私は小さい頃からしょっちゅう感情を爆発させている。
簡単に言えば、私は頭に血がのぼりやすい。
自分のことではなく他人、特に友人を悪く言われたことには敏感で、
流血沙汰はしょっちゅうだった。
そのせいで父に・・・リーマスにも迷惑をかけてしまった。
我に返った私を、皆は怯えた目で見ていた。
『赤い髪』
『赤い目』
皆揃ってそう呟いていた。
当時は訳が分からず、鏡に映った自分を見たが、いつもと変わらぬ姿だった。
けれど秘密の部屋でトム・リドルのあの言葉が、その真実味を裏付けていた。
日本の実家から持ってきた荷物をまとめたトランクを取り出し、
何か手掛かりになるものはないかと中を漁った。
着古した服やオモチャで溢れる小さな山の中から古びた一枚の写真が出て来た。
若い頃の父と、母らしき女性が赤子を抱えている。
自分で入れたはずなのに・・・・・・何故忘れてしまったのだろう。
「父さんは蓮、母さんは・・・・・・。」
『ジェニファー』―――。
旧姓は分からないが、昔、父がそう呼んでいた。
まだ幼かった私を気遣って母さんの話題は出さなかったに違いない。
「何をしているんだ、。学校へ行く前にそんなに散らかしちゃダメだろう?
時間ないから持っていくものだけまとめてくれ。」
「うん、ごめん・・・・・。」
九月一日、3年目となる新学期だ。
私達三年生は週末に何回かホグズミード村に行くことができる。
そして今年からリーマスがホグワーツの『闇の魔術に対する防衛術』の教師に新任される。
とても楽しみだという感情が湧いて来るはずなのだが、今はとてもそんな顔にはなれなかった。
それは此間届いた『日刊予言者新聞』を見たのが始まりだった。
シリウス・ブラックの逃亡―――
旧友に関する記事を目に通して以来、リーマスは不気味なくらい暗く沈んでいた。
私には何でもないと笑みを浮かべていたが、無理やり感がひどい。
何故ブラックはアズカバンから脱獄を?どうして今?
ブラックが何の罪を犯したのか当時の私には分からない。
「暫く寝る。はどうする?」
「私は・・・・・。」
その前に母について話を訊きたかったのだが、リーマスの心情を思い返して顔を横に振った。
「皆のところへ行ってもいいかな?」
「ああ、到着する5分前には戻ってきてくれ。」
そう言うとリーマスはみすぼらしいローブを深く被って目を閉じた。
改めて見ると、とても疲れているようだ。
何もできなくてゴメン。
そう口にせず、コンパートメントを離れた。
知りたい。だけど知りたくない。
知ってしまったら今まで通りの生活を送れなくなるかもしれない。
私が私でなくなってしまうかもしれない。
矛盾する脳内で交差する中で汽車が揺れているのもあって気分は良くなかった。
何処か座りたいなあ。ガタゴト揺れていた汽車がガクンと止まった。
駅に着くまでまだ掛かるはずなのに何故・・・・・・?
明かりが一斉に消え、側の窓には霜が走った。
この異常な現象に不安を覚えた同時に何者かの気配を感じた。
振り向いちゃダメだ。頭ではそう分かっているのに目線がその方へ向いていた。
すぐ側に立っていたのは、顔が頭巾で覆われている黒い影だった。
目があるはず場所から何かを吸い込もうとしていた。
「―――、貴女は・・・・・・じゃないの・・・・・・。」
「君は・・・どうして・・・・・・。」
「おーい、嬢!」
「大丈夫かー?」
ジョージとフレッドの声が頭上から聞こえる。
脳裏にかかった霧が晴れて、軽く頭を動かしてから目を開けた。
明かりがついていて汽車も動いている。あの黒い影はなかった。
私はずっと通路に倒れていたのか・・・・・・。
「ビックリしたぜ。ここ通ったら君が倒れていたからさ。」
「さっき何を話してたの?女の子の声もしたんだけど・・・・・・。」
「女の子?」
「いるのは僕達だけだぜ?」
「・・・・・・そっか。」
夢だったのだろうか。とても懐かしい声だった。
あの黒い影に遭遇したせいか、駅に着いても喪失感が消えなかった。