話し合いの結果、規則通り、ハリーも代表選手として出場することが決まった。 それからというもの、ハリーに対する周囲の視線がキツくなった。 二年生の頃、生徒を襲ったと疑われたものと同じだった。 「気にすることないよ。」そう呟き、ハリーはぎこちなく頷いた。 ハーマイオニーも一緒に壁となって視線を逸らしている一方で、 ロンは一言もハリーと話さなかった。こんなこと今までなかったのに・・・・・・。 そんなロンが突然、ルーマニアから兄のチャーリーが来ると話し、 ハグリッドの後を追いかけながら一緒に『禁断の森』の奥へ歩いた。 「ハグリッド、見せたいものって?」 「この先行けばわかる。ただ―――俺が見せたってことはだれにも言わねえでくれ。」 「まさか・・・・・・ドラゴン?」 「えっ!?」 「おお、察しいいな、。」 感心して頷くハグリッドの前方から耳を劈く咆哮を聞いた。 これを耳にして、ただの魔法生物ではないと分かる。 けれど、距離があるとはいえ、この目で直接見る巨大な成獣は圧巻だった。 鎖をジャラジャラと鳴らし、大きな炎を吐いた。 ハグリッドと花火を観賞するように見つめると、誰かが地面に落ちた音がした。 その音がした方へ振り向くと、ロンは顔を真っ蒼にして腰を抜かしていた。 「大丈夫?」 「達だけだよ・・・・・・そんな愛しそうにドラゴンを見つめるのは。」 「だって可愛いじゃないか。特にあの子なんか・・・・・・。」 「ロン!何でここにいるんだ!」 厳しい声がドラゴンのいる方から突き刺さってきた。 チャーリー・ウィーズリーだ。 先程ドラゴンが吐いた炎でじんわりときた暖かさに目を細めると、 今度は私に声がかかった。 「も来てたのか・・・・・・代表選手は課題を知らないことになってるのに全く。」 「冗談だろ?第一の課題が・・・・・・ドラゴンなの!?」 ロンの一声に、私はようやく気付いた。 ロンが震えるのは無理もない。ドラゴンの殆どが凶暴と言われ恐れられている。 地方によって独自の進化を遂げたドラゴンがそのもの武器だと言われるほどだ。 チャーリーのようなドラゴン使いでも手に掛かるのだから、 出し抜くだけでも相当骨が折れるだろう。 ただでさえ誤解されやすい魔法生物だというのに、 この場で出されちゃ、ますますドラゴンとの距離がおかれてしまう。 私が言いたいことを悟ったのか、 「何百年もそういう課題を出してきたんだ。そんな顔をしないでくれ。」 とチャーリーが言った。 「そうだ、此間君が送った手紙の返事のことで・・・・・・。」 「あ、今度でいいよ。チャーリーが出せる時でいい。」 「わかった、僕は仕事に戻るよ。君たちも早く寮に戻った方がいいぞ。」 「ああ・・・・・・そうするよ。」 ロンは早くここから立ち去りたい顔で立ち上がった。 正直もっとドラゴンを見たかったが、ここはロンの気持ちを尊重することにした。 「すごかったねえ。」 「うん。」 私が熱弁してあれこれと口にするが、ロンはうん、ああの二言しか返さなかった。 城の中に入り、彼の意識はいずこなロンにもう一度声をかけた。 「ハリーには言うよね?」 「何で僕が?」 「ホーンテールたちを連れてきたのは君のお兄さんでしょ?」 「君が言えば?魔法生物といえばなんだからさ。」 ハリーの名前を言った途端これだ。 ハリーといい、ロンといい・・・・・・・・・・・・ 「言いたいことあるなら直接本人言えよ!」 ぽかんと呆然と突っ立つロンや此方を見つめる絵画の視線を無視して 女子寮へ続く廊下を走っていった。 何で私がイライラしなきゃいけないんだろ。 *** 「トーナメントの三つの課題はいづれもかなり危険なものじゃ。 決して立ち上がったりしないよう常に着席していること――― では、まもなく競技開始じゃ!」 ワッと上がる歓声。 皆が代表選手たちの活躍に悲鳴を上げたり、叫んだり・・・忙しく声を上げる中、 ハーマイオニーはハリーの出番を今かと待っては、不安な色をますます濃くした。 昨日までは嫌な顔していたロンも強張っていた。 クラムが辛くも課題を成し遂げ―――ついにハリーの出番がやってきた。 彼の姿が出て来ると、一斉に歓声が上がった。 しかしそれも束の間、ホーンテールの黒い立派な前脚が出入口の前に飛び出した。 ホーンテールの一つ一つの行動が凄まじく、金の卵を取るどころか、 距離はどんどん離されていく。 ハリーのすぐ側で壊れた岩の破片が飛び散る。 教職員側の席からカルカロフの薄い笑いが飛ぶ。私はギロリと睨んだ。 「ハリー!杖を使って!」 しびれを切らしたハーマイオニーが声を上げた。 その声に応えるようにハリーは杖を上げた。 「アクシオ ファイアボルト!」 ホーンテールの猛攻をギリギリに避けている中、空気を貫いて疾走する音を耳にした。 ハリーは森の端から飛んで来たファイアボルトに跨って、上昇した。 ここで初めてロンが「いいぞ、その調子!」と声を出した。 ハリーは・・・これを聞いているだろうか。 突然宙に舞うハリーを追うようにホーンテールを繋げていた鎖が嫌な音を立てて外れた。 そのままドラゴンを誘導し、ハリー達は城の方へ飛んでいった。 それから、どのくらいの時間が経ったのだろうか。 皆が固唾を呑んで立ち尽くす中、 観衆席の外から小さな黒い点が此方に向かって飛んでくるのが見えた。 その点が近づくにつれて、その姿がハッキリと露わになった。 「来た!来たわ!」 戻って来たハリーはあっという間に傷だらけとなっていた。 ホーンテールの炎にやられたのか、箒が黒い煙を上げている。 ハリーは全速力で突っ込み、無防備になった金の卵を掴んだ。 グリフィンドールはワッと今まで以上に歓声をあげた。 よく見ると、全校生―――スリザリンを除く殆どが総立ちして拍手喝采を送った。 それは寮の場に変わっても、拍手の嵐はおさまらなかった。 さっきまでコソコソ陰口言ってたくせに、なんて気の早い。 ハリーも無事に最初の課題をクリアしたからいいのだけど。 「開けてみろよ、ハリー!」シェーマスが触り回した金の卵を手渡した。 「開けてほしい?」 ハリーがそう言えば皆は一斉に声を上げた。 早く早く!と顔から急かしているのが見える。 金の卵が開いた瞬間、恐ろしく咽び泣きのような声がキーキーと部屋中に響いた。 耐え切れず転げ落ちたハリーが慌ててバチンと閉めた。 そこへ、ロンがびっくりした顔で談話室に現れた。 「今の一体なんなんだ?」 しんと静まり返ると、誰かが気の利いた言葉で、 がやがやといつもの賑やかな室内に戻った。 ロンは真っ直ぐハリーの前へ近づいた。 「自分の名前をゴブレットに入れるなんて―――正気じゃないよな。」 ロンは深刻な口調で言った。 「やっと分かった?僕じゃないって。」 「でも、皆疑ってたよ。陰でコソコソ言ってた。」 「・・・・・・ありがたいね、気が楽になったよ。」 まるで、数年ぶりに対話をしているような感覚だと、私にも伝わって来た。 「僕、ドラゴンのこと知らせてたろ?」 「ハグリッドに聞いたんだよ。」 ・・・ん? 「教えたの僕だよ。ほら、伝言したろ?ハグリッドが君を呼んでるって。 ディーンからシェーマスから聞いたってハーマイオニーが。」 ・・・はあ!? 「あれ、ホントはシェーマスじゃないんだよ。僕からの伝言。 あれで・・・・・・僕の気持ち、通じると思って。」 「そんな、信じないよ、あんなんじゃ。だって意味不明だもん。」 「ハハ・・・・・・そうだね、あの時、僕どうかしてた。」 ロンがおずおずと笑いかけると、ハリーも笑い返した。 「男の子って・・・・・・。」 「ホント面倒くさいね。」 隣でハーマイオニーが呆れた顔をしているのを、振り向かなくても分かっていた。