ネズミが見知らぬ男となって現れ、ロンはショックを隠し切れていなかった。 私はネズミを装っていたことよりも、その小男が誰なのか知っていた。 いや、正確にいうとハッキリと分かった訳ではない。 脳裏の隅から、自分はその男を知っていると訴えているのだ。 「ハリー・・・・・・なんとまあ、お父さんにそっくりだ・・・・・・ ジェームズは親友だったんだよ・・・・・・。」 「よくそんな口が利けるな?よくハリーの前でジェームズの話ができるな?」 ブラックは怒りを露わにして大声を出した。 「お前がジェームズとリリーをヴォルデモートに売ったのだろう?」 「そんなつもりじゃなかったんだ・・・・・・でもあの恐ろしい闇の力の前では・・・・・・。 シリウス、君ならわからないかな?君ならどうした?」 「俺なら死ぬ!友を裏切るくらいなら死んだ方がましだ!」 二人からコソコソと逃げるペティグリューは本物のネズミのように哀れで惨めな姿だった。 ドアの前に立ち塞ぎ、そこで初めてペティグリューと目が合った。 「おお、おお・・・・・・君は、じゃないか・・・・・・。」 まるで十年ぶりに再会したような口ぶりで、両手を広げて此方に近づいて来た。 「死んでいたなんて嘘だったんだ・・・・・・。 わたしが生きているのだから、君が生きていて不思議じゃない・・・・・・。 何せ死体は・・・・・・」 「に触るな!」 私の肩に触れたペティグリューの腕を、リーマスはへし折る勢いで掴んだ。 リーマスが、あんな顔をするなんて・・・・・・。 「君はこの三年間、何を見てきたんだ?目の前にいる彼女は我々の知る友ではない。 彼女は無関係だ。」 「何故そう言いきれる?『例のあの人』の前で爆死したと皆そう言っていた・・・・・・。 姓は違うが、名前が同じだけでこんなにもそっくりになれるのかい? そもそもこの子は・・・・・・本当になのかい?」 弾かれたように私はペティグリューに掴みかかっていた。 胸元を握る拳に力を籠めれば、ペティグリューの表情が真っ蒼になっていく。 「止せ!」「君が手を汚す必要はない!」双方から声が飛び交うが、 父を侮辱されたという怒りで、全く聞いていなかった。 「やめて!」 ハリーが叫んだ。 私はペティグリューの胸元を掴んだまま、ハリーの方へ振り向いた。 リーマスも物言いそうな表情で見つめている。「ハリー、この男は・・・・・・。」 「わかってます。でも城に連れていこう。」 私は呆然とした。 胸元を掴んでいた手の力が緩み、 素早く抜け出したペティグリューは両腕でハリーの膝を抱こうとした。 「ハリー!なんと慈悲深い―――ありがたい―――。」 「触るな。」 ハリーは汚らわしいとばかりにペティグリューの手をはねつけた。 「城に連れていって、お前を吸魂鬼に引き渡す。 僕の父さんは、親友が―――おまえみたいなもののために――― 殺人者になるのを望まないと思っただけだ。にも、そんなことさせたくない。」 ガタガタと震えるペティグリュー以外、誰一人動かなかった。 私はハリーの言葉で落ち着きを取り戻し、息を盛大に吐き出した。 *** ハリー達と交代しながらロンの腕を持って前進している途中、 私はロンを隣で支えるシリウスを見た。 リーマスと、ハリーの父親の友人。じっとその横顔を眺めている内にふと口を開いた。 「あの、シリウス・・・・・・ブラックさん?」 声を掛けられるとは思っていなかったようで、 驚いた表情で私の顔を見ていた。 「さっき、私の名前言ってたけど・・・・・・。」 「あ、いや・・・・・・わたしが言うは君のことを指してたわけじゃないんだ。 ややこしい話だが、同期であるスリザリン生がいてな・・・・・・ 君と同じ名前なんだ。当時は変な名前だってからかってた。」 遠い記憶を脳裏から引き出して、それを見つめるような目で苦笑した。 私は寂しいような、複雑な気持ちだった。 「入学して間もない頃、お互い嫌悪しててな。 ほら、グリフィンドールとスリザリンってそんな感じだろう?」 「でも、仲良かったんでしょ?」 「・・・・・・今も鮮明に思い出すよ。俺達がどれだけガキだったか情けないほどに。 もっと早く打ち解けていれば亀裂することはなかった。」 シリウスの表情が暗くなるのを見て、私のバカ!と心の中で罵った。 「さっきは混乱させてすまなかった。 あまりにも友人にそっくりで生き写しかと思ったよ・・・・・・。 写真さえ持っていれば君も納得すると思うんだが・・・・・・。」 「えっ、見てもいいの?」 「この様子を見るとリーマスは君を気遣っていたんだろうが、君も立派な魔女だ。 まあ、君が良ければなんだが。」 「そんな!私の方こそ・・・・・・嫌じゃないの? せっかく仲直りできたのに、私のせいで微妙な距離になって・・・・・・。」 「長い付き合いだ。そう簡単に絆は断ち切れんよ。」 シリウスは後方にいるペティグリューに杖を向けたまま連れていくリーマスをみた。 「そうそう、わたしのことは君の好きなように呼んでかまわんよ。 昔から堅苦しいのは苦手でね。」 子供ようにくしゃりと笑むシリウスを見てホッと安堵したが、 それが緩んで誤って足を滑らせた。 なんとも奇妙な体勢で崩れたロンの体を何とか支えられたが、 勘弁してくれと呻き声が上がった。