九月に入り、クィディッチ・ワールドカップの襲撃事件が起こって間もない中、
ホグワーツ特急の車内は相変わらず賑わっていた。
警備は万全だったはずなのにとロンは新聞と睨めっこしている。
「ハリー、また痛むの?傷が・・・。」
ハーマイオニーの言葉を聞いてハリーを見た。
大丈夫だと言いながら傷痕を抑えていた。とても大丈夫そうには見えない。
「シリウスに知らせておいた方がいいんじゃない?
クィディッチ・ワールドカップで見たものと夢のこととか・・・・・・。」
自分の口から言葉に一瞬思った。
今でも生々しく残っているあの夢のことを、
リーマス達に知らせるべきなのかと―――。
「、どうしたの?」
急に黙ってしまった私を怪訝な顔で窺うハリーに、何でもないと首を振った。
私達はリーマスとシリウスの秘密を共有している。いつかは言わなくちゃいけない。
やはり打ち明けるべきだ。最初に初めてできた友人であるハリー達に思いきって話した。
夢のことも、生まれる以前の記憶があることも・・・・・・。
さっきまで静かだったコンパートメントは更に静かになり、
強くなった雨音が一層響いた。
そう簡単に信じてはくれないだろうと思っていたが、
皆は真面目な表情で真剣に耳を傾けてくれた。
「じゃあ、は僕の父さん達の世代の学生だったってこと?」
「多分。」
「でも、本当にそれが生前の記憶とは限らないわよ。
もしかしたら脳による幻覚というのもありえるわ。」
「現実主義だなー。四年間ずーっとそういう夢見てるんだぜ?
昔死んだ魔法使いの魂の記憶が残ってるやつがいるって聞いたことがある。」
「それでも少数派よ。記憶をずっと維持している例がないわ。」
「えっ、そうなの?」
「そうよ!だって、生前の記憶は何年後には消えてしまうんだから。」
流石は知識豊富なハーマイオニーだ。
けれどその話は初耳だ。新たな記憶を思い出しても消えてしまうなんて・・・・・・。
「の前世って、本当に父さん達の友達じゃあないのかな?」
「だったら君のお母さんがどのくらい美人か君に話せられたんだけどなあ・・・・・・。
シリウス達もどんな学校生活を送っていたとか。」
「でもいいよなあ・・・・・・生前ホグワーツに通ってたんならテストなんて楽勝じゃないか。」
「そんなことの為に記憶残したい魔法使いはあなたしかいません!」
ピシャリと返すハーマイオニーの言葉にどっと笑いで包まれた。
場の空気が重くなるどころか、明るく話が弾むのは彼らのおかげだろうか。
話してよかった同時に、ハリー達と出会えたことに大いに喜んだ。
***
ホグワーツの城内が何だか騒がしい。
外を見ればそれが何なのかすぐ理解した。
普段では絶対見られない十二頭の天馬が馬車を引いていたり、
湖から巨大な船が現れたりとかなり興奮した。
「一体何が始まるんだろう!?」
いつもは大人しいネビルも興奮を隠しきれていない。
その答えはダンブルドア校長の言葉にあった。
「皆が落ち着いたところでひとつ知らせがある。
ここは皆の家でもあるわけじゃが、今年は特別なゲストを迎えることになった。
今年のホグワーツにおいて・・・・・・。」
大股でやってきたフィルチがダンブルドアに近づく。
いつもの古臭い服装ではなく、古ぼけた黴臭い燕尾服だ。
皆が何だとじろじろ見ている中、二人は耳打ちしてフィルチは再び玄関ホールへ戻った。
「さて!今年ホグワーツにおいて伝統の催しが行われる。三大魔法学校対抗試合じゃ。
知らない者もおろう。これは三大魔法学校の対抗試合じゃ。
一連の魔法競技種目を各校から一名ずつ代表を選び、競い合う。
選ばれた者は一人で闘うことになる。厳しい競技じゃ・・・・・・柔な者にはこなせぬ。
詳しくは後ほど・・・・・・。さて、ゲストをお迎えしよう。
まずはレディーから―――ボーバトン魔法学校の生徒と校長先生マダム・マクシーム。」
玄関ホールから淡い水色のローブを着た生徒たちが踊るように前進していく。
ロンが一人の女生徒の姿に釘付けになっていると、
フィネガンが後ろから肘打ちした。
「見ろよ。あの校長でけー・・・・・・。」
改めて視線を戻すと、ハグリッドよりも大きい女性が目に映った。
ボーバトンの生徒たちの背丈を軽く超えている。
今まで大きな女性を見たことがない私も思わず見つめてしまう。
「そして北からは―――ダームストラング校の一行と校長カルカロフ。」
先程のボーバトン校の優雅さとは一変し、荒々しいといった雰囲気で入って来た。
その中にあのクィディッチ選手のビクトール・クラムがいて、
ロンはますます興奮した顔でもっと見ようと背伸びしていた。
目の先に金色に輝く木箱が置かれ、ダンブルドア校長が前に出た。
「よいか諸君、一言言うておこう。永遠の栄光が三大魔法学校対抗試合の優勝者に贈られる。
それには三つの課題をやり遂せねばならぬ。三つの極めて過酷で危険な課題じゃ。」
「「すっげー・・・。」」フレッドとジョージは口を揃えた。
「そこでこの度、魔法省は新たなルールを設けた。
それについては国際魔法協力部のバーテミウス・クラウチ氏から説明して頂こう。」
突如天井から響く雷鳴と稲妻が走った。
いつの間にか戸口の側に立っていた体格のある長い暗灰色のまだら髪の男が、
杖の先を天井へ向けた。閃光が迸ると同時に静寂が戻っていった。
傷痕に覆われている顔の片目は、肉眼のものとは違い、
グルグルと左右に絶え間なく動いている。
それが不気味なのか、皆も息を呑んで彼をじっと見据えていた。
「マッド‐アイ・ムーディだ。」誰がそう呟いた。
「アラスター・ムーディ?『オーラ―』の?」
「オーラ―って?」
「『闇祓い』のことだよ。
闇の魔法使いをアズカバン送りにした・・・・・・最近はいかれてるって話だけど。」
ロンは魅入られたように見つめながら囁いた。
ムーディはマントから携帯用酒瓶を引っ張り出して豪快に飲んだ。
「何を飲んでると思う?」
「カボチャジュースじゃなさそうだね。」
ムーディの登場で場の空気が変わったが、
クラウチ氏が軽く咳払いしてようやく話が始まった。
「検討の結果、安全のため十七歳未満の生徒は―――
この度の三大魔法学校対抗試合に立候補することを禁じると魔法省が決定した。
これは最終決定である!」
クラウチ氏の言葉で怒り出した何人かの生徒でガヤガヤ騒ぎ出した。
立候補する気満々であった双子も「冗談じゃない!」と声を上げた。
「静まれー!」ダンブルドアの一声で騒ぎはすぐにおさまった。
ダンブルドアが杖を木箱の蓋を軽く叩くと、大きな荒削りの木のゴブレットが現れた。
その縁から溢れる青白い炎が揺らめいていた。
「『炎のゴブレット』じゃ。トーナメントに名乗りを上げたい者は、羊皮紙に自分の名前を書き、
木曜日のこの時間までに入れるのじゃ。軽い気持ちで入れるでないぞ。選ばれれば後戻りはできぬ。
今この時からトーナメントは始まっておるのじゃ。」