*三年次の終わりの夏 「日本のお祭りというのを一度でいいから見てみたいわ。」 きっかけは、ハーマイオニーが何気なくいった言葉だった。 「ねえ、リーマス、皆と日本へ行きたいんだけどさ―――」 「また突然だね・・・・・・もう一時間足そうか。」 「うわー!勘弁して!本当に!反省してるって!」 先程長ーいお説教を終えたばかりで、心身ともにヘトヘトだった。 そのくらい大声を出せる元気があるじゃないかと痛い所を突かれたが、 流すだけでも必死である。 「さあ、どうしようかな。  君とは九年暮らしてきたけど、僕にはペットを飼っていたことを言ってくれなかったしね。」 「うう・・・・・・。」 最もなことだ。ぐうの音も出ない。 ルーピンは片目を開けてチラリとを見た。 「―――なんていうのは冗談。君が飼っている魔法生物の殆どが危険レベルだからね。  安易に言えば魔法省が黙っちゃいないだろうし。  だからといってハグリッドやダンブルドアがいいという訳じゃないんだよ。」 「う・・・・・・うん。ごめん・・・・・・。」 「まあ、いつまでも引きずってせっかくの旅行が悪い雰囲気になるのは嫌だしね。  今回は早めに知れていいことにしよう。」 「あ、うん―――今なんて?」 間抜け顔をしているに向けてルーピンはにっこりと笑った。 「自分で言ったことを忘れちゃったかい?ハリー達と日本へ行きたいんだろ?」 「いいの・・・・・・!?」 「長い間、母国へ帰っていないからね。この機会にお父さんと会って来るといい。」 「じゃあリーマスも一緒に行こう!」 「いや、僕はここに残るよ。  もう、スネイプ先生から脱狼薬をありつけることはなくなったからね。」 は気づいた。 人狼であるが故、遠出に行くことはもちろん、二人と旅行したことがない。 その事情を知っているは文句も言わなかった。 なのにそれを忘れていた。は眉をハの字に下げた。 「ごめん、リーマスの気持ちを考えずに言って・・・・・・。」 「君が気に病む必要はないよ。僕のことは気にせず楽しんでおいで。  帰ってきたら話をたくさん聞かせてね。」 「あ・・・・・・うん!」 複雑な表情を浮かべていただが、ルーピンのその言葉に大きく頷いた。 *** 「へえー!これが飛行機っていうんだ・・・・・・は日本からこれに乗ってきたんだろ?」 「これからちゃんと乗れるわよ。ほら、チケット出して!」 ルーピンに空港まで送って貰い、 初めて飛行機に乗るハリーとロンはシートに座るまで興奮を露わにしていた。 「これ、本当に飛ぶの?」としつこく聞いて来たロンは、飛行機が動き出して十分も経たずに 耳鳴り(といっても軽い方だが)に黙り込んだ。ハーマイオニーは呆れて溜息ついた。 「でもよく許してくれたわね。私達子供だけで・・・・・・本当は心配してるはずよ。」 「最初は反対してさ、特にママが・・・・・・で、暫くしたら何故かオーケーくれたんだ。  理由は分からないけど滅多にない機会なんだしさ、大勢だから大丈夫だろ。」 「僕はダーズリーの家からすぐ抜け出せていいんだけどね。」 「お迎え、のお父さんが来てくれるって?」 「予定ではね。本当に来てくれるといいんだけどなあ。」 「お父様は何のお仕事をされているの?」 「えー?そんなのニンジャに決まってモガッ!」 声が大きいとハーマイオニーがロンの口を塞いで小声で囁いた。 忍者と言っても子供の冗談と受けとると思うが・・・・・・。 「まあ、間違っちゃいないけど。  普段は工芸職人でね、木を使っていろんな作品を創るんだ。  忍の仕事はごく稀でしかないんだって。」 「なーんだ、間違ってないじゃないか。」 「ロン・・・・・・秘密を守ろうという気ないでしょ?」 長い空の旅はあっという間に過ぎていき、熟睡していたロンを叩き起こして飛行機を降りた。 「箒でも雲の上で飛べないかな?」とハリーの話を聞きながら、ふと見慣れた後姿を見つけた。 「父さん!こっち―――こっちだよ!」 大声だけでは足りず手も大きく振った。 此方に振り向いた途端、は振っていた手を止めた。え・・・・・・本気で誰? よく見ると体つきが違う。 警戒心を露わにしたを前に、その人物は苦笑しながら待ってくれと駆け寄った。 「僕は君のお父さんに頼まれて迎えに来た工芸職人の弟子だよ。  蓮さんじゃなくてごめんな。」 「もしかして―――(ススキ)さん?」 すると、男は満面な笑みを浮かべた。 帽子を取れば、爽やかな青年の表情がはっきりと露わになった。 「いや〜何年ぶりかな?最後に会ったのが君が五歳だったからね。  覚えてないのも当然だよな。」 「、この人は?」 「父さんの仕事場で働く従業員さん。魔法やそれを使う魔法使いのことも知ってるから大丈夫だよ。」 