「イッチ(一)年生!イッチ年生はこっち!」 「ハグリッド!」 私の耳に懐かしい声が二人も入って来た。 ハグリッドとハリーだ。 ハリーも本当に、同じ学校に行くのだと改めて理解した。 一緒に機関車から降りたネビルの腕の中には、 大事そうに抱えられているヒキガエルがいた。 「もうトレバーから目を離しちゃダメだよ。」 「うん。本当にありがとう、二人共。」 「見つけたのはよ?」 「でもハーマイオニーも一緒に来なかったら、 もしかしたら見つからなかったかもしれないよ?」 「そうかしら・・・・・・。」 何故か頬を赤らめるハーマイオニーが何だか可愛い。 後からハリーとの再会の喜びを噛み締めると、 同じボートに乗り込んで、近づいていく巨大な城を見上げた。 ボートの短い船旅を終えると、今度はいよいよ城の中だ。 初めて入るはずなのに、懐かしくてたまらない。 「ホグワーツ入学おめでとう。」 私達の目の前に立つマクゴナガル先生が挨拶をした。 「新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席につく前に、 皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。」 「(寮の組み分けね)」 側にいたハーマイオニーが耳打ちする。 「グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。 それぞれ輝かしい歴史があって、偉大な魔女や魔法使いが卒業しました。 ホグワーツにいる間、皆さんのよい行いは、自分の属する寮の得点になりますし、 反対に規則に違反した時は寮の減点になります。 学年末には、最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が与えられます。 どの寮に入るにしても、皆さん一人一人が寮にとって誇りとなるよう望みます。」 「学校側の準備ができたら戻るので静かに待つように。」と 先生が部屋を出ていった。 それを見計らって向こうから、 青白い男の子が気取った口調でハリーに近寄ったのを目にした。 「そして、僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ。」 ドラコ・マルフォイ・・・・・・『マルフォイ』!? 「どうしたの、。百面相になってるわよ?」 「・・・ううん、なんでもない。」 マルフォイという姓を聞いて、また脳内トリップしちゃった。 初めて聞くはずなのに何でだろう。すごく鬱陶しい。 「そのうち家柄のいい魔法族とそうでないのとがわかってくるよ。 間違ったのとはつき合わないことだね。そのへんは僕が教えてあげよう。」 初対面のくせに、かなり生意気だな。 他人のこと言える立場じゃないけど。 「間違ったのかどうかを見分けるのは自分でもできると思うよ。 どうもご親切さま。」 冷たく言ったハリーに、自分でも薄らと笑みを浮かべているのが分かる。 ちょうどいいタイミングに、マクゴナガル先生が戻って来た。 「さあ行きますよ。組分け儀式がまもなく始まります。」 一列になって、ハーマイオニーの後ろを追うように大広間に入った。 テーブルには上級生たち、広間の上座にあるもう一つの長テーブルには 先生方が座っていた。 天井を見上げると、ビロードのような黒い空に星が点々と光っていた。 「本当の空に見えるように魔法がかけられているのよ。 『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ。」 ハーマイオニーがそう言うのが聞こえた。 「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、 組分けを受けてください。」 次々と帽子が寮名を呼びあげる毎に、 少しずつ、呼ばれていない一年生の数が少なくなって来ているのが分かる。 ハーマイオニーはグリフィンドール、ネビルも同じだった。 先程ハリーに声をかけたマルフォイはスリザリンに選ばれた。 そしてハリーが呼ばれた瞬間、一気に静まり返った。 広間中の人たちが首を伸ばしてよく見ようとしていた。 ハリーが有名人であることを知らなかったのは、きっと私だけだろう。 帽子をかぶったまま、しばらく時間が経ったが、 次の瞬間、「グリフィンドール」と帽子が叫ぶ。 グリフィンドールから盛大な歓声が上がった。 ひどくホッとした様子のハリーが、 ふらふらとテーブルに向かったのを見届けた。 「(あれ?私、まだ呼ばれてない・・・・・・)」 そろそろ呼ばれてもいい頃なのに、数は徐々に減っていく一方だ。 私の本名はABCというより、あいうえお順に当てはまる。 もしかしたら最後かも・・・・・・。 「、!」 ついに来た! 聞きなれない名前だからか、 あちこちから好奇心の視線が飛び交っているのが分かる。 先生側からも、何人か視線を送っていた。 それらを振り払うように少し足早く腰掛けた。 帽子が頭に置かれると、私の耳の中で低い声が聞こえて来た。 「ほう。まさかこんな形で戻って来たか・・・。」 「("戻って来た"・・・?)」 「ふむ、君ならここでもやっていけるだろう・・・・・・ グリフィンドール!」 ハリー程ではないが、弾けるような歓声が上がった。 組分け帽子の言葉がきっかけに、私は少し呆然としていたが、 皆を待たせる訳にはいかないと急いで席へ座った。 先生側からまだ、痛いくらいの視線が背中に突き刺さっていたが、 ダンブルドア先生の話が始まると、その視線はなくなった。 むしろ、今の私にとって話を聞くどころではなかった。 私は・・・・・・かなり前からこの学校に通っていた―――。 一体何年前だったか詳しく思い出せないが、 今、話をしている校長先生やマクゴナガル先生、 大きな紫のターバンをつけた先生の隣にいる、 ねっとりした黒髪の先生(多分)も知っている。 だけど、急に復元された記憶はここまでだ。 歓迎会が始まっても、双子のウィーズリー兄弟に、 質問攻めされても、私は脳裏に過ぎった記憶のことでいっぱいだった。