マダム・ポンフリーから大丈夫だと言葉を貰い、マルフォイを医務室に残した。 分身の自分はダンスフロアにはいなかった。もう、寮に戻ってしまったのだろうか。 大理石の階段を上ってギョッとした。ハーマイオニーが泣いていたからだ。 「ハーマイオニー?」 おそるおそる声をかけた。 間をあけて此方を見上げたハーマイオニーの頬は涙で濡れていた。 多分ロンと何かあったんだ。けれど、その点には触れず、大丈夫?と肩を撫でた。 ハーマイオニーは体を震わせてワッと泣きだした。 結局、彼女を宥めて寮に戻ったのは真夜中だった。 泣き疲れてすぐベッドの上で動かなくなったハーマイオニーを確認し、 自分のベッドの下に隠れていた『もう一人と自分』と対面した。 「ハーマイオニーが泣いてたけど、大丈夫なの?」 「今のとこはね。君のとこはどうだった?」 「フラーの妹だからってちょっと気を遣ったけど、話してみると結構いい子だよ。  とても面白い話も聞けたし。」 「へえー。」 「ただ・・・・・・。」分身の私の表情が暗くなった。 「ガブリエルを送った帰りに、スネイプ先生と鉢合わせしちゃって。  その時ちょうどマスクも落としちゃって・・・・・・。」 「えっー!」 肘で小突かれ、サッと両手で口元を抑えた。 ハーマイオニーの体がもぞもぞと動くだけで、起きる気配はなかった。 「そ、それで?どうやってここまで戻って来たの?」 「こっちをじっと見て何か言いそう顔してたけど、『そんなはずない。あいつはもう・・・・・・。』  ってブツブツ言ってどっかへ行っちゃった。  で、寮に入る前にネコに変身して、他の生徒が合言葉を言って貰った後にコッソリ、ね。」 「そっか・・・・・・とりあえず、今日はありがと。」 術を解こうとした同時にあっ!と何か思い出した様子で分身が声を出した。 「一つ、気になることが・・・・・・。」 「何?」 「寮へ戻る前にチラッとスネイプ先生がカル・・・・・・なんだっけ?  ダームストラング校長と会ってたのを見た。  しかも、お互い名前を呼び合ってた・・・・・・。」 二人の名前が出てきたが、いまいちピンと来なかった。 「あの人達、親しかったんだ?それで、気になることって?」 「その校長が何か心配だって、先生は逃げろとかどうとかって・・・・・・。」 「はあ・・・・・・。」 「言いたい事はそれだけさ。引き留めて悪いね。」 「ううん、教えてくれてありがとう。」 分身は安堵の笑みを浮かべると、ポンッと姿を消した。 スネイプ先生とカルカロフ・・・・・・一体どういう繋がりなんだろう? 窓から見える暗い雪景色を一見し、 明日も雪合戦できたらいいなと胸を躍らせながらベッドに潜り込んだ。 ダンスパーティはこれっきりにしたい。 *** 卵の謎を解き、得意ではない水泳でどう生かして課題を成功させるか、 ハリーはあの図書館で対策を練れたようだ。 ただ、肝心の二人がいないことに気になって仕方なかった。 「ロンとハーマイオニーは?」 「えっ、会ってないの?」 「ああ、あの二人どこへ行ったんだ?」 強く不満を露わにしているハリーに、私は脳天を叩きつけられた衝動を受けた。 昨夜、ムーディ先生が「マクゴナガル先生が二人を呼んでいる。」と 図書館で別れてから、一度も二人と会っていない。 マクゴナガル先生が関係しているのであれば大丈夫だろうと思うけれど・・・・・・。 これ以上、ハリーに不安を煽らせないよう口を閉じた。 「いよいよ第二の課題じゃ。  昨夜、代表の諸君はあるものを盗まれた―――大切なものじゃ。  四人から盗まれた四つの"宝"は―――湖の底に眠っておる。  各代表はその"宝"を見つけ、水面に戻ってくること、これだけじゃ。  但し、許された時間は一時間、一時間きりじゃ。  それを過ぎればどんな魔法も役には立たぬ。では大砲の合図でスタートじゃ。」 大砲の音に続き、鰓昆布を呑んで苦しむハリーの背中をムーディ先生が強く押した。 水面下に沈んで一向に姿を見せないハリーに、シェーマスとディーンが言った。 「どうなっちゃったんだ?」 「さあ、よく見えない。」 その後ろでネビルはハリーを殺しちゃった!と頭を抱えた時、 勢いよく飛び出して来たハリーがきれいな弧を描いて再び湖の中へ潜っていった。 皆はワーッと歓声を上げた。 それを唯一見ていなかったネビルに「君の知恵が役立ったよ!」と肩を叩いてやった。 ネビルは本当なのかとぎこちない笑みを浮かべた。 「ボーバトン代表、ミス・デラクールは競技を続けることができなくなった。  ―――よってこの課題は、途中棄権となる。」 三十分も経たない間にフラーは水魔に襲われ、マダム・マクシームに宥められていた。 だが、どうしても湖に戻りたいともがいていた。 四人の大切なもの・・・・・・まさか、と頭に過った時、向こう側から歓声が上がった。 セドリックとチョウ・チャン―――と、クラムとハーマイオニーだ。 (クラムは本気で彼女のことを・・・・・・?) だけど、ハリー達が出て来ない。もうすぐ一時間経ってしまう。 もう一度、フラーを見てみた。 今は落ち着いていて、不安と寒さから来る震えを抑えながら、 水面から妹が出て来ないかと祈ってるように見えた。 「、見て!」 ネビルが指を差した方へ視線を向けた。ロンとガブリエルだ。 フラーはすぐさま駆け寄って、母国語で何かを喋りながらガブリエルの手を掴んだ。 その顔から心底安堵の笑みを浮かべた。 そして数分も経たない内に、ようやくハリーが戻って来た。 (また勢いよく飛び出すとは思ってなかったけど) 「ありがとう―――あなたのいとじち(・・・・)ではなかったのに。  妹、助かりました。ありがとう!」 やって来たフラーはそう言って、身をかがめてハリーの両頬に二回ずつキスした。 それからロンにお礼を言って、ロンにもキスした。 フラーが妹を連れて去ってから「メルシー!」とキスされた頬を撫でていた。 最後までフラーと対面しなくてちょっとホッとした。 「ハリー!大丈夫?凍えてるわ!」 飛び込むように駆けてきたハーマイオニーが自分の毛布を引っ張って、 薄いタオルがかかっているハリーを包んだ。(ロンの横をスルーしていた) さっき痛そうに顔を歪めたけど、まあいいか。 「あなた、勇敢で立派だったわ。」 「でも、ゴールしたのはビリだよ。」 ハーマイオニーはハリーの額にキスした。 「ビリから二番目よ。フラーは水魔(グリンデロ―)に邪魔されてだめだったの。」 はみかみながらも、ハリーの表情に笑みが浮かんだ。 「注もォ〜く!第一位は―――ミスター・ディゴリー!」 ハッフルパフから盛大な歓声が沸いた。 セドリックはやった!と強く拳をあげて満面な笑みを浮かべた。 「『泡頭呪文』は見事であった。」 「ミスター・ポッターは一位を取れたはずじゃが、ロン・ウィーズリーだけでなく、  他の人質をも救けようとした為に後れをとった。  これを考慮し、ポッターを―――第二位とする!実に道徳的行いじゃ。」 きょとんとして、やっと理解できた時には皆の拍手と歓声で包まれていた。 ここでやっとロンとハーマイオニーが一緒になって声を上げていた。 私も負けんと力いっぱい拍手した。 「やった!やったぞハリー!セドリックと同点だ!」