「初めまして、小さな魔法使いさん達。ようこそ日本へ!  長旅で疲れただろうから元気が出るやつを食わせてやるからな〜!」 「ねえ、何だって?」 「お待ちかねの食事よ。」 「やった!」 もうお腹はペコペコだと訴えていたロンがガッツポーズした。 ハリーがおそるおそるとに耳打ちしてきた。 「ねえ、あの人は・・・・・・本当にマグル?」 「察しがいいね、ハリー。薄さんは工芸職人だけなく、裏仕事の弟子でもあるんだよ。」 「じゃあ、あの人も忍術が使えるんだ!」 「思ったんだけど皆、いつの間に日本語を覚えたんだよ?  何言ってるのか全然わからないよ!」 「あら、意外ね。あなたもてっきり魔法を使っていたと思ったのだけど?」 遅めの昼食をたっぷり(特にロンが)とった後、 ハーマイオニーが要望していた神社を始めとした世界遺産で有名どころを回った。 建物見るだけで飽きたというロンとハーマイオニーが口喧嘩を始めたが、 いつものように沈静化しては勃発するので流すことに決めた。 夕方近くになると本日開催する夏祭りに参加するために、わざわざ取り寄せてくれた浴衣に着替えた。 「ねえ、浴衣の着方ってこれで合ってる?」 「うん、大丈夫!似合ってるよ!」 「ありがとう。」 普段おしゃれをしないせいか、清楚な浴衣姿にギャップを感じる。 おまけにボサボサな髪を上に持って結っている。 ちらりとのぞく首筋から色気を漂わせていた。 一方の男子側は布が薄いやら寒いだろと着慣れない浴衣に体を忙しなく動かしていた。 何だかんだ言いつつ、ハリーもロンも似合ってることに変わりない。 数年ぶりに浴衣に着替えてみて、は懐かしいと思う同時に嬉しい気持ちになった。 まさか、本当に皆と帰って来れるなんて―――しかも、友達と初めての旅行だ。 改めてそう思うと胸が躍った。 「(遠い昔にも、同じようなことあったような気がする・・・・・・)」 ハッキリと思い出せないが、 それはとてもいい思い出であったと、は根拠のない確信を持っていた。 *** すっかり日が暮れた空の下で太鼓や笛の音が響く。 多く入り混じる人に紛れ、達は一件ずつ屋台を見て回っては、 たまに圧巻の声を出したりした。 「ねえ、中に入ってるのって本物?」 「まさか!」 「ほら、早く早く!」 パンと渇いた音がした。ロンが撃ったコルク栓は商品を通り越してテントに当たった。 むすっとするロンを横目に、ハリーは見事にお菓子をゲットした。 その後、焼きそばやたこ焼きを食べるのに苦戦したり、 リンゴ飴やチョコバナナでお腹を満たした。 「これ、うんまい。」 「ロン、食べすぎよ。」 「だって、滅多に来れないんだぜ?忘れない内にたくさん食べた方がいいだろ?」 ロンはもぐもぐとハムスターのように頬袋を膨らませた。 ロンらしいなと苦笑している中、 ハーマイオニーがぼんやりと光を灯す提灯を見上げている姿を目にした。 「このライト、きれいね。この催しもそうだけど、この国で見てきた全てが素晴らしいわ。」 「気に入ってくれた?」 「ええ、日本は和風だけでなく、外からの文化も取り入れてるのもいいわ。  またここに行きましょう。これっきりじゃなくて―――。」 ハーマイオニーの言葉にハリーとロンも頷いた。 すると、どーんと空から音が轟いた。 「ひょ〜〜〜日本でも花火あげるんだあ。」 「うん、ここのも綺麗でしょ?」 キラキラと咲く花火をしばらく眺めた。 本当に楽しいが、やはり父とも会いたかった。 外せない仕事だと言っていたので仕方ないと頭では言っているが、 流石に心情は嘘をつけなかった。 近場の宿場で久しい畳の香りが鼻をくすぐるも、中々寝付けなかった。 ハーマイオニーを起こさないよう、は外を出た。 「もう〜〜〜一言くらい連絡よこしてもいいじゃんか。  父さんのアホー。」 「あほで悪かったな、あほ娘。」 「え・・・・・・!?」 声がした方へ顔を上げた。 池の水面上に足をつける忍装束の人間がいた。 は驚きながらも、直感でその人物が誰なのかすぐ分かった。 「父さん!」 「静かにしろ。友達が起きるぞ。」 「うう、父さんは意地悪だよ。言ってくれればこっちから迎えに行ったのに・・・・・・。」 「悪かったな、あんまりにも急な仕事が入ったんでな。  久しぶりに話を聞きたいが、そろそろ寝ろ。」 何かを言う前に、蓮はの首元に手刀を放った。 「お前達が無事にイギリスに戻るまで警護するように頼まれたんでな。  まあ、お前のとこの先生もいるから大丈夫だろうがな。  ・・・・・・じゃ、引き続き頼むぜ、―――先生。」 結局、自分たちは大人に見守られていたのだ。 肝心のその先生は一体誰なのか、達が知るのはもっと先のことである。