私が気絶したと聞いたハリー達からも心配の声が上がった。
ケガもないし、さっきと比べれば暗い気持ちはほぼ消えかけている。
ハグリッドの小屋へ行き、ペット達と再会の時間を惜しんで宴会へ急いで向かった。
合唱が終わってダンブルドア先生の話に入ろうとしていた。危ない危ない。
「新学期おめでとう!皆にいくつかお知らせがある。
一つはとても深刻な問題じゃから、
皆がご馳走でぼーっとなる前に片付けてしまうほうがよかろうの・・・・・・。」
その言葉を聞いて改めてダンブルドアを見た。
「皆も知ってのとおり、わが校は、ただいまアズカバンの吸魂鬼、
つまりディメンターたちを受け入れておる。魔法省のご用でここに来ておるのじゃ。」
ディメンター・・・・・・列車で遭遇したあの黒頭巾のことか。
吸魂鬼・・・・・・なんて嫌な組み合わせの単語だろう。
「吸魂鬼たちは学校への入口という入口を堅めておる。
あの者たちがここにいるかぎり、はっきり言うておくが、
誰も許可なしで学校を離れてはならんぞ。奴らはとても凶暴じゃ。
言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、吸魂鬼には生来できない相談じゃ。
あの者たちが皆に危害を加えるような口実を与えるではないぞ。」
そんな危ない奴らに学校の警備させるなんて先生らしくない。
それもシリウス・ブラックが関わっているからだろうか。
「楽しい話に移ろうかの。」
「今学期から、うれしいことに、新任の先生を二人、お迎えすることになった。
まず、ルーピン先生。
ありがたいことに、空席になっている『闇の魔術に対する防衛術』の担当をお引き受けくださった。」
リーマスだ!思わず顔の頬が綻ぶ。皆の拍手よりも力強く拍手した。
隣にいるハリー達も同じである。
「、すごく嬉しそうだけど知り合い?」
「あ、実はね・・・・・・。」
「もう一人の担任は。」
私が言いかけた言葉がタイミング悪く先生の声で遮った。
ハリーは気になる様子だったが、すぐにダンブルドア先生へ視線を戻した。
「ケトルバーン先生は『魔法生物飼育学』の先生じゃったが、
残念ながら前年度末をもって退職なさることになった。
手足が一本でも残っているうちに余生を楽しまれたいとのことじゃ。
そこで後任じゃが、うれしいことに、ほかならぬルビウス・ハグリッドが、
現職の森番役に加えて教鞭を取ってくださることになった。」
私は驚いて、ハリー、ロン、ハーマイオニーへ目を合わせた。
三人も同じ顔だったが、すぐに理解すると大きな拍手を送った。
ハグリッドの授業かあ・・・・・・これは楽しみだ!
***
『占い学』で使われる紅茶を飲んだせいか、あるいはこの授業内容からか、とても眠い。
いつも指摘してくれるハーマイオニー(さっきまでいなかったはずなのにあれ?)が
注意しないのはこの授業の時だけだろう。
夢の世界に片足どころか両足突っ込んでいる私をよそに、ハリーの表情が暗い。
カップの底に残った茶色の葉がグリム、死神犬になっていたことを聞いた。
「そんなことあるわけないわよ。『占い学』って、とってもいい加減だと思うわ。」
「でもさ、死神犬って言ったらやっぱり・・・・・・。」
「やっぱりって?」
「まだ、には言ってなかったね。」
ハリーは暗い表情から一変して、真剣な目で言葉を続けた。
シリウス・ブラックが例のあの人、ヴォルデモートの手下であること。
そいつを打ち破ったハリーを、ブラックが狙っているんだと・・・・・・。
リーマスにとってショックな以前に、何故か私の胸辺りがチクリと痛んだ。
「凶悪な殺人鬼でアズカバンを脱獄したんだ。
ハリーを殺そうとしてるなんてよっぽど狂人だよ。」
「すぐにまた捕まるわよ。」
「・・・?大丈夫?」
「・・・うん、平気!次の授業が楽しみすぎて、緊張しちゃってさ。」
早くこの話題から逃れようと、背中に汗が滲むのを感じながら無理やり笑みをはり付けた。
***
昼食のあと、大体食べると眠くなってしまうが、
今から『魔法生物飼育学』があるだけでワクワクが止まらない。
唸っている『怪物的な怪物の本』を開いたまま早歩きする。
スリザリンとの合同で唯一開けているのが私だと分かったハグリッドは、
大袈裟にも皆の前で褒めてくれた。(流石にこれは恥ずかしい・・・!)
すると一斉に「どうやったの?」と押し寄せて来る。
その集まりをマルフォイが乱暴にかき分けた。
「いやぁ、僕としたことが・・・どうやればいいか忘れちゃったんだ。」
「何だ、あいつ。」
ロンの独り言に、私も当然同じ気持ちだ。
何で素直に言わないんだろう・・・?
皆が背表紙を撫でて教科書を開いたところでハグリッドは一旦森へ向かった。
それを機にマルフォイが後ろからハリーを嘲笑いながら近寄る。
「ポッター、気をつけろ。吸魂鬼がおまえのすぐ後ろに―――」
「そうだねえ〜〜〜。私も気絶しちゃったんだから気をつけるとしようマルフォイ君。」
「えっ・・・それどういう―――」
「皆待たせたな!」
マルフォイのか細い声を思いっきり跳ね除けるようにハグリッドの大きい声がかかる。
振り返ると、ハグリッドの側に大きな生物がいた。
半鳥半馬のヒッポグリフ。
輝くような毛並みに力強い目。
どう言ったらいいのか―――一目見てカッコいいと思ったのが第一印象だ。
「まんず、イッチ番先にヒッポグリフについて知らなければなんねえことは、こいつらは誇り高い。
すぐ怒るぞ。絶対、侮辱してはなんねぇ。
かならず、ヒッポグリフのほうが先に動くのを待つんだぞ。」
皆が怖々とこの光景を見守る中、私は嬉々としてヒッポグリフについて頭に叩き込んだ。
「よーし―――誰が一番乗りだ?」
「はい!私が―――」
「おっとスマン。ハリーが早かったな。」
えっ・・・・・・?
思わずハリーを凝視した。私より前に出ている・・・。
ハリーも此方を動揺した目で見つめる。
(ロンに背中を押されたと、後で聞いた)
「後でにもやらせちょる。なっ?」
「・・・・・・ごめん。」
「だっ、大丈夫大丈夫!行って来いハリー!」
ちょっぴりショックではあったが、ハリーの様子を見守りたい。
ハグリッドの言われた通りにハリーはヒッポグリフのそばまで近づき、
おずおずと腰を低くして軽くお辞儀した。
ゆっくり下がっていくと、突然ヒッポグリフが前脚を折ってお辞儀した。
「やったぞ、ハリー!」ハグリッドの狂喜に続いて思わず拍手した。
ヒッポグリフの嘴を撫ぜる姿が何だか微笑ましい。
更には背中に乗せてもらい、
空を舞うあの姿はとても様になっていて本当にキレイだ。
ああ〜〜〜早くふれ合いたい!!!
「本当に魔法生物が好きなのね。」
「うん!魔法生物というより動物全般ね!」
「わかった、わかって・・・・・・。」
ロンはもう、いっぱいいっぱいだと空を仰いだ。
ハリーとバックビークが戻ってきて、私達は歓声をあげた。
一体どんな空中飛行だったんだろう?
ハリーが肌で感じ、その目で見た世界を私も味わいたい―――。
「なんだ、簡単じゃぁないか。・・・・・・おまえ、全然危険なんかじゃないなぁ?」
「バカ!よせマルフォイ!」
もったいぶって堂々とヒッポグリフの側に来たマルフォイを、鋼色の鉤爪が光った。
マルフォイがヒッーと悲鳴をあげ、
ハグリッドが両手を広げてバックビークとマルフォイの間に立ち塞がった。
彼が投げた死んだフェレットに夢中になっているバックビークを前に、
私はすぐ動くことが出来なかった。
「死んじゃう!」
「死にゃせん!」
腕を負傷して喚くマルフォイをハグリッドが抱えて医務室へ連れていった。
楽しみにしていた『魔法生物飼育学』が不穏な形で終わってしまった。