうな。 「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘についてごくわずか、ご存じらしい。  訓練を始めるにあたり、短い模範演技をするのに、勇敢にも、  手伝ってくださるというご了承をいただきました。  さてさて、お若いみなさんにご心配をおかけしたくはありません。  ―――私が彼と手合わせしたあとでも、  みなさんの『魔法薬』の先生は、ちゃんと存在します。ご心配めさるな!」 ロンが隣で「両方やられっちまえばいいのに。」と呟く中、 当のスネイプ先生の上唇がめくれ上がっていた。 ロックハートはよく笑っていられるな、と私は思った。 ロックハートとスネイプ先生は向き合って一礼した。 一々あいつは礼するだけでも動作が大げさだ。 いい加減スネイプ先生が不機嫌だってこと、 気づいてもおかしくないはずなんだが。 「ご覧のように、私たちは作法に従って杖を構えています。」 ロックハートはしーんとした観衆に向かって説明した。 「三つ数えて、最初の術をかけます。  もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません。」 「僕にはそうは思えないけど。」ハリーも同じことを思っていたようだ。 「一―――二―――三―――」 二人とも杖を肩より高く振り上げた。スネイプ先生が叫んだ。 エクスペリアームス(武器よ去れ)!」 目も眩むような紅の閃光が走ったかと思うと、 ロックハートは舞台から吹っ飛んだ。 無様に大の字になるロックハートを見て、自然に口端が吊り上がる。 いやぁ、残念だ。本当に心苦しい!(けれどこの笑みは一向に消えない) これからモデルを組ませると聞いて、私はすかさずハリーを後ろに隠した。 これ以上、ロックハートのせいでストレスをかけさせる訳にはいかない。 「マルフォイ君、来たまえ。」 「では私は―――」 ロックハートの視界には生憎ハリーは映っていない。 後ろでハリーが苦笑しているように感じた。 「ではウィーズリー―――の隣にいるミス・、やりますか?」 まさかのご指名。マジか。 でもハリーが名指しされなかっただけでもマシか。 『男子対女子』ということにざわつきがあったが、私は構わず壇上に立った。 神妙な顔つきで見るスネイプ先生の後ろにマルフォイが控えていた。 相手が私だと分かった途端、後退りしているのを見た私は、 マルフォイに口パクでこう言った。 "逃げるな" 伝わったのか、マルフォイは顔を強張らせたまま、 渋々と壇上の中央へ向かった。 「手加減しろよー。」と誰かの笑みの含んだ声が上がったが、 マルフォイはそれを聞く余裕がない様子だ。 私も中央へ歩いて距離を詰め、軽く頭を下げた。 後からマルフォイは慌てて頭を下げた。 「・・・・・・ぼ、僕が君に、何かしたのかい・・・?」 「何もしてないよ。私には(・・)、ね。」 「え・・・?」マルフォイが聞きたがっていた様子だったが、 私は無視して杖を構えた。 遠く離れた相手と向き合い、私は杖を前に突き出した。 「私がやったようにやりなさい!」ロックハートがそう呼びかけたが、 私は返答しなかった。 私が術を始める前に、マルフォイが切羽詰まった声で 「サッ、サーペンソーティア(ヘビ出よ)!」と叫んだ。 マルフォイの杖の先から、黒くて長い何かが出て来た。 ヘビだ―――! 「ち、違うんだ!あ、誤って・・・・・・!」 マルフォイの焦った声が聞こえた気がした(・・・・)。 肌から勢いよく冷や汗が浮き出た私は、ヘビを凝視したまま動けずにいた。 生物が大好きな私だが、ヘビだけは無理なんだ。 どうすることもできずに立ち竦んでいると、 そのヘビはシューシューと、場外側―ジャスティンめがけて滑り寄った。 すると、ヘビは急に大人しくなって、その場から姿をポッと消え去った。 安堵したのも束の間、何故か皆してハリーを恐怖の目で見ていた。