ドローレス・アンブリッジが高等尋問官に任命されて以来、校則は次々と加えられた。 ホグワーツの予想以上のありさまに改革すべきとかどうとかって・・・・・・。 毎日別の授業には現れ、メモを取りながら回っていく様はもはや監視官である。 前まではいきいきとしていたのに、今はとても窮屈な気分だ。 あの女の性格からして禁断の森まで出向くとは考えにくいが、 レヴァンノンたちを一旦別の場所へ移動させた方がいいな。 そんなある日、トレローニー先生が教師を辞めさせられた。 元からあの先生のことは良く思っていなかったし、好きでもなかった。 だがアンブリッジがしてきた事を思い返すと、流石に同情を抱いた。 「あのいじわるなガーゴイル女。防衛の仕方も教えないなんて。 試験のための勉強じゃないのに。あの女、学校を乗っ取る気よ。」 ハーマイオニーがここまで言うとは、よほど怒っているようだ。 『更に、一連の行方不明事件は悪名高き殺人鬼シリウスブラックの仕業であるとの、 信頼できる証拠を入手しました。』 ラジオからニュースが流れる中、ぼうっと火が燃え上がった音がした。 「ハリー!」シリウスの声だ。 なんと、暖炉の火がシリウスの顔となっている。 「シリウス!何で来たの?」 「手紙を貰ったのでね―――アンブリッジの奴が学校で何を教えてる? 純血以外の者を殺せって?」 「魔法を全然使わせてくれないんだ!」 「そんなことだと思った。 情報によれば、ファッジは君たちに戦闘訓練をさせたくないらしい。」 「戦闘?僕らが魔法使いの軍団を作るとでも?」 「そう思い込んでいる。ダンブルドアが軍団を作って魔法省に楯突く気だとな。 妄想にますます拍車がかかってる。 他の皆は君にこのことを知らせたがらないが、状況は騎士団にとって芳しくない。 ファッジが真実を握りつぶしているが、行方不明者の続出は前の時と似ている。 ヴォルデモートがまた動き出しているんだ。」 「どうしたらいい?」 ガタンと後ろから扉が開く音がした。 「誰か来た、これ以上は力になれん。今のところは、君が自分で乗り切るしかない。」 そう言ってすーっと炎からシリウスの顔が消えた。 沈黙に包まれる中、窓の外から雨の音が激しく響いた。 昔と同じことが起きている―――そう思う度に失った人達が浮かんでは消え、胸をしめつけた。 「本当に復活したのね・・・・・・。自分を守る術を学ばなくちゃ。 アンブリッジが教えないなら、別の人から学ぶわ。」 ハーマイオニーの視線は真っ直ぐとハリーに注がれた。 *** 「むちゃくちゃだよ。僕が教わるだって?いかれてる僕に?」 「いい方に考えろよ。君、あのガマガエルよりましだよ。」 「どうもありがとう。で、誰が来るの?」 「ほんの数人よ。」 あの夜、「先生をやるなら騎士団員だったに頼めばいい。」と言ったハリーに対し、 「私は先生になるほど今は大人じゃないんでね。」と皮肉を込めて言ってやった。 今でも四人一緒に行動しているが、今朝から言葉を交わしていない。 いつ謝ろうかタイミングを模索しつつ、ホッグズ・ヘッドに入った。 「いい所だねえ」ロンが皮肉に言った。 「寂れた店の方が安全だと思って」 それからよく知っている顔が何人も入って来た。知らない生徒も何人かいる。 皆に椅子が行き渡ると、喋り数がだんだん少なくなった。 「えー。」ハーマイオニーはいつもよりも上擦った声で口を開いた。 「あー―――皆さん、私たちには、先生が必要です。 ちゃんとした先生が、実際に闇の魔術と戦ったことのある人が。」 「何で?」 「『何で』?例のあの人が戻ってきたからさ。」 「ハリーの話だろ。」 「ダンブルドアが言ってるわ。」 「ハリーがそう言ったからだろう?でも証拠はあるのかい?」 「セドリックがどんな風に殺されたか話してくれよ。」 ここに来て私は何故こんなにも多く生徒が集まったのか今気付いた。 この内の何人かはハリーから直に例の話を聞けると期待してやって来たのだ。 この会合の目的とはまったく関係のないことを聞いて来た奴らに憤慨した。 すると、ルーナが口を挟んだ。 「守護霊を創り出せるって、ほんと?」 「ええ、見たもの。」 ハリーの代わりにハーマイオニーが答えた。 「すげえ、ハリー!全然知らなかった!」 「あ、あの、バジリスクも倒したんだよ。校長室にある剣で。」 「そうよ。」 「三年の時、吸魂鬼の群れを追い払った―――。」 「去年は、『例のあの人』と戦って、勝ったわ―――。」 「待って!」 「いいかい?」ハリーが言うと、皆はたちまち静かになった。 「そんな言い方をすれば、なんだかすごいことに聞こえるけど、 みんな運がよかっただけなんだ―――無我夢中で、いつも何かに助けられたし―――。」 「謙遜してるのよ。」 「違う・・・・・・謙遜なんかじゃない。実際に闇の魔術に立ち向かうのは、授業とはまるで違う。 授業なら、失敗したらまた明日やり直せる。でも現実は一寸先は闇だ。 殺されるか、それとも自分の目の前で友達が死ぬか、君たちには分からない―――。」 ハリーはまた椅子に座った。ハーマイオニーがおずおずと言った。 「そうよハリー。だからあなたが必要なの・・・・・・。 立ち向かうのよ、あの人に・・・・・・ヴォルデモートに。」 ハーマイオニーの口からその名をハッキリ出したのは初めてだった。 さっきまで感心していた皆から負の空気が漂っていた。 「復活したんだね・・・・・・。」ぽつりと出て来た言葉にハリーは小さく頷いた。 全員の署名を集めると、他の皆は三々五々立ち去った。 「よし、まずアンブリッジに見つからない練習場所を探さなきゃ。」 「叫びの屋敷は?」 「小さすぎる。」 「禁じられた森は?」 「勘弁してよ・・・・・・。」 「ロン、うちの子たちのことを言ってるなら・・・・・・。」 「のペットじゃなくて!」 聞かなくても分かってはいたが、 こう追い詰めてはかわいそうなのでそれ以上は言わなかった。 でも体がこんな軽いのは何故だろう。 「ハリー、アンブリッジにバレたらどうするの?」 「そんなの平気!ふふ、だって、何かわくわくしない?校則を破るのって。」 ロンと同時にハーマイオニーを凝視した。 だって今、ハーマイオニーの口から・・・・・・。 「君・・・・・・誰?本当にハーマイオニー?」 ハーマイオニーはニッコリ笑った。 「とにかく、今日いいことが一つ分かったわね。」 「なんだい?」 「チョウったら、ハリーを見つめっ放し。」 私は思わず、へっ?と間抜けな声を漏らした。 「こんなに分かりやすいのに恋愛には鈍いんだなあ。」とロンの言葉に、 フレッドとジョージから終始からかわれるハメになった。