リーマスは月に何度かどうしても外せない仕事があると言い、 私をよその家に預けていた。 ここに来てまだ間もない頃は寂しくてたまらなかったが、 居候の身である私がどうこう言って、彼を困らせたくなかった。 決まって私は布団に包まって早く帰ってきてと閉じこもっていた。 その日は決まってリーマスの顔色が土色で、昼間でも分かるほど満月が出ていた。 *** 控訴に敗れた。日没に処刑だ。 おまえさんたちにできるこたぁ何にもねえんだから、来るな。 おまえさんたちに見せたくねえ。 「行かなきゃ。」 ハグリッドの手紙を見て、行かないわけがない。 玄関ホールを横切る途中、大きな斧を磨く不気味な奴がいたが、 恐らくあいつが死刑執行人だろう。 ハグリッドの小屋にたどり着いて戸をノックした。 「来ちゃなんねえだろうが!」 ハグリッドはそう言いながらも急いで私達を中に入れた。 森の方から風が吹いたからか、木の香りがする。 それを喜ぶバックビークを見て、たまらず「逃がしてやれないの?」と言った。 「俺がやったとばりゃダンブルドアに迷惑がかかる。  これからおいでなさるんだ。一緒にいて下さる。  最期の時はな。偉大なお方だ。」 「ハグリッド、私たちもあなたと一緒にいるわ。」 「そんなことしちゃなんねえ。おまえさんたちには見せたくねえ。だめだ。  お茶飲んだら帰ってくれ。ああ、その前にロン。」 ハグリッドはミルク入れからなんと、スキャバーズを出したのだ。 ロンは手の中にいる(ボロボロにはなっているけど)スキャバーズを見てとても喜んだ。 「ねえ、誰かに謝るべきじゃない?」 「そうだな。今度クルックシャンクスに会ったら謝っておくよ。」 「私によ!」 ガシャン! 突然、テーブルの上にある瓶が割れた。「アイタッ!」 視線を瓶から外すと、ハリーが顔を歪めて何故か後頭部を抑えていた。 「どうしたの?」 「わ、分からない・・・何か急に・・・・・・」 「連中が来おった・・・・・・。」 立ち上がったハグリッドの視線を追うと、 遠くの城の階段をダンブルドア達が下りて、此方に向かっていた。 列の一番後ろに先程会った男がいる。 「じきに夜だ。ここにいちゃいけねえ・・・・・・こんな時間に城の外にいたら面倒だぞ。  特にハリーはな。」 ドンドンと誰かが戸を叩いた。「ああ、待って下され。」 はよう、行けとハグリッドが小声で促した。 動こうとしない私をハーマイオニーとロンが背中を押して裏庭に出た。 巨大なかぼちゃの陰に隠れ、ダンブルドア達が此方に背を向けているのを確認し、 城の階段へ向かって走った。 振り向けばバックビークがじっと此方を見つめている。 何かを訴えているかのようにか細く鳴いた。 脳裏から別の光景がフラッシュバックする。 立ち止まってしまった私を、ハリーに手を引かれたことでようやく階段を登り切った。 小屋からハグリッドも一緒に出て来た。 息を殺して見守る中、この後のことを想像した途端、過呼吸になった。 「何故!何故なんだ!どうしてあの子を―――!!」 「あの生物は危険指定されているんだ。事が起こる前に処分したまでだ。」 「危ないと思ってるのは人間だけだろう!この・・・・・・!」 カラスが一斉に飛び去った音で、浮上してきた記憶を無理やりかき消した。 木がちょうどバックビークがいるであろう場所と被っていて、 惨い光景を見えなかったのは幸いだった。 押し殺していた感情がウソのように、大粒の涙となって流れていった。 「私は、また・・・・・・何も出来なかったのか・・・・・・。」 ハリー達も同じ思いで、ただ抱き合うことしかなかった。 突然、ロンが噛まれたと苦痛の声を漏らした。 逃げ出すスキャバーズを追うロンを追いかけ、 彼の後ろに暴れ柳があるのを見て立ち止まる。 早くその場から離れて―――「ハリー!ハーマイオニー!!逃げろ!」 「グリムだ!」 すぐに後ろを振り向いた。芝生の上に、薄灰色の目をした大きな黒い犬が立っていた。