ホグワーツに入学した一年生はほとんど迷っている。
何せこの学校には一四二もの階段や、
忘れずにジャンプしなければならない階段というのがあるからだ。
けれど私は一度も迷わず、クラスの授業に参加できていた。
断定はできないが、一度通ったことがあるからこそ、だろう。
金曜日の午前授業は魔法薬学だ。
スリザリンと合同授業であってからか、ロンは嫌そうな顔だ。
「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。
そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。
フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、
人の血管の中を這い巡る液体の繊細な力、心を惑わせ、
感覚を狂わせる魔力・・・・・・
諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。
我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、
死にさえふたをする方法である―――ただし、
我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより
諸君がまだましであればの話だが。」
大演説の後はクラス中が一層シーンとなった。
その話を聞いて少し呆けている中、
スネイプ先生が突然、ハリーを呼んだ。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを
加えると何になるか?」
一瞬、何の呪文だ?と訊きたくなるような問いに、完全に我に戻った。
空中に高々と手を挙げるハーマイオニーをチラッと見たが、
ハリーは顔を横に振った。
「ポッター、もう一つ聞こう。
ベゾアール石を見つけてこいといわれたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが再び手を挙げるも、
ハリーは「わかりません。」と答えた。
「ポッター、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」
「わかりません。」ハリーは落ち着いた口調で言った。
「ハーマイオニーがわかっていると思いますから、
彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。
それにつられるかのように、私もクスリと笑んだ。
「ではミス・。代わりに答えなさい。」
「(うぇッ!?)」
まさか私を当てて来るなんて予想だにしなかった。
(口から変な声を出さなかっただけいいけど・・・)
どうしよう・・・私だって分からな―――
"アスフォデルとニガヨモギを合わせると眠り薬になる―――"
「あ、えっと・・・・・・。
アスフォデルとニガヨモギを合わせると眠り薬になって・・・。
ベゾアール石は山羊の胃から取り出す・・・。
あと、モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、
別名をアコナイトとも言いますが、とりかぶとのことです・・・・・・多分。」
自分でも驚くほど、何故自分の口からスラスラと言えたのか不思議でならない。
不意を突かれた表情の後、「その通り。」スネイプ先生が静かに頷く。
「更に付け加えておくが、アスフォデルとニガヨモギの眠り薬は
あまりに強力なため、『生ける屍の水薬』と言われている。
ベゾアール石はたいていの薬に対する解毒剤となる。
どうだ?諸君、なぜいまのを全部ノートに書き取らんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音にかぶせるように、
スネイプ先生が「無礼な態度でグリフィンドールは一点減点」と、
ハリーを見た。
答えられたのに、何だか申し訳ない・・・・・・。
もしかして―――とスネイプ先生を見るが、
魔法薬の授業中、再び声をかけられることはなかった。
「私、目の敵にされているのかな・・・。」
「誰に?」
「スネイプ先生。」
本を開いたまま、魔法薬の授業中であったことを話すと、
ハーマイオニーは少し呆れた表情を浮かべた。
「あなたを指名したのは偶々よ。気にすることないわ。」
「そうだよ。フレッドもジョージもスネイプにはしょっちゅう減点されてるし。
ちなみに。勉強教えてくれる?」
「・・・それに相応しいのはハーマイオニーの方だと思うんだけどな。」
「い、いいよ。別に。」
「まあ!失礼ね!」
そんな会話を交わしていると、
ふくろう達が何百羽と突然大広間になだれ込んで来た。
郵便の時間だ―――。
リーマスが入学祝いにくれたフクロウの『白露』が、私の席に手紙を置いていった。
自分がよく知っている丁寧な字で、宛名が書かれてある。
早速封を開けて、手紙を広げた。
親愛なる
ホグワーツでの生活はどうですか。
君ならすぐに打ち解けれるだろうから、心配はいらないと思うけど。
動物が大好きならハグリッドに会うといいよ。
はしゃぎすぎて皆を困らせないように。
風邪引かないようにね。
リーマス・ルーピン
なんとも彼らしい内容に、思わず苦笑した。
早速羽根ペンを手に取って返事を出した。
今こうして大人しくしているなんて、思ってもいないだろうな。
「ロン!グリンゴッツに侵入があった!」
ハリーが広げている新聞に『グリンゴッツ侵入さる』という項目を見つけた。
闇の魔法使い、または魔女の仕業とされている。
荒らされた金庫は、侵入されたその日にすでに空になっていたらしい。
ハリーは、その日ハグリッドと一緒に訪れていた、と首を傾げていた。