ガタンと音がして目が覚めた。 何なんだと目元を擦りながら体を起こすと、ハーマイオニーの興奮した声が飛び込んできた。 「おはよう。トンクスたちが戻ってきたわ!」 「じゃあ・・・・・・!」 「ええ!」 ハーマイオニーはとびっきりの笑顔を浮かべた。 そこへちょっとげんなり気味なロンが「もう少し声を抑えろよ。」と言いながら入って来た。 また言い合いになるのかと思ったが、ギシッと階段を踏んで軋む音が聞こえると、 二人の視線はまっすぐドアに注がれた。蛇の頭の形をしていた取っ手が回る。 ドアが開いた瞬間、ハーマイオニーはハリーに飛びついた。 「ハリー!大丈夫なの?吸魂鬼に襲われたって。詳しく話して。」 「息ぐらいつかせてやれよ。」 ロンがニヤッと笑いながらドアを閉めた。 ハリーが襲われたと聞いていたが、目立つ傷はなく体調も万全のようだ。 ロンもそうだが、しばらく見ない内に背が伸びている。私より超えそうだ。 「懲戒尋問のことも―――調べたけどひどいわ。  退学にできるはずがないのよ。こんなの不当だわ。」 「ああ・・・・・・不当なことばっかりだね。ここは何なの?」 「本部だよ。」 「不死鳥の騎士団の。秘密組織よ、ダンブルドアが前回『例のあの人』と戦った時作ったの。」 「それ、手紙には書けなかったのかい。」 ハリーの不機嫌さがこれでもかと露わになった。 苛立つのは同然だ。何も知らされていない状況で大嫌いなダーズリー家にずっといたのだ。 「僕だけ夏中何も知らずに―――。」 「書きたかったさ、ほんとだぜ、でも。」 「でも、何?」 「ダンブルドアが何も教えるなって。」 「・・・・・・ダンブルドアが?でも、何で除け者にするんだ?役に立てるのに!  ヴォルデモートの復活を見たのも、戦ったのも、セドリックが殺されたのも見たのは僕だ!」 突然、バシッと大きな音がした。 フレッドとジョージが『姿現わし』したのだ。 「やあ、ハリー。」 「甘ーい声が聞こえた。」 「抑えちゃだめだよ。」 「かいちまえ。」 「大声出して気が済んだら。」 「もっと面白い話聞きたくないか?」 そう言って二人は得意げに笑った。 *** 長い薄橙色の紐でくくりつけた二人の発明品である『伸び耳』を階段から下ろした。 厨房の扉から会話が聞こえてきた。 「ハリーには知る権利がある。そうだろ?  ハリーがいなければ我々はヴォルデモートの復活を知らずにいた。  ハリーは子供じゃない。」 「でもシリウス、大人でもないわ。あの子はジェームズじゃないのよ。」 「君の息子でもない。」 「息子も同然です。他に誰がいるっていうの?」 聞いている途中から、ジニーがやって来た。 するとスネイプ先生の声が聞こえて来た。 「泣かせる親心だ。ポッターは名付け親に似て悪党に育つだろうよ。」 「黙ってろスニべルス。  お前は不死鳥の騎士団だとダンブルドアは言うが知ったことか。  わたしは騙されんぞ。」 シリウスとスネイプ先生はやはり相容れそうにない。 私はがっくりと項垂れた。 「スネイプがいる。」 「いやな野郎。」 「セ・・・・・・スネイプ先生は私たちの味方だろ?」 嫌味を吐くハリーとロンに対し、思わず口を出した。 後からハーマイオニーも続いて「そうよ。」咎めるように言った。 それでもいやな野郎はいやな野郎だとロンはフンと鼻を鳴らした。 すると、じっと見ていたクルックシャンクスが伸び耳にかぶりついた。 ハーマイオニーが制止の声をかけ続けるがやめる様子がない。 ノイズが走り、ついにブチンと切れた。 「君の猫最悪だ。」 「こら、クルックシャンクス!」 結局肝心な本題が聞けず、皆は項垂れた。 少し経ってから、ウィーズリーおばさんが扉から出てきた。 「さ、皆厨房で夕食よ。」 皆が厨房の方へ移動する中、ハーマイオニーとロンはハリーを心配そうに見つめていた。 「あのさ・・・・・・。」ハリーがぼそりと言った。 ハーマイオニーより先に私は口を開いた。 「ハリー、君が怒るのは当然だよ。でも、わかってほしいんだ。  君にも伝えなきゃ!ってダンブルドアに―――。」 「うん、わかってる。」 ダンブルドアの話題に触れたくない様子で、それ以上は言わなかった。 『姿現わし』した双子にウィーズリーおばさんが声をあげていた。 先程まで張りつめていた空気はなく、ハリーを温かく迎えた。 「お腹すいた?」 「大丈夫かい、ハリー。心配したよ。」 「ハリー・ポッター。」 シリウスが腕を広げ、ハリーはその腕の中へ思いっきり飛び込んだ。 強張っていたハリーの表情はとても嬉しそうだった。