ハリーはパーセルマウス―――
後から自分の寮に戻った私は、ロンとハーマイオニーにそう聞かされた。
ヘビに制止をかけたのは、ハリーだった。けれど、それが何故問題と言うのか?
ハーマイオニーは言う。
ヘビ語を使えるのはサラザール・スリザリンだと―――
ハリーがスリザリンの子孫なのではないかと―――・・・。
そんなこと、あるはずがない。
ジャスティンは誤解しているだけだ。
ハリーが襲おうとした・・・・・・?何を言っているんだ?
友達をそんな簡単に疑うなんて―――信じられない!
先に寮に戻ると言って、
書き物を無理やり終了させて出ていったハリーの後を追った。
「ハリー!」
私がそう強く呼ぶと、早足だったハリーの体が止まった。
彼は振り向くなり、「何の用?」と怪訝な表情で私を見ていた。
「私も戻るんだ。一緒に行こう。」
「いいよ。一人にして。」
「何で?同じ寮なんだからまた会うのに・・・。」
「僕と一緒にいたらッ!君も嫌な思いするだけだッ!」
ハリーは張り裂けそうな勢いで怒鳴った。
私は目を見開いたまま、ビリビリと怒声で体が振動したのを感じた。
ハリーは我に返って、静かに目を伏せた。
「ごめん、僕・・・・・・不安なんだ。」
「大丈夫だよ。第一、ハリーはグリフィンドール生で―――」
「そういうことじゃない。」ハリーは弱々しく首を振った。
「実は、『組分け帽子』に、
スリザリンでうまくやれる可能性があるって・・・・・・。
ヘビ語まで喋れて・・・僕、本当に―――」
「ハリー。君はハリー・ポッターだ。他の誰でもない。
この世でただ一人。私達だって、皆そうだ。」
自分でそう言うが、私も―――そうであることを願いたい。
「もし君がスリザリンの継承者であるなら、
入学した当時、既に事件は起きていたはずだ。
大丈夫。私の自慢の友達が、そんなこと絶対しないもん。」
「・・・・・・ありがとう、。」
満面とは言えないが、ハリーは柔らかい笑みを見せてくれた。
その顔が見られ、こちらもホッと胸を撫で下ろした。
しかし、廊下で硬直している『ほとんど首無しニック』とジャスティンが
発見されることになるのは、その数分後のことであった。
***
クリスマス当日。
二人が一度に襲われて以来、居残る生徒はほとんどいなくなった。
しかし、今夜マルフォイを尋問するにはもってこいだ。
それぞれなりたい人物の髪の毛を入れると、
一気にポリジュース薬を飲み干した。
ロンとハーマイオニーが小部屋に入り込むと、
私も吐き気を覚え、側にあった流し台に手をつけた。
体が、体中の皮膚が、蝋が熱で溶けるように泡立つ。
ようやく気持ち悪さがなくなり、鏡に映った自分を見て、現状を把握した。
―――パンジー・パーキンソンだ。
此間、久々に彼女に会い、服についていた髪を取る仕草に仕立て、
パンジーの髪を入手したのだ。
よくマルフォイに絡んでいたのを見ていたので、(本人には悪いけど)
パンジーに変身するには都合が良い。
スリザリン生には学校に戻ってきちゃったと言えばいい。
ハリーとロンも、元の原型がすっかり無くなっていた。
「あれ、ハーマイオニーは?」
「私―――私、行けないと思うわ。三人だけで行って。」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫・・・・・・私は大丈夫だから・・・・・・行って―――。」
「時間をむだにしないで。」というハーマイオニーに、
私達は顔を見合わせて、女子トイレを後にした。
ハーマイオニーはああ言ったけれど、やはり心配だ。
「ごめん、二人共。先に行ってて。」
「え!?どうして!?」
「あの状態でハーマイオニーを一人にさせるにはいかないし・・・
ハリーとロンなら大丈夫!」
「でも、僕らスリザリンの談話室の行き方なんて知らないよ。」
「この先真っ直ぐ進んで次の角を曲がって。
湿ったむき出しの石が並ぶ壁が見えてくるはずだから。」
「わかった。―――でも何で君が知っているんだい?」
「以前、マルフォイに連行された。」
私がそう言うと、二人は同情の目で見た。(そんな目を向けないで!)
「ハーマイオニーのこと宜しくね。」とハリーの言葉をもらい、
私は元来た道を引き返した。
階段を上ろうと角を曲がった途端、まさかの尋問ターゲットがいたのだ。
何でこんなところでウロウロしているんだ?
「ああ、君か。クラッブとゴイルを見なかったか?」
「え?い、いいえ。見なかったわ。」
今の私はパンジーなんだ。本人のように振る舞わないと・・・。
「なあ、変なこと訊いてもいいか?」
マルフォイの言葉を聞いて、ドキッと心臓が鼓動した。
まさか・・・・・・正体がバレたのか!?
「は―――まだ、怒ってるのかな・・・・・・。」
まだ・・・?それはどっちに対してだ?
好奇心には勝てず、マルフォイから訳を訊いた。
あの『決闘クラブ』で、誤ってヘビを出したことに、
私が未だに怒っているのではないかと不安がっているようだ。
確かにヘビが出て来た時は完全にフリーズしたが、
私が一番怒ってるのはその事ではない。
しかし、いくらパンジーの姿だからとは言え、
自分の口からわざわざ教えるというのは癪だが、
ヒントくらいは与えてやるか。
「マ・・・・・・ド、ドラコ。他に何か覚えない?
がどんなことに対して怒るのか・・・・・・。」
「・・・自分の信念を曲げること―――あ。」
「何?」
「・・・・・・グレンジャーを、『穢れた血』って・・・・・・。
いや、でも、に直接言った訳じゃ・・・!」
「言った言わないの問題じゃないわ。
彼女は―――友人の事となったらすぐカッとなるもの。
そうじゃないんだとしたら、
何故、の顔をちゃんと見てなかったの?」
そう訊くと、マルフォイは言い難そうに目を伏せた。
自分がどういうことしたのか、理解はしているようだ。
「そんなに心配するんなら、あまり関わらないようにしたら?
『二度と言わない』なんて―――無理することないわ。」
本当は―――二度と言ってほしくない。
けれど、マルフォイのような純血主義者に、
何を言っても無駄であることは目に見えている。
それに、自分勝手な主張で強制するのは、
無理強いさせてるみたいで嫌なんだ。
「無理やり聞かせて悪いけど―――
僕はこれからも、と交流したい。」
え―――うそ・・・本当なの?それ・・・・・・。
自分がパンジーであることを忘れて、マルフォイを凝視した。
―――っていうか、交流って・・・。まるで未知との遭遇扱いだな。
でも・・・・・・嫌じゃないな。
「そう・・・。あなたが言うなら、それで言いと思うわ。」
「・・・・・・君も変わったな。スリザリンらしくもない。」
言いすぎてしまったか。
後悔するのも遅すぎたが、マルフォイの表情は先程とは一変して、
柔らかくなっていた。
あれ・・・?私達、コイツを尋問するんだよな?
(それはハリーとロンがうまくやってくれると信じてる)
「君は寮に戻らないのか?」
「え、ええ。もう少ししたら行くわ。おやすみドラコ。」
「ああ。引き止めて悪かったな。」
何とかうまく言ってマルフォイと別れ、
すぐに3階の女子トイレへの階段を二段飛ばす勢いで駆け上った。
多分、今私の顔はすごく赤くなってる。
何でだ?何でこんなにも罪悪感を覚えるんだ・・・!?
くそ!マルフォイのくせに!!
私は、そう罵倒せずにはいられなかった。