「実に異例なことだが、君の尋問はウィゼンガモット法廷で行われるようだ。」 「どうして魔法省が僕を目の敵にするんです?」 「見せてやれ。」ムーディ先生がいった。 「どうせ、すぐ目に入る。」 私はいろんな動物の鼻に変えるトンクスから視線を外した。皆の表情が険しくなる。 隣にいたキングズリーが新聞をハリーに手渡した。 「『嘘ついた男の子』?」 「ダンブルドアも攻撃されてる。」 「ファッジ曰く『心配無用』」 「ファッジは権力にものを言わせて『日刊予言者新聞』に圧力をかけ、 闇の帝王の復活を語るものを扱き下ろしている。」 「何故?」 「ダンブルドアに大臣の地位を奪われるのではと。」 「おかしいよ、まともに考えたらダンブルドアがそんなこと―――。」 「そう、そこなんだ。ファッジは今まともじゃない。 恐怖で心が歪んでしまっている。恐怖は人を追い詰める――― 以前、ヴォルデモートが力を得た時には我々の愛するものが全て滅ぼされかけた。 そのあいつが戻って来たという事実に大臣は正面きって向き合えないんだ。 恐れるあまりね。」 「ヴォルデモートは自分の軍団を再構築しようとしている。 十四年前、奴は膨大な人数を指揮下に収めた。 魔法使いだけでなく闇の生き物もな。今度も同じだ、我々の方も仲間が集って来た。 だが、奴の関心は手下集めだけではない」 シリウスが一度咳払いした。 「ヴォルデモートはあるものを求めている。」 「シリウス。」 ムーディ先生が待ったの声をかけたが、シリウスは言葉を続けた。 「前の時には持っていなかったものだ。」 「それって、武器のようなもの?」 「やめて、もうたくさん!」 ウィーズリーおばさんがカンカンに怒った顔で言った。 「また年端もいかないハリーにこれ以上言うなら、いっそハリーを騎士団に引き入れたら?」 「僕、入りたい!ヴォルデモートの軍団と戦いたい!」 ハリーが飛びつくように言った。 「だめだ。」答えたのはウィーズリーおばさんではなく、リーマスだった。 「騎士団は、成人の魔法使いだけで組織されている。 学校を卒業した魔法使いたちだ。」 口を開きかけたフレッドとジョージの不満顔を見せた。 「危険が伴う。君たちには考えも及ばないような危険が・・・・・・。」 言いかけた所で、もう十分話したと言葉を止めた。 敗北を認め、一人、また一人と皆立ち上がった。 今日も、リーマスと目を合わすことは叶わなかった。 *** 「僕、てっきり騎士団かと思ってた。」 「誰が?」 「、君だよ。」 客間の除染に取り掛かっている中、ロンが言った言葉に作業を中断した。 向こうでまたフレッドがドクシー・キラーをポケットに入れていた。 「前世の君は騎士団をやってたんだ。その記憶も、みんな思い出した! だからここへ来て、本部だって分かった途端、そう思って・・・・・・。」 「まあ、誰でもそう思うよね。」 私は渇いた声で苦笑した。 「リーマスのとこへ戻って全部話したんだ。 先にシリウスがいたから信じてはくれたんだけど。」 「なんだ、よかったじゃないか。」 ロンはそう言うが、私は素直に喜べなかった。 「前世の記憶があるからといっても、今の私は十五歳だ。『守護霊の術』が使えてもね。 私が・ロードヴァリウスなのは昔のことで、今は関係ないってさ。」 「同じ屋根の下で暮らしてる君にも許してくれないのか。 が騎士団だったら僕らも入れてくれってできると思ったのになー。」 ロンは悔しそうに言った。 彼は気付いていないと思うが、リーマスとは会話どころか目を合わそうとしない。 この本部に移住してからほんの挨拶しか交わしていないのだ。 それを真っ先にハーマイオニーが訳を聞かれ、 ひどいと憤慨していたが、自分に彼を責める資格はないと言って止めておいた。 ロンにはまったく悪気はないが、これ以上いたら当たりかねない。 また察しの鋭いハーマイオニーに見られたらロンとの言い争いが起きる。 ロンから側を離れ、飛んで来たドクシーの顔に向けてスプレーを噴射した。 *** ハリーは無罪放免という形で決着ついた。 途中から来たダンブルドアのおかげで有利となったと聞いたが、 肝心のハリーは浮かない顔をしているように見えた。 それから数日が経った。 教科書のリストとのにらめっこが終わると、白露にふくろうフーズをあげた。 「やっ、お邪魔かしら?」 ニンファドーラ・トンクス(名前は言うなと本人が言った)がひょこっと顔を見せた。 やることは全部終えたのでトンクスを部屋に入れた。 ちなみにハーマイオニーとジニーは不在だ。 「この子の羽根きれいね。」 「白露の毛並みの良さは他のふくろうにも負けないよ。」 自分のペットが褒められるのはとても嬉しかった。 白露も嬉しいといわんばりに翼を広げた。 「・・・・・・ねえ。」トンクスは口ごもった。さっきまでの笑みは消えている。 「リーマスがを避けてるのってわたしのせい?」 えっ!?とトンクスの顔を見た。 リーマスとトンクスが微笑ましく会話していたのをたまに見かけるが・・・・・・。 「ああ、気を悪くさせるつもりじゃないの! 二人が一緒に暮らしてたの聞いたから。 仲良くしてほしいし、リーマスもも好きだから。」 ワタワタして手を振るトンクスが一番年上なのに、それが可愛く見えた。 「ううん、違うんだ。私が前世の記憶を持ってるのが原因だと思う。 それを思い出したって言ったから。」 これを何度か打ち明けたので、話すことに抵抗はなかった。 トンクスは興奮を抑えきれない様子で聞き入っていた。 「でも、それってリーマスにとっても嬉しいことじゃない? 姿が変わっても亡くなった旧友とまた会えたわけなんだし。」 「やっぱり、死んだの・・・・・・?」 「が言うロードヴァリウスは爆発四散したってどこぞの奴が言うけど、 その遺体が今も見つからないし、反論できないのが事実ね、申し訳ないけど。」 「いいんだ。」 ハッキリしない事実には残念だが、 トンクスが前世の記憶を持つことに否定されなかっただけ気が楽だった。 リーマスと仲がいいのは私も知ってるし、二人でいる光景も何回か見かけた。 あくまでこの本部内で、だ。 その分、長く同居しているのに何故私と話してくれないのか不満も出て来た。 こんな思いをするなら話すんじゃなかった。 昔の私は、何故記憶を引き継がせようとしたのだろう・・・・・・。 早くホグワーツへ行きたい。