「アラスター・ムーディだ。元闇祓い―――魔法省にもいた―――闇の魔術に対する防衛術担当。
ダンブルドアに頼まれたので引き受けた、以上だ、終わり。質問はあるか?」
静寂しか返って来ないが、ムーディ先生は全く気にしていないようだ。
「闇の魔術に関しては実践教育が一番だと思っている。まずお前達に質問しよう。
『許されざる呪文』はいくつあるか。」
「三つです。」
「その名の由来は?」
「許されないからです。この呪いを使うだけで・・・・・・」
「アズカバンで終身刑を受けるに値する―――よろしい!
この呪いを教えるのは早すぎると言うがそうは思わん!」
ムーディ先生が机を叩くと、皆は顔が強張ったまま飛び上がった。
「戦う相手を知るべきだ!対決に備えて!
チューインガムを貼るなら机でなく、もっとマシなところに貼れ、フィネガン!」
一斉に振り向くと同時に、シェーマスは跳び上がっていた。
「嘘だろ?あいつ、背中に目があるのか?」
驚きを隠せないシェーマスに今度はチョークが飛んで来た。
「耳もすこぶるいいぞ!」
さっきのは『魔法の目』で見ていたのかな・・・?
「さて・・・・・・どの呪いからいく?ウィーズリー!」
「はい・・・・・・。」
「立て。どんな呪文がある?」
「あの、一つパパから聞いたのが・・・・・・『服従の呪文』?」
「おお、お前の父親なら、よく知っているだろう。
魔法省が散々てこずったのだからなあ。てこずったわけを教えてやろう。」
ムーディ先生はガラス瓶の中から黒い大グモを手のひらに載せると、
「エンゴージオ!」と誰もがハッキリと目に映せるサイズまで膨れさせた。
続けて、もう一言呟いた。
「インぺリオ!」
ムーディ先生が杖を振ると、クモは机の上に着地した。
円を描きながら皆の手の甲に着地したりと、笑いに混じって小さな悲鳴が上がる。
頭上にクモを載せられたロンに至っては、早くどこかいってくれと顔を歪めていた。
マルフォイの顔面にそれがくっ付いた時は不覚にも笑っちゃったけど。
「多くの魔法使いがこう言った。
"自分の悪事は全て『服従の呪文』によって、例のあの人に無理強いさせられた"と・・・・・・。
だが果たしてそれが嘘か真か、どう見分ける?さて、あとの呪文は?」
恐る恐る手を挙げる何人かの中に、なんとネビルの姿があった。
『薬草学』以外で挙手するのは今日までなかったのだから尚更だ。
「えっと、あとは―――『磔の呪文』。」
「そう!その通り!来い、さあ、身が竦むぞ・・・・・・。」
この後どうなるか予想がついていたが為、なるべく見ないようにした。
「クルーシオ!」
クモは悲痛の声を上げながら長い脚を折り曲げてはひっくり返り、
ワナワナと痙攣し始めた。
ネビルもそうだが、直接苦しめられているクモが可哀想でならなかった。
「やめろ・・・・・・やめてくれ!」
もう聞きたくない!
両手で耳を塞ぎ、視界をも遮断した。声が聞こえなくなってそっと目を開いた。
ムーディ先生は杖を離していて、弱弱しくなったクモをハーマイオニーの机の上に置いた。
「『許されざる呪文』の最後の一つは?」
ハーマイオニーは首を振った。
分からないからではなく、知っているからこそ発言もしたくないのだろう。
ムーディ先生は気にかけることもなく、杖を振り上げた。
「アバダ ケダブラ!」
緑の閃光が走った途端、耳につくような音がした。
クモは仰向けにひっくり返り、ピクリと動かなかった。
「死の呪いだ・・・・・・これを受けて生き延びたのは、たった一人、今ここにいる。」
魔法の目と共に、ムーディ先生はハリーを見下ろした。
授業の終わりが告げられた今も、先程の嫌な気持ちは重く残っていた。
あの呪文だけは忘れたままでいたかった。
そうすればあんな夢も、見ることなんてなかったはずだ・・・・・・。
***
「永遠の栄光か・・・・・・いいよなあ、僕らもあと三年経てばチャンスがあるのに。」
炎のゴブレッドに羊皮紙を入れていく生徒を眺めていると、
ロンは去っていくその生徒の後ろ姿をじっと見てボソリと呟いた。
「僕より君だろ?」
「ねえ、は?ニンジャだし、持久力とかじゃ君の方が有利だろ?」
「『年齢線』があるから無理でしょ・・・・・・それ以前に私、やろうって思えないな。」
「どうして?」
答えようとしたが、フレッドとジョージが勝ち誇った顔でやって来たことで中断された。
二人の手には『老け薬』。ダンブルドアがその手に騙されるわけがない。
ハーマイオニーも同じ意見である。しかしフレッド、ジョージは聞き流していた。
双子は一滴どころか全部それを呑み込み、線の中へ飛び込んだ。
あれ・・・?何も起きない?
変だなと首を傾げる私をよそに二人が羊皮紙を入れた途端、ジュッという大きな音がした。
二人とも金色の円の外に放り出され、石の床の上に叩きつけられた。
みるみると髪の毛が白くなり、長い顎髭まで生えてきた。
ホールはあっという間に爆笑で包まれた。
そして―――三校の代表選手が決まる今日。
大広間の誰もかれもが、待ちきれない表情で体を揺らしていた。
「着席!」ダンブルドアの一声でガヤは静かにおさまった。
「よいか、待ちに待った時がやって来た代表の発表じゃ。」
周りの灯りが消え始め、『炎のゴブレット』だけが青白く輝いていた。
その炎が突然、赤く燃え始めた。
火花が飛び散った次の瞬間、その炎から焦げた羊皮紙が一枚ダンブルドアの手に収まった。
「ダームストラング代表は―――ビクトール・クラム。」
クラムが拳を上げて立ち上がる。大広間中が拍手の嵐だ。
続いて二枚目の羊皮紙が飛び出した。「ボーバトンの代表は、」
「フラー・デラクール!」
ロンが気にしていたあの人だ。
優雅に立ち上がり、シルバーブロンドの髪をサッと後ろに流す姿は
私から見ても様になっていた。
フラー・デラクールも隣の部屋に消えると三度、『炎のゴブレット』が赤く燃えた。
三枚目の羊皮紙を取り出し、「ホグワーツ代表は、」ダンブルドアが読み上げた。
「セドリック・ディゴリー!」
隣からの大歓声がものすごく上がった。彼なら文句ないといった拍手の渦だ。
ダンブルドア校長も嬉しそうに皆に呼びかける中、突然『炎のゴブレット』が再び赤く燃え始めた。
炎が伸びあがった舌先に羊皮紙を載せている。ダンブルドアが手を伸ばした。
そこに書かれた名前をじっと見た。
長い沈黙が続いたが、やがてダンブルドアが咳払いし、名前を読み上げた―――。
「ハリー・ポッター。」
呼ばれるどころか、『四人目』の代表選手が出て来るなどあるはずがなかった。