「俺が悪いんだ。はじめっからレタス食い虫から初めていりゃこんなことには・・・・・・。」
「ハグリッドは悪くない!大丈夫、私が手伝う。絶対勝とうよ。」
裁判で有利な立場を得るために役に立ちそうな本を探し回っていたら
とっくに休憩時間は過ぎていて、リーマスの授業に遅れてしまった。
長い間、家族同然として過ごしてきたが、この校内では先生と生徒という立場で一切贔屓はしないと
念を押すように言われたので減点されるのは目に見えていた。
教室に入ると、殆ど皆が寮に戻る準備をしていた。授業が終わるには早すぎるような・・・・・・。
「どこ行ってたのよ、!心配したじゃない!」
「ご、ごめん。ちょっと用事あって・・・・・・。」
「ハグリッドの小屋に行ったの?ハグリッドは大丈夫なの?」
「とても元気!とは言えないけど、此間よりはいいと思う。」
それはよかったとハリーはホッとした。
ハーマイオニーは反対に、私が授業を欠席したことを怒っていた。
「リー・・・・・・ルーピン先生に謝ってくる。」
ハーマイオニーの怒声から逃れようと再び廊下を出た。
おそるおそる職員室に入ると、ちょうどリーマスが片付けをしているを見つけた。
私が入って来たことに気づいて、作業を中断してこちらに振り返った。
「僕の最初の授業を堂々とサボるとは、やってくれるね。」
苦笑を浮かべているが、穏やかな言葉とは裏腹に目が怒っている。
「ごめんなさい・・・・・・でも欠席するつもりなんてなかった。」
「わかってるよ。よほどの理由がない限り、君がそんなことをするはずがない。
一体何をしていたんだい?」
「本を・・・・・・バックビークの弁護に役に立つのを探しに・・・・・・。」
「それで図書室に・・・・・・かい?動物を愛するその姿勢はとても美しいよ。
けど、君が無断欠席したのが僕の授業じゃなかったら、弁解を聞いてやるのは無理だろうね。
君にとってもショックだろうけど、ここは学校だ。決められた科目にはちゃんと出なさい。
いいね?」
「うん。」
リーマスの言う通りだ。こうしてホグワーツに通えるのはリーマスのおかげでもある。
文句なんて言えない。
職員室を出ようとすると、「次はちゃんと来てくれよ?」期待を含めた声をかけられ、
私は大きく頷いてからドアを開けた。
***
皆がホグズミードへ行くのを今かと楽しみにしている中、
ハリーは許可証を手にマクゴナガル先生と切実な顔で話し合っていた。
マクゴナガル先生が離れると皆も移動を始めた。
「行けないや。」暗い声でハリーは言う。
気にしないで楽しんできてと、精一杯平気を装う表情で見送られた。
その姿が一瞬、ブレて誰かの影と重なる。
「ごめん、忘れ物しちゃった。先に行ってて。」
「ちょっと、一旦戻ったらもう外には行けないわ。忘れたの?」
「いいじゃないか。行かせてやれよ。」
「ごめんね。」
ロンは悟ったような声でハーマイオニーを宥めつつ、此方をチラッと見た。
ありがとう、ロン。あ、お土産たくさんよろしく。
ドアの側にいるフィルチの視線から離れた場所へ遠回りし、
何百メートルも高さのある明かり窓へピョンと跳躍した。
グリフィンドール塔へ向かう途中、ハリーとリーマスと会った。
「!ホグズミードに行ったんじゃ・・・・・・。」
「あ〜〜〜実はその・・・・・・。」
「失くしたのかい?」
私がもごもごと答える前にリーマスがキッパリと訊いてきた。小さく頷く。
「しょうがない子だな。」呆れ気味だが察してくれた様子で、私は苦笑まじりに謝った。
まるで親子のような会話を交わす私達をハリーが交互に見た。
「どういう関係なの?」
「ああ、まだ君には言ってなかったね。二人共、おいで。」
ここで立ち話は何だと場所を移動した。
私がリーマスの家に居候していることを告げるとハリーは目を大きく見開いた。
「じゃあ、イギリスにいる間はずっと先生のとこに・・・?」
「父さんがお願いしたんだって。物心ついた時はほぼこっちで過ごしてる。
ハリーの両親の友人だって、とても嬉しそうに話してた。」
「、それは僕がこれから話そうと・・・・・・。」
「これは失敬。」私はニヤリとウィンクした。
ハリーは頬を赤らめるが、その顔はとても嬉しそうだ。
「だったらもっと早く言ってくればよかったのに。」
「すまなかったね。僕が公言しないよう、彼女に言ったんだ。
家族だから贔屓している―――なんて勘違いされる。
まあ、教師についた時点でそのつもりは全くないけどね。」
「ね?優しくて面白い人だけどさ、私に対しては厳しめなんだよ。」
家族と呼んでくれた嬉しさにこみ上げて来るニヤニヤを抑えようと、
私は唇を尖らせてムッと言ってみせた。
それでも、ハリーは本当に仲がいいんだねと笑みを浮かべた。
「ところでハリー・・・・・・。」
「私が新任されるまでの間、が迷惑かけなかったかい?
もう知っての通り、この子は大の動物好きでね、
その事となると周囲が見えなくなったりして落ち着きがなくて・・・・・・」
「勘弁してよ!まだ欠席したことを根にもってるの!?」
「僕の一日目の授業を堂々と無断欠席されていい思いするとでも?」
そうだ、リーマスはどんな小さなことでも根に持つんだった。
(私以外にはどんな態度をとっているか気になるとこだが)
まさかハリーがいる前で説教されるなんて・・・!
「それは・・・・・・ちゃんとしていなかった私が悪いよ。
これからはちゃんと授業に出るし、だから過去をぶり返すようなことは―――」
自分の口から『過去』というキーワードを無意識に出して、
全部言い終わる前に口を閉じた。
怪訝な顔でどうしたんだいと聞かれるが、何でもないと首を振った。
「あっ、私、図書室に用事があるんだった!
ハリーまた後で!」
「、さっきフィルチがその近くにいたから別の方向がいいかも。」
「マジか・・・・・・ありがと!」
「君が図書室へ行くなんて想像つかないね。」
「うっさい!!!」
思わず大きな声を出して飛び出したが、シリウス・ブラック脱走の一件以来、
リーマスと会話して楽しいと感じたのは久しぶりだ。
今、私の顔はニヤニヤしているに違いない。
さて、皆が戻って来るまで図書室に居座っていようかな。