私も含め、皆が楽しみにしていた飛行訓練がついに始まる。 一部が箒に乗って飛んだことがあると自慢する中、 あの勉強熱心なハーマイオニーが、ネビルと同じくらいピリピリしていた。 実際私もハリーと同様に、箒に乗ったことがないのだが、 不思議と不安は一つもなかった。(あれ?同じこと言ってる?) 一声かけようかと思ったが、穴が開くんじゃないかと思うくらい 箒をガン見しているハーマイオニーを見て断念した。 「右手を箒の上に突き出して。そして、『上がれ!』と言う。」 それを合図に、皆が「上がれ!」と叫んだ。 箒はすぐさま飛び上がって私の手に収まった。 なんとも言えないこの懐かしい(・・・・)感覚に思わず笑みを浮かべた。 少し離れた位置にいるハリーも成功していて、 それを横目にハーマイオニーが何度も同じ言葉をかけ続けていた。 「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。  箒はぐらつかないように押さえ、  二メートルぐらい浮上して、  それから少し前屈みになってすぐに降りてきてください。  笛を吹いたらですよ―――一、二の―――」 ところが、先生の唇が笛に触れる前に、 ネビルが思いきり地面を蹴ってしまった。 先生や皆が声をかけるも、 ネビルはコルク栓が抜けたようにヒューッと飛んでいった。 遠く離れていくネビルが再びこちらに戻って来るが、 相変わらず、どうしていいか分からない状態で私達の方に突っ込もうとしている。 マダム・フーチが杖を向けるが、このままでは間に合わない。 「(ごめん、リーマス・・・・・・!)」 皆がネビルに視線を向けているのを幸いに、 私は素早く『印』を組んだ。 ネビルが列に直撃する前に、突然地面から吹き上がる風にバランスを崩した。 けれど、そのまま急降下することなく、ゆっくりと地面に着いた。 先生が首を傾げつつも、ピクリと動かないネビルの上に屈み込んだ。 気絶しているだけで、怪我が一つもないと聞くと、 私はホッと安堵した。 「私がこの子を医務室に連れていきますから、その間誰も動いてはいけません。  箒もそのままにして置いておくように。  さもないと、クィディッチの『ク』を言う前に  ホグワーツから出ていってもらいますよ。」 先生が未だ目を瞑ったネビルを抱きかかえて完全に姿が見えなくなると、 「あいつの顔を見たか?あの大まぬけの。」ドラコ・マルフォイの声に 振り返ると、彼の手にはネビルの『思い出し玉』が握られていた。 他のスリザリン寮生達まではやしたてる光景に、 一瞬、脳裏の奥から『別』の光景が被るように現れ、また一瞬にして消えた。 「マルフォイ、こっちへ渡してもらおう。」 「それじゃ、ロングボトムが後で取りにこられる所に置いておくよ。  そうだな―――木の上なんてどうだい?」 「こっちに渡せって言ってるだろ!」 思わず強い口調でハリーの言葉を被せてしまったが、 一方のマルフォイは全く聞く耳持たない様子で、 樫の木の梢と同じ高さまで舞い上がった。 「ここまで取りにこいよ、ポッター。」と明らかに挑発する マルフォイに、ハリーは迷わず箒をつかんだ。 「ダメ!フーチ先生がおっしゃったでしょう、動いちゃいけないって。  私たちみんなが迷惑するのよ。も何とか言って!」 「・・・・・・もう遅いよ。」 ハーマイオニーが何か言おうとしていたが、 私の顔を見た途端、一瞬強張った様子で口を閉じた。 マルフォイがガラス玉を空中高く放り投げると、 ハリーはマルフォイの側を横切って、 遠く離れたところで素早くキャッチした。 皆が歓声を上げる中、やって来たマクゴナガル先生に ハリーは強制的に後を追うことになった。 陰でせせら笑うマルフォイが目に留まり、 私は近寄って口を開く前に、思い切り平手打ちした。 「お前・・・・・・さっきから一体何様のつもりだ。  もしお前とハリーがちゃんと飛べていなかったら―――  骨折だけじゃ済まなくなるとこだったんだぞ!」 さっきは私の言葉を無視していたマルフォイが、 ようやく私の目を見て、ピンク色に火照った頬を押さえた。 「お、おまえ・・・・・・。こんなことしてただで―――」 「お前の家柄が一体何だって言うんだ。」 ぴしゃりとマルフォイの言葉を押し黙らせた。 私の目か、それともドスの利いた声が怖いのか、 私から視線を逸らせず、硬直していた。 私の思わぬ行動に、他のグリフィンドールやスリザリン寮生達も 動けずにいる。 「マクゴナガル先生が言ってたじゃないか。  どの寮に入っても、一人一人が寮にとって誇りになれと。  お前はそんなことして・・・・・・  他の皆にも、スリザリンの名誉に泥を塗って楽しいか!?  ―――『スリザリンの恥知らずがッ!』 "行動を弁えろ!―――『グリフィンドールの恥知らずがッ!』" 先程と同じように、一瞬別の風景で、同じ言葉を吐いていた場面が フラッシュバックされた。 しかし、そんな私をよそに、あれほど強気でいたマルフォイの目には 戦意喪失したように何かが抜けていた。 マルフォイの肩を持つ気の強そうな女の子のパンジー・パーキンソンも しょぼん、と顔を俯いていた。 「どうしたんですかミス・。何かあったのですか?」 「いいえ、何も・・・・・・。」 私が元の位置に移動すると、皆は我に返ったように自分の位置へ戻った。 ネビルとハリーを除いて授業が再開されたが、 当然、私の気分は晴れなかった。 *** ついにやってしまった・・・・・・